砥上裕將のデビュー作
2019年刊行作品。第59回メフィスト賞にして、2020年本屋大賞の第三位に輝いた作品である。その他にも、ブランチBOOK大賞2019を受賞、キノベス!2020では第6位にランクイン。2019年に書かれた作品の中でも、特に高く評価された作品の一つである。
- 砥上裕將のデビュー作
- おススメ度、こんな方におススメ!
- あらすじ
- 最もメフィスト賞らしくないメフィスト賞作品
- 喪失と再生の物語
- たった一筆でさえ美しくあるように
- ヒロイン、篠田千瑛の魅力
- コミカライズ版は全四巻
- 映画版の情報はこちらから
- らしくない系のメフィスト賞はこちらもおススメ
なんかもう、フツウに売れすぎてメフィスト賞出身であることが、最近むしろ伏せられているような気がするのだが気のせいだろうか?最近の帯にも1ミリも言及されてないし。
講談社文庫版は2021年に刊行されている。
本作は、横浜流星(よこはまりゅうせい)主演で、2022年10月の映画公開が決まっている。映画を記念した横浜流星バージョンの文庫版はこちら。
作者の砥上裕將(とがみひろまさ)は1984年生まれ。水墨画家という異例のプロフィールを持つ人物である。講談社BOOK倶楽部のこちらの選考者座談会によると応募三作目での受賞とのこと。
オーディオブックのAudible版は声優の白石兼斗(しらいしけんと)による 朗読版。Audible無料体験で読めるので気になる方はチェック。
2023年に続編である『一線の湖』が刊行されている。こちらも良作なのでおススメ!
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
優しい人々の物語を読みたい方、青年の成長物語を読みたい方、ツンデレ系ヒロインが好きな方、水墨画の世界に触れてみたい方、何かに夢中なれることは素敵だなと思う方におススメ!
あらすじ
孤独な日々を過ごしていた大学生、青山霜介(あおやまそうすけ)は、アルバイト先で出会った水墨画の大家、篠田湖山により強引に内弟子にされてしまう。導かれるように筆を取った霜介は、瞬く間にその独自の世界に惹きつけられていく。黒一色のモノトーンの世界。ただひたすらに線を描くことに没入することで、霜介は次第に変わっていく。
ココからネタバレ
最もメフィスト賞らしくないメフィスト賞作品
冒頭にも書いたが、本作は第59回のメフィスト賞受賞作である。しかし、四半世紀の歴史を持つこの賞の歴史にあって、本作ほど「らしくない」受賞作は珍しいだろう。
殺人も起きなければ、これといった事件も発生しない。そもそも謎と呼ぶべき要素もなく、ジャンルとしてミステリに分類できるとも思えない。一芸に秀でていればなんでもアリのメフィスト賞だが、さすがに本作の受賞には驚かされた。
講談社BOOK倶楽部のインタビューでは、応募の動機について砥上裕將はこう答えている。
締め切りがなくて、分量的にもいけそうで、応募から数ヵ月で結果が分かるというのが理由だった気がします。あと、学生時代の友人がメフィスト賞のファンでそのせいで馴染みがあって、送ってみようかなと思いました。
通常の賞であれば、締め切りがあり、発表も年に一回である。メフィスト賞応募時のハードルの低さが今回の受賞を産んだということになる。
喪失と再生の物語
本作の構成は至ってシンプルである。両親を交通事故で失い、深い哀しみと喪失感の中にいる主人公が、水墨画を描くことによって自己の精神の輪郭を取り戻していく物語だ。まさに「線は、僕を描く」なのである。
主人公、青山霜介は両親の事故死から立ち直れず、自らを閉じ込めた「ガラスの部屋」、絶望と虚無の中にいる。そんな彼が、水墨画の巨匠篠田湖山と出会うことで変わっていく。心の底から没頭出来て、寝食を忘れて夢中になれるものに出会えた人生は幸せなものである。この点、以前に読んだ、宮下奈都の『羊と鋼の森』に通じるところがあるかもしれない。
たった一筆でさえ美しくあるように
作者の砥上裕將自身が水墨画家であるため、本作で描写される水墨画の世界は非常にリアルで、魅力的なものになっている。おおよそほとんどの読者に取っては未知の領域であろう、水墨画の世界が本作では実に明快にわかりやすく、その筆致までも想像できるように丁寧に説明されているのだ。
おいそれと誰でも書けるジャンルではないだけに、もっとも自身が得意とする分野で挑んだの大正解だったのではないかと思われる。
なお、講談社の本作特設サイトには、水墨画の道具についての解説が載っているので、併せて読んでおくと参考になるだろう。
講談社的には本作は相当に「推し」の作品なのであろう、無料の小冊子も配布されている。こちらは電子化されていて(無料)、Amazonで配信されているので要チェックである。
ヒロイン、篠田千瑛の魅力
篠田湖山の孫にして、若き天才絵師篠田千瑛(ちあき)の魅力が、本作の中でも際立っている。ものすごい美人で、圧倒的な技術力、大家の孫としての自負心、強い自己主張。霜介と対極のキャラクターとして配置されながら、その個性の違い故に、次第に千瑛は霜介に惹かれ、その実力を認めていく。
霜介の存在そのものが、千瑛の成長の糧ともなっている。好対照の二人が、自身に無いものを相手から吸収しながら絵師としての才能を輝かせていく過程が、読み手をワクワクさせるのだ。
コミカライズ版は全四巻
本作はマンガ版が存在する。なんと連載誌は少年誌の『週刊少年マガジン』!どんだけ期待されてるんだよという感じである。作画は堀内厚徳。
概ね原作に準拠した内容だが、構成が多少変えられている。主人公の両親の事故死が物語の中盤まで明らかにされない。これは読み手の興味を繋ぐための変更だろうか。
マンガ版の良いところは、作中で描かれている水墨画をリアルで見られる点である。西浜湖峰(こほう)と、斎藤湖栖(こせい)の画風の違い。千瑛の画風の変化。藤堂翠山(すいざん)の崖蘭はどんな絵だったのか。これを目で見て理解できるのは嬉しい。
また、千瑛との関係性がより強調された内容になっており、これは少年誌ならではの恋愛要素の付加かな。ツンツンしていたクール系美人が笑うと、ホントにインパクト強いので、どんどんデレていく千瑛さまを見てみたい方は必見である。
映画版の情報はこちらから
主人公の青山霜介役を横浜流星が演じる、映画版の最新情報はこちらから。
他のキャストの情報が気になる!
最後に作者インタビュー記事をいくつか発見したのでこれも貼っておこう。
水墨画の魅力あふれる成長小説 最新メフィスト賞・砥上裕將さん「線は、僕を描く」|好書好日
話題の著者に訊く!「線は、僕を描く」刊行インタビュー!! 「線」から学ぶ、生き抜く力 小説家 砥上裕將 |読書のいずみ |全国大学生活協同組合連合会(全国大学生協連)
悲しみに生きる青年は「線」を描くことで恢復していく――第59回メフィスト賞受賞作『線は、僕を描く』著者・砥上裕將さんインタビュー | カドブン
<砥上裕將インタビュー>一つのことに集中して生きる幸せが世の中にはあると思うんです 『線は、僕を描く』(砥上 裕將/講談社 ) | インタビュー・対談 - 本の話