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「卓球場シリーズ」野村美月の初シリーズ全四作をまとめてご紹介


以前バラバラに配信していた、野村美月の「卓球場シリーズ」全四作を一つの記事に統合しました。

野村美月の卓球場シリーズ!

「卓球場シリーズ」は野村美月(のむらみづき)のデビュー作である『赤城山卓球場に歌声は響く』から始まる、全四巻のシリーズ作品だ。作品リストはこちら。

  1. 赤城山卓球場に歌声は響く(2002年2月)
  2. 那須高原卓球場純情えれじ~(2002年7月)
  3. あだたら卓球場決闘ラブソング(2003年1月)
  4. 神宮の森卓球場でサヨナラ (2003年6月)

2002年2月~2003年の6月にかけて刊行されている。表紙、本文イラストは依澄(いづみ)れいが担当している。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

デビュー当時の野村美月作品を読んでみたい方。女の子の仲良しグループが、とにかく楽しくわきゃわきゃする系の作品がお好きな方。卓球が大きな役割を果たす小説作品に興味がある方。合唱愛好家の方。などに強くお勧め。

以下、各巻ごと感想をしていきたい。

ここからネタバレ

赤城山卓球場に歌声は響く

2002年2月刊行作品。「卓球場シリーズ」の一作目であり、野村美月の記念すべきデビュー作でもある。エンターブレインの第3回えんため大賞小説部門最優秀賞に輝いたのが本作。

Amazonの書影があまりにもサイズが小さいので、今回は楽天経由で書影を貼ってみた。


赤城山卓球場に歌声は響く:あらすじ

ある日、突然姿を消した神保華代子。その消息を追って、RHSVO(ロイヤルハーモニースペシャルボイスオーケストラ)の面々が動き出した。華代子の実家を訪れた一行は、群馬県に秘められた恐るべき秘密を知ることになる。赤城山山頂で繰り広げられる壮絶な卓球バトル。愛と友情は恐怖の卓球魔神の陰謀を打ち砕くことが出来るのか。

卓球の力で魔と戦う!

主人公の友達、神保華代子(じんぼ かよこ)は実家の群馬に帰れば、卓球の神に選ばれし姫巫女さま。世界の平和を守るために卓球魔神との戦いのその一命を捧げる。主人公たちも愛と友情の卓球戦士に身をやつし、クラブ活動で培った歌声の力で魔を退ける。不思議な世界になってしまった群馬県と赤城山。ホントに無茶苦茶極まりない設定を、ほのぼのまったりとマイペースで強引に語りきった怪作なのである。

卓球×合唱の力で仲間と戦う!

巫女装束で卓球というコンセプトを思いついた段階で勝ったようなもの。このシリーズでは歌声の力も重要な役割を果たす。主人公たちが歌う「ドナドナ」の女声三部合唱で、邪気を払うという展開も、初読時は「さすがにそれはない」と脱力させられるものの、いつの間にか、ここまでバカバカしいと逆によくぞここまで!と、褒め称えたくなってくるから不思議である。

作者の実体験が反映されている

エピソードや、登場人物には作者の学生時代の実体験が色濃く投影されているようで、楽しくも充実した日々を過ごしたのであろう事が想像出来る。無茶な設定の中で、個々のちょっとしたエピソードに妙なリアリティがあったりするのはそのせいか。

当初はちょっと多すぎ(ヒロイン+八人もいる)かなと思えた登場人物も、書き分けがきちんとなされていたので、混乱することもなくラストまでたどり着くことが出来た。名作とまでは言わないけど、愛すべき佳品ってところかな。

那須高原卓球場純情えれじ~

2002年7月刊行作品。『赤城山卓球場に歌声は響く』に続く、野村美月の「卓球場シリーズ」の続編である。Amazonの書影小さっ!古い作品だからってあんまりだ。エンターブレイン(KADOKAWA)の人、人気作家なんだから初期作品も大事にしてあげてほしい。

那須高原卓球場純情えれじー (ファミ通文庫)

前作は女声合唱団R=H=S=V=Oの皆さんが、「ドナドナ」の歌声で支援効果を上げながら、巫女装束のヒロインが卓球の力で世界の危機を救うという、想像を絶した物語だった。書いている自分でも何だかよくわからなくなる程の無茶な設定であった。

那須高原卓球場純情えれじ~:あらすじ

R=H=S=V=O(ロイヤルハーモニースペシャルボイスオーケストラ)の女子大生三人組は松尾芭蕉ツアーの途中、日光東照宮の眠り猫に導かれ怪しげな扉を開いてしまう。扉の向こうで彼女たちを待っていたのは「救世主」を待ちわびる人々の一群だった。何故か鬼退治をする羽目になってしまった三人は、この地に伝わる哀しい伝説を知ることになる。

変な設定だけど暖かく見守るしかない

前回も変な話だったが、今回もそのあたりの基本路線は変わらない。今回の舞台は那須高原。荒唐無稽な状況設定の中で卓球の力で神様と戦うのも同じ。

いやしかし、どう考えてもこの設定ヘンだよヘン!誰か突っ込む編集者は居なかったのか。主人公まわりの連中が多少イカれているのは百万歩譲ってアリだとしても、今時鬼のたたりを怖れて逃げまどう一般民衆っているのかよ!

野暮な希望ではあるけれど

女の子同士でほのぼの仲良くしている空気感はいいと思うし、感動的なシーンも比較的良い感じに書けているのだが、取り巻く周辺環境があまりに無茶過ぎるので、そこまで感情移入できないのである。このシリーズを読んでいくには、自らのツッコミ力は捨てて、虚心坦懐に本作のほのぼの設定を受け入れるしかないものと考える。

ライトノベルなんだし、奇想天外な設定や展開は当たり前。深く考えなくてもいいんじゃない?という気もするのだが、最低限の納得感は欲しいところ。

連作障害か?

