少年検閲官シリーズの一作目
2007年刊行作品。作者の北山猛邦(きたやまたけくに)とは1979年生まれ。デビュー作は2002年刊行、第24回のメフィスト賞を受賞した『「クロック城」殺人事件』である。その後、城シリーズとして『「瑠璃城」殺人事件』『「アリス・ミラー城」殺人事件』『「ギロチン城」殺人事件』を上梓。
講談社を中心に作品を発表してきたこの作家が、初めて東京創元社向けに書いた作品が本作である。ミステリ・フロンティレーベルからの登場。表紙イラストは片山若子であった。
創元推理文庫版は2013年に登場している。
なお、シリーズ二作目の『オルゴーリェンヌ』は2014年に刊行されている。こちらもミステリ・フロンティア枠からの登場だが、未だ文庫化はされていないようだ。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
とにかく北山猛邦が大好きな方、現実とは異なる特殊な世界観を持つミステリを読んでみたい方、片山若子の表紙絵に惹かれた方におススメ。
寡作作家の久しぶりの新刊(当時)
物理トリックの鬼、北山猛邦、久しぶりの新刊だった(当時の話)。あれ、講談社以外から作品が出るのは、ひょっとして初めて?って瞬間思ったけど、そういえば白泉社My文庫の『アルファベット荘事件』があったのだった。ちなみにこちらは未入手。
寡作なのと作風が地味すぎるのとで(トリックは派手なのに!)、いまいち業界の主流には乗れない北山猛邦だけど、個人的には「だがそれがいい」(笑)。寡作なのは現在でも変わらないようだが、年一冊でいいから作品を出し続けて欲しいところ。
あらすじ
書物こそは悪の根元。何人たりとも書物の類を所有することは許されない。隠された書物は見つけられ次第焼かれることになる。日本を旅するイギリス人少年クリスは、とある街で奇妙な事件に遭遇する。相次いで発見される首無し死体の謎。「探偵」と呼ばれ森の中を徘徊する謎の男。そして家々に記された赤い十字印。黒衣の少年検閲官が現れた時、事件の真相が明らかになる。
ココからネタバレ
書物の所有が禁じられた世界で
書物=悪とされ、見つけ次第即焚書。そんな時代が続いて、すっかり書物の存在がこの世から消え失せてしまった世界。テレビ放送も無く、あるのは国家による統制の入ったラジオ放送だけ。極度に情報のコントロールが進んだ社会なので、一般人の犯罪に対しての知識は皆無。たとえ密室殺人やクビキリ殺人が起きても、それを犯罪と認識し得ないという素敵な設定がなされている。いかにも北山作品らしい豪快な条件設定である。
とまあ、期待は高まるのだけど、内容的にはかなり物足りない。今回のあまりにもの凄すぎる「動機」を読み手に納得させようとするのであれば、それなりに作品世界にリアリティというか、重みが必要だと思うのだけど、それって北山猛邦に取って一番不得手な領域なんだよなあ。
物理トリックのオチも、いつもに較べると切れ味は今ひとつ。っていうか、無理だろそれ、バレるだろ(それ言っちゃオシマイなんだけどさ)。もっと大仕掛けなのを期待してしまうのは、ファンの我が儘になってしまうのだろうか。『ギロチン城』クラスの壮絶なトリックをまた見せて欲しいよ。
特殊な状況設定下でのミステリとしてはこのへんもおススメ。