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『撓田(しおなだ)村事件』小川勝己 横溝正史へのオマージュ作品

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横溝正史ミステリ大賞受賞者が描く本格ミステリ

2002年刊行。2000年に『葬列』で第20回横溝正史ミステリ大賞を受賞してデビューした小川勝己(おがわかつみ)の五作目の作品である。新潮社のハードカバー単行本シリーズ、「新潮ミステリー倶楽部」枠からの登場であった。

新潮文庫版は2006年に刊行されている。

撓田村事件―iの遠近法的倒錯 (新潮文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

横溝正史っぽい、おどろおどろしい系、過疎地の村落を舞台とした作品がお好きな方。岡山県を舞台としたミステリ作品を読んでみたい方。民俗、土俗的な要素が盛り込まれたミステリがお好きな方。小川勝己を読んでみたい!と思っていた方におススメ。

あらすじ

中学三年の春。阿久津智明の平穏な日々は突如として終わりを迎えた。東京からの転校生桑島佳史の無惨な死。その死体は村の伝承を見立てたかのように、下半身を噛みちぎられた姿で発見される。過疎の村に突如として巻き起こった猟奇殺人事件。そして新たな犠牲者が。事件の淵源は30年前にこの村で起きたある出来事にあるようなのだが……。

ここからネタバレ

横溝正史的なガジェットをふんだんに配合

撓田村は「しおなだむら」と読む。岡山県の寒村を舞台とし、古来より続く旧弊やら言い伝えと、現代的な風俗とがバランス良く配合された佳品である。横溝正史的なおどろおどろしさが、今の時代でもアレンジ次第では違和感なく使い物になることを見せてくれた。

小川勝己は横溝正史ミステリ大賞でデビューした作家である。それだけに横溝正史的なガジェットを用いて本格ミステリを書くことには相当な意欲があったのではないだろうか。小川勝己と言えば、ノワール系の書き手という印象が強かったが、こんなのも書けるのかと驚かされた。

視点のばらつきが気になる

『葬列』を読んだときにも感じたのだが、読ませる力はあるのに妙に視点がばらついて落ち着かないのは本作でも改善されておらず残念。

過去の事件を複数絡めてくる構成にしたことでまとまりが悪くなってしまった。刑事役として、主人公の祖父と、藤枝刑事の二人を登場させてしまっために、話が膨らみすぎてしまい、広げた風呂敷を畳むのに苦慮しているように見えた。どうせなら智明視点に絞って書いてみても良かったかな。少年の日の終わりを描いた作品としては、なかなかの出来だけに惜しい。

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