もっともデビュー年の野村美月は「卓球場シリーズ」で二作、続いて『フォーマイダーリン! 』「天使のベースボール 」シリーズと、一年間で四作も書いている(年明け早々、更に「卓球場シリーズ」の続編が出ているので実質五作)。書く側としても、編集者側としても、十分なクオリティコントロールが出来ていなかったのではないかと、思わずにはいられない。

あだたら卓球場決闘ラブソング

2003年1月刊行作品。『赤城山卓球場に歌声は響く』『那須高原卓球場純情えれじ~』「卓球場シリーズ」の三作目。野村美月としては五作目の作品ということになる。

相変わらず書影の解像度が低すぎるけど、Amazon先生何とかして欲しい。

あだたら卓球場決闘ラブソング (ファミ通文庫)

あだたら卓球場決闘ラブソング:あらすじ

紗恵の紹介でビアガーデンでのアルバイトをはじめた朝香。そこで出会った顔も性格も「フツー」の男山田に彼女はかつてないときめきを感じてしまう。それはもしてして恋?彼氏イナイ歴=年齢の朝香に遂に人生の春が訪れたのか。なんとかファーストデートにこぎつけたものの、事態は思わぬ方向に……。平凡そのものに見えた山田には想像を絶する秘密が!?

三作目にしてようやく主人公が活躍

世界の危機を卓球で救う!書いている自分自身わけが判らない不思議設定のこの作品。毎回ありえないと思うのだが、独特のほんわかパワーでなぜか納得させられてしまう。今回はこれまで脇役に甘んじていた主人公(変な文章)が大活躍する。選ばれし戦士となり、人型のまま巨大化しつつパンツ丸みえで巨大ロボットと戦うという悶絶展開。相変わらずぶっ飛んでるなあ。

合唱ファン歓喜の安積黎明高校登場

「あだたら」ってタイトルについているくらいだから今回は福島県が舞台となっている。ちなみに作者は福島出身。知る人ぞ知る話だが福島県はものすごく合唱が盛んな地域で全国最強クラスの団体を数多く輩出している。

今回は作中に郡山の花かつみ女学院(=安積黎明高校)が登場。安積黎明(あさかれいえみ)高校は合唱界のPL学園(←例えが古い)とも言うべき超名門校で全日本合唱コンクール全国大会で27年連続で金賞というすさまじい記録を持っているのだ。

本作では福島県の合唱強豪校の皆さんが「静かな湖畔」を輪唱する中(多分驚異的に上手い筈)、最強魔神が復活する。こんな脱力展開は普通の作家は絶対考えつかない。地元の人か、合唱マニアしか判らないノリだと思うのだけど、個人的には笑い死にしそうになってしまったので評価ポイント☆一個分追加である。ヒロインの名前が浅香なのは、今にして思えば「安積(あさか)」とかけているわけだよね。作者は安積黎明高校の出身者なのだろうか。気になる。

女の子同士がきゃっきゃする小説としても秀逸

もちろんそんなマニアックな隠し味には気付かなくても、本作は十分楽しめる。女の子集団ならではの気安さ。楽しさ。理解しあえる部分。初めてのデートにかける女の子の意気込みの愛らしさなんかは読んでいて非常に微笑ましい。惜しい点を挙げるとすると、楓ちゃんのキャラが弱すぎる点だろうか。RHSVOのメンバーが多すぎる分、新キャラはどうしても扱いが弱くなってしまうのが残念。

神宮の森卓球場でサヨナラ

2003年6月刊行。シリーズ四作目。野村美月としては六冊目の作品ということになる。

『赤城山卓球場に歌声は響く』『那須高原卓球場純情えれじ~』『あだたら卓球場決闘ラブソング』と続いてきた、「卓球場シリーズ」も本巻でついにラストである。

神宮の森卓球場でサヨナラ (ファミ通文庫)

巫女装束姿のヒロインが卓球で世界の危機を救うトンデモストーリーの完結編。最初のうちは、設定があまりにもぶっ飛んでいて、ありえないと思っていたが、いつの間にか慣れているから不思議である。

最後はこれといった強敵も登場せず。一冊まるまるかけてのエピローグ編なのであった。なんとも贅沢な終わり方である。

神宮の森卓球場でサヨナラ:あらすじ

とうとう四年生になってしまったRHSVOの面々。卒論の口頭試問で久しぶりに集まった彼女たちだったがそこで思わぬ噂を聞かされる。華代ちゃんのフィアンセである葛城先生が謎の金髪美人と交際中?真相を確かめるべく尾行を開始した朝香たちだったが、あっさりと密会現場を目撃。謎の美女の正体は?そして伝えられた哀しい事実とは。

幸せな学生時代の終わり

シリーズ最終作の本巻では、登場人物たちの幸せな学生時代の終焉を暖かな目線で描いていく。妬みも無く嫉みも無い、そんないいことばかりの女子集団なんて存在するのかよと思うけど、まあ、それはそれで美しいファンタジーなのだと思って読めばアリである。世の中にはこんな一団が居ても良いではないか。

マイナス感情の出てこない話なので、暗黒系の展開が好きな人には物足りないかな。幸せな学生時代を送った人に、もしくは幸せな学生時代を過ごせなかった人に読んで欲しい一冊(どっちだよ)。オッサン目線で読んでいると、知らず知らずのうちにいつしか目から暖かい水が流れてくるから不思議。追憶の彼方へと誘う、ノスタル波が出まくりなので、意外に年取ってから読むとしみじみとしてしまうのだ。

"文学少女"シリーズ以前の、野村美月最高傑作という評判は伊達ではなかった。これどれくらい作者の実体験が入って居るんだろうね。

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