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『夏のロケット』川端裕人 サントリーミステリー大賞優秀作品賞受賞作

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川端裕人のデビュー作

1998年刊行作品。第15回のサントリーミステリー大賞の優秀作品賞受賞作。作者の川端裕人(かわばたひろと)は1964年生まれで、本作がデビュー作となる。ちなみに大賞は結城五郎の『心室細動』。

川端裕人はこの賞出身の作家としてはかなり成功した作家のひとりと言えるのではないかしらん。二十年作家として生き延びているだけでもすごいのに、改めて作品リストを見てみるとその多作ぶりにも驚かされる。

夏のロケット (文春文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

ロケットが登場する作品。宇宙開発モノが好きな方。弱小組織が巨大な強者に挑む系の熱い作品に心が躍る方。世の中はうまくいかないことも多いけど、それでも前向きに頑張りたい!と思う方。川端裕人の初期作品を読みたい方におススメ。

あらすじ

高校時代を天文部で過ごし、仲間たちと共に手作りロケットの打ち上げに没頭した過去を持つ高野。しかし別々の大学に進み、そして就職という時の流れを経ていくうちに、次第にかつての情熱は失われていく。慌しくも平凡な日々を送る高野だったが、高校時代の旧友たちが本当にロケットを打ち上げようとしていることを知り衝撃を受ける。だが、その打ち上げ計画には、高野には知らされない暗部が隠されていた。

ココからネタバレ

弱者が強者に挑む構図

さて、本作はロケットモノである。そんなジャンルあるのかと言われそうだがあるのだ(断言)。タイトルが超似ているあさりよしとおの『なつのロケット』、野尻抱介の『ロケットガール』、最近の超有名作でいえばもちろん『下町ロケット』があるし、ちょっと前に話題になった森田るいの『我らコンタクティ』もロケットモノと言ってもいいだろう。

一個人や中小企業が、大国や大企業を向こうに回して智慧と努力で奮戦する。物語のフォーマット自体が日本人受けするタイプなのかもしれない。

宇宙事業といえば、日本では宇宙開発事業団か、宇宙科学研究所の独壇場で、企業やまして一個人がどうこうできる状況ではない。それに対して一石を投じたのが本作。巨額の資金と技術力が必要とされてきたロケット開発を、僅か5人でなんとかしてしまおう発想がイカしてる。ローコスト、少人数、既存の技術の使いまわしでロケット打ち上げの準備が着々と進められていくのは爽快だ。

綺麗ごとだけでは終わらない

理論の日高、職人の清水、プロデュースの北見、スポンサーの氷川、そしてスポークスマンとしての高野。5人の天文部の面々は個性豊かに描き出されている。高校を卒業して十数年が経ち、ロケットに賭ける思いも決して純粋なものだけではない。それぞれが理想と打算の狭間で打ち上げに執念を燃やしていく過程がなんとも感動的。

ロケット技術が時としてはミサイル技術と同義であることが折に触れて語られており、物語の中に暗い蔭を落とす。高野のロシア行きのエピソードはやや唐突で強引に思えないでもなかったが、この技術の持つ負の側面を描き出すにはやはり欠かせないところだったのだろうか。物語は一抹のほろ苦さを残して幕が引かれる。本作を単純なハッピーエンドで終わらせなかったところに作者の強いこだわりを感じる。

軍事技術と紙一重である宇宙開発の危うさは、人類が自戒としてこれからも認識し続けなくてはならないことなのだろう。

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