矢野龍王の第二作
2005年刊行作品。『極限推理コロシアム』で第30回メフィスト賞を受賞した矢野龍王(やのりゅうおう)の二作目。
前作の『極限推理コロシアム』は文庫化されたが、本作は文庫化されなかった。ちなみに第三作の『箱の中の天国と地獄』はノベルス版で最初に出て、その後文庫化されている。この違いは何故だろう?純粋に販売実績上の問題なのだろうか。
なお、矢野龍王作品は、その後2007年に『左90度に黒の三角』、2009年に『織姫パズルブレイク』が刊行されたが、その後は新作が書かれていない。
あらすじ
その時、アカシアマンション町家に居合わせたのは9世帯19人。狡知に長けた男が思いついたのは「部屋対抗悪魔人形たらい回しゲーム」。指定時間に該当する悪魔人形を持っていた部屋の住人は全員死亡してしまう。現実に敗者は殺害されていき、次第に精神の平衡を失っていく住民たち。高校生の恭二は否応なくそのゲームに巻き込まれていくのだが……。
「ゲーム」ありきの作品構成
次々と登場人物達が悲惨な死を遂げていく展開のわりには、文章のタッチは至って軽い。本職はパズル職人ってことなので、まず「ゲーム」のシステムありきで物語が作られているように思える。良くも悪くも、パズル感覚、ゲーム感覚で書かれているのが本作の特徴と言える。
生きるためとはいえ、他人を犠牲にしてもいいのか?表面上はいちおう葛藤しながらも、いざとなると階下の部屋に平然と悪魔人形を投げ込む主人公にドン引き。さすがに苦悩が浅すぎるのではないかと思うのだが、本作に対してそんな突っ込みをするのは野暮なのであろう。
ゲームの主催者側が目的を達成するために選んだのがこの方法だというのも、無理矢理過ぎるような……。一万歩譲ってそれはそれでアリとしても、定められたゲームのルールに従ってキャラクターが駒として整然と処理されていき、最後に綺麗に片付いて終了ってのは、まさにパズル的であり、小説として読むにはいささか抵抗が残る。
前作でも感じたけど、ドライなところがこの作家の持ち味なのだろう。展開の描写に臨場感が無く、キャラクター造形に深みもないから感情移入も出来ない。むしろ、読み手がキャラクターに思いを寄せるのを拒んでいるかのような印象すら受ける。