ネコショカ

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佐藤賢一『双頭の鷲』百年戦争の英雄デュ・ゲクランの生涯


佐藤賢一の四作目はお得意の百年戦争モノ

1999年刊行作品。『ジャガーになった男』『傭兵ピエール』『赤目のジャック』に続く、佐藤賢一の四作目である。

双頭の鷲

新潮文庫版は2001年に刊行されている。単行本は単巻で刊行されていたが、文庫化に際して上下巻に分冊されている。長いもんねこの話。単行本では二段組み618頁の特大ボリュームの一作、じっくり腰を据えて読みたいところである。

双頭の鷲〈上〉 (新潮文庫)

双頭の鷲〈上〉 (新潮文庫)

 
双頭の鷲〈下〉 (新潮文庫)

双頭の鷲〈下〉 (新潮文庫)

 

あらすじ

十四世紀のフランス。百年戦争は泥沼の様相を呈していた。フランス軍はポワティエの戦いで黒太子エドワード率いるイギリス軍に大敗。国土の半分を奪われ、国王ジャン二世も虜囚の憂き目を見る。王太子シャルルは市民の蜂起により首都パリすらも追われるのだが、窮地に陥ったその下へ一人の男が駆けつける。容貌魁偉なその男はデュ・ゲクラン。後にフランス最高の名将と呼ばれることになる男だった。

英仏百年戦争の前半戦を描く

本作は英仏百年戦争の前半戦を舞台にした作品で、フランスの英雄デュ・ゲクラン元帥の生涯を描いていく。百年戦争の終盤を描いた、ジャンヌ・ダルクが登場する『傭兵ピエール』はとは対をなす存在と言えるだろう。ちなみに『赤目のジャック』は百年戦争中に起きた中世最大の農民暴動を描いた作品だ。サトケンの専攻は西洋中世史なのだが、この時代が余程得意なのか、思い入れがあるのか。通して全部読んでみると微妙につながりがあるので面白い。

軍事の天才デュ・ゲクランの魅力

 

骨太な歴史群像劇を書かせたら佐藤賢一の右に出る者はそうそういない。貧乏貴族の鼻つまみ者だったデュ・ゲクランは一党の黒犬隊を引き連れ、百年戦争の渦中で栄達を遂げていく。ゲクランの軍事的才能は天才的で、連戦の果てにイギリス軍をほぼフランスから一掃するまでの大戦果を上げる。大元帥にまで上り詰め、フランスの国家的英雄となったゲクランの生涯を、本作では膨大な史料を元に余すところ無く語り尽くす。

無敵の超戦士、戦争の革命児として名を馳せながらも、童子のように天衣無縫な一面を持ち、自らの容貌に生涯コンプレックスを持ち続けるゲクラン。多面的な要素が一人の人間の中に混在する様が丁寧に書き込まれており、たまらなく魅力的な人物としてこの男は描かれている。

脇役キャラも充実!

もちろん佐藤賢一作品なので脇役のキャラクターも十分すぎる程練り込まれている。生涯のライバル、グライー。イギリスの英雄黒太子エドワードとその家臣鉄人チャンドス。兄の天才を認められないオリヴィエ。最後まで行動を共にする股肱の臣モーニ。反目しながらもいつしかゲクランを師と仰ぐようになる王弟アンジュー公ルイ。遠き地から夫の無事を祈り続ける妻ティファーヌ・ラグネル……。魅力的なキャラクターを数え出すときりがない。まだまだ全然書き足りないけど終わらなくなりそうなので先に進もう。

準主役級、シャルル5世と修道士エマヌエル

やたらと個性的な人物ばかりが登場する話なのだが、更に準主役級の登場人物として国王シャルル5世と、修道士エマヌエルの二人が用意されている。シャルル5世は学者肌の王子で、青年時代は全く期待されていなかった人物。ゲクランとの出会いを契機として、有能な王として国を救い後のフランス絶対王政の基盤を築く。一方のエマヌエルはゲクランの従兄弟。兵站や政治周りの交渉を担当。後に猊下と呼ばれる地位にまで駆け上がり国政を動かすまでに至る。

シャルルはゲクランによって運が開け、ゲクランが死ぬと後を追うようにこの世を去る。一方のエマヌエルはゲクランと共に栄達の道を歩むが、後半生では世俗から隠遁し最後まで生き延び、結果的にゲクラン夫婦の墓を守ることになる。ゲクランを陽とするならば、この二人の位置づけは陰であり、表裏をなす対照的な生き様のコントラストの妙が美しい。

ちなみにシャルル5世在位中に一気に優勢となったフランスも、その後はまたしてもイギリスに大敗。戦争終結までには50年の歳月とジャンヌ・ダルクの登場を待たなくてはならなかった。このあたりの事情は『傭兵ピエール』が詳しい。やや恋愛要素が強めだが、物語としての面白さは本書と遜色がない。一風変わった、ジャンヌ・ダルク像が新鮮なのである。

双頭の鷲

双頭の鷲