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『そして、ユリコは一人になった』貴戸湊太 『このミステリーがすごい!』大賞、U-NEXT・カンテレ賞作品

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貴戸湊太のデビュー作

2020年刊行作品。作者の貴戸湊太(きどそうた)は1989年生まれ。本作がデビュー作となる。第18回の『このミステリーがすごい!』大賞、U-NEXT・カンテレ賞の受賞作。

【2020年・第18回「このミステリーがすごい! 大賞」U-NEXT・カンテレ賞受賞作】【テレビドラマ原作】そして、ユリコは一人になった (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

U-NEXT・カンテレ賞は、この第18回から新たに設けられた枠で、ネット配信、テレビドラマでの映像化を前提にしている。そのため、本作は2020年3月に関西テレビ(カンテレ)にてドラマ版が放映されている。

テレビでの放映は既に終了しているが、現在はU-NEXTにて配信(31日間無料トライアル実施中)されている。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

学園ミステリ、特にホラーテイストが入ったタイプが好みの方、学園伝説、七不思議系のお話が好きな方、「ユリコ」という名前にピン!と来た方、ドラマ版を既に見ていて、原作も読んでみたいと思った方におススメ!

あらすじ

百合ヶ原高校には「ユリコ様伝説」がある。ユリコの名を持つ生徒は不思議な力で護られ、様々な特権を持ち、学園に君臨する。ただし選ばれるユリコはただ一人。それ以外のユリコは、転校や退学を強いられ淘汰されてしまう。一年生の矢坂百合子は、ユリコの座を巡る争いに巻き込まれていく。最後に残るのは誰なのか。

ここからネタバレ

「ユリコ様伝説」をめぐる学園ミステリ

本作は学校伝説をめぐる学園ミステリである。神戸の私立進学校、百合ヶ原高校を支配する「ユリコ様伝説」が実に魅力的なのである。

ユリコ様に選ばれたものは絶大な力を持つ。その意に染まぬものは悲惨な運命が訪れる。しかし、ユリコ様になれるのは一人だけ。学園に複数のユリコが存在する時は、ただ一人を除いて残りは不幸な形で排除される。ユリコ様の力を行使したいものは、髪形を三つ編みに、セーラー服の下に赤いシャツを着ることでその加護を得ることが出来る。

ちなみに、主人公である矢坂百合子が入学した時点で、学園内に存在したユリコは以下の五名。

  • 矢坂百合子(やさかゆりこ)主人公
  • 筒見友里子(つつみゆりこ)三年生、現ユリコ様
  • 岸ゆり子(きしゆりこ)一年生
  • 松沢佑璃子(まつざわゆりこ)一年生
  • 西島揺子(にしじまゆりこ)一年生

三年生の筒見友里子は現ユリコ様だが、一年に四人ものユリコ様候補が入学してきたことで、その座は安泰ではなくなっている。

「ユリコ様伝説」を支える白百合会

本作で面白いのは「ユリコ様伝説」を陰で支える信奉者の集団、白百合会が存在することである。メンバーは以下の通り。

  • 由利小太郎(ゆりこたろう)二年生
  • 岼子美咲(ゆりこみさき)三年生
  • 高見沢友利夫(たかみざわゆりお)白百合会顧問の化学教師

白百合会の参加条件は、名前がユリコではないものの、姓名のどこかにユリコの音を持っていることである。彼らは歴代のユリコに関わる資料を保存、継承し、ユリコ様には大しては崇敬に近い感情を抱いている。

学園伝説モノはやはり、こうした歴史を継承する謎の組織があってこそ生きてくる。白百合会のメンバーがこれまた変人揃いで良い味を出しているのだ。こういうのワクワクするよね。

文化祭劇と物語を牽引する嶋倉美月

この物語では、ヒロインの矢坂百合子は、ユリコ様候補の一人ではあるものの気弱で引っ込み思案な性格で、周囲の言動に影響されやすい人物として描かれる。

そのためか、実際に物語を引っ張っていくのは矢坂百合子の幼馴染である、嶋倉美月(しまくらみづき)である。美月はユリコ様伝説をオカルトであると一蹴し、その真相解明に乗り出していく。美月が仕掛けた文化祭劇は、本作のクライマックスの第一幕である。ここからの怒涛の展開が痺れるのだ。

三重構造の謎解き編

文化祭劇で美月が告発するユリコ様伝説の真相。しかしその裏には、さらなる黒幕の存在があり、そして最後の最後にもう一つの真実が隠されている。どんでん返しに続く、どんでん返し。多層構造になった謎解き編が面白い。

美月については、最初から謎の解明に積極的過ぎて怪しく、母親の描写も意味深長であっただけに、なんらかの関与はあるのかと思っていたけど、このような末路を辿るとは衝撃的(この学園、屋上から生徒が落ちすぎだと思うけど……)。

エピローグの描写が冒頭のプロローグに繋がる幕の引き方も美しく、綺麗に物語が閉じた印象である。直接の関与者だけでなく、学園の悪意そのものが、長期に渡ってユリコ様システムを維持していたという落とし方も良い。

恩田陸『六番目の小夜子』を想起させられる

余談ながら、代々継承されていく特殊な役割を持たされた生徒、伝説を継承し成就を助ける学園の内部組織、終盤の文化祭劇。と、聞いて恩田陸の『六番目の小夜子』を思い出すのはわたしだけであろうか。

六番目の小夜子(新潮文庫)

六番目の小夜子(新潮文庫)

  • 作者:恩田 陸
  • 発売日: 2015/05/22
  • メディア: Kindle版
 

『そして、ユリコは一人になった』からは『六番目の小夜子』への濃厚なオマージュ色を感じるのである。久しぶりに『六番目の小夜子』を読んでみようかな。

ドラマ版のキャスティングはこちら

まだ未視聴なのだが、ドラマ版の配役一覧はこちら。ドラマ版では主役が美月になっているようで、かなりの改変が入っている様子。U-NEXTで配信しているようなので見てみるつもり。

U-NEXTにて配信(31日間無料トライアル実施中)

嶋倉美月:玉城ティナ
矢坂百合子:岡本夏美
由利小太郎:小越勇輝
岼子美咲:柴田杏花
筒見友里子:天野はな
西島揺子:大原梓
岸ゆり子:中尾有伽
松沢佑璃子:村山優香
高見沢友利夫:平岡祐太

ドラマ版を見終わったら感想追記予定!

 

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