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『エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談 憑かれた鏡』 ゴーリー選、イラストも描いたホラー短編集


ゴーリーが12のホラー短編をセレクト

2006年刊行作品。ダークな作風で知られる、絵本作家エドワード・ゴーリー(Edward Gorey)が、編集者時代に作品選定、及び、イラストを担当したのが本書。原題は「The Haunted Looking Glass」。解説は濱中利信が担当している。

河出文庫版は2012年に刊行されている。

エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談 ---憑かれた鏡 (河出文庫)

ちなみに、単行本時のタイトルは『憑かれた鏡 エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談』だったのが、文庫化の際に『エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談 憑かれた鏡』と改められている。主題と副題が入れ替わっているのだ。ゴーリーの名前を前面に出した方が売れるだろうとの判断だろうか?

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

ヴィクトリア朝~20世紀初頭を舞台としたホラー作品を読んでみたい方。挿絵作家としてのエドワード・ゴーリーの仕事を見てみたいい方。海外の古典的なホラー作品に興味がある方におススメ。

あらすじ

「出る」と評判の幽霊屋敷。不条理な死。ふしぎな体験。遠方からの招かれざる客。過去からの因縁。死体にまつわる忌まわしい記憶。とある地方の恐るべき伝承。古い邸宅に潜むなにか。願いをかなえてくれる魔法のアイテム。夢の中の怪異。驚異の呪法がもたらす因果。エドワード・ゴーリー自身がセレクトし、イラストも手掛けた12編のホラー作品をまとめてアンソロジー集。

ここからネタバレ

以下、各編を簡単にご紹介。

空家(The Empty House)

A・ブラックウッド(Algernon Blackwood)作。訳者は小山太一。

近所でも評判のゴーストハウス。かつて馬丁が女中を殺した因縁の屋敷を訪れることになったトムとジュリア叔母。興味本位で訪れたその場所で、二人は身の毛もよだつ恐怖を知る。

「出る」とわかっているのに、用もないのにわざわざ出かけて、散々な目に遭って帰ってくるという王道パターン。古典的な幽霊屋敷モノ。純粋に家に憑いているタイプの幽霊。突然聞こえる足音。いきなり消える蝋燭の火。再現される惨劇の記憶。なまじ因果応報とか理由がついているより、相手が誰であろうが、問答無用で出てくるタイプの幽霊の方が個人的には怖ろしく感じる。

八月の炎暑(August Heat)

W・F・ハーヴィ(William Fryer Harvey)作。訳者は宮本朋子。

うだるような八月のある日。画家のジェイムズは、とある男が被告として裁かれる未来を予見する。一方で、石工のアトキンソンは、意図せずしてジェイムズの墓碑銘を刻んでいた。碑に刻まれたジェイムズの死亡日は今日!その後二人の運命は……。

ラストシーンではアトキンソンに「まだ」殺意は垣間見られない。ただ気が狂ってしまいそうな暑さがそこにはある。息詰まるような緊張感が最高潮に達したところで、破滅的な未来を暗示しながら物語は唐突に終わる。決定的なシーンをあえて描かない、この終わり方は好き。

信号手(The Signalman)

C・ディケンズ(Charles John Huffam Dickens)作。訳者は柴田元幸。

トンネルを出たところにある、鉄道の詰所で働く信号手と知り合った私。信号手は再三訪れる、不思議な亡霊からの警告に怯えていた。亡霊からの知らせは事故を予言したものなのか。果たしてその正体は。

本作に収録されている作家の中で、一番の大物はやはりこのディケンズだろうか。本作も、有名な短編作品だと思う。亡霊だと思っていた人物が、実は信号手自身の未来視によるものだった。信号手は事故が起きる未来を予想できていたのに、自らにふりかかる災いからは逃げられないのだ。

豪州からの客(A Visito from Down Under)

L・P・ハートリー(Leslie Poles Hartley)作。訳者は小山太一。

ひと山当て、オーストラリアから久しぶりにイギリスに戻ってきた実業家のランポールド氏。そんな彼に、怪しい男ジェイムズ・ハグバードが訪ねてくる。オーストラリア時代のふたりにいったい何があったのか。

オーストラリア時代に殺した相手が、イギリスまで戻ってきて復習を果たす。オーソドックスな因果応報譚。お話としてはあまり面白くないが、マザーグースの二つの歌、「オレンジとレモン」「木の実とサンザシ」が良いスパイスになっている。

十三本目の木(The Thirteenth Tree)

R・H・モールデン(Richard Henry Malden)作。訳者は宮本朋子。

古い友人の邸宅に宿泊することになった私。16世紀に建てられたこの屋敷では、直系の男子が続かずに必ず絶えてしまうのだという。眠りに就いたわたしは、そこで、この家にまつわる陰惨な過去を知る。

過去に起きた悲劇を、現代パートの登場人物たちが解き明かしていくタイプのホラー作品。いまここで起きているさまざまな異常事態が、いずれも過去の事件に符号している。謎のピースが集まる過程で、次第に事件の謎が明らかになっていく。

死体泥棒(The Body Snatcher)

R・L・スティーヴンスン(Robert Louis Stevenson)作。訳者は柴田元幸。

とある町の酒場。飲んだくれのフェティーズは、ドクター・マクファーレンという男の来訪を知り血相を変える。若き日のふたりが重ねた呪うべき犯罪。ふたりが犯した罪はが、やがて白日のもとに曝されることとなる。

『宝島』『ジキル博士とハイド氏』で知られるスティーヴンスンのホラー短編。タイトルが既にネタバレな件。大学医学部の死体解剖教室に、新鮮な死体を調達することで富を得ていた男二人の因果応報話。罪の意識になやまされ続ける二人と、追いかけてきた若き日の罪の証。ラスト一行で示されるオチが良い。

大理石の軀(Man-Size in Marble)

E・ネズビット(Edith Nesbit)作。訳者は宮本朋子。

新婚の私は、妻のローラと共に、とある地方の一軒家に移り住む。使用人のミセス・ドーマンの怯え、そして退職。この家に隠された秘密は何なのか。そして、諸聖徒の日。二人に悲劇が訪れる。

かつてこの地域で悪行をなした二人の男。今では大理石の像として教会に収められている二人が、一年に一度だけ、外に出て災いをもたらす。どう考えても、大理石の像がやって来るだろうと想像がつくのに、ノープランで出かけて最悪の結果を招いてしまう主人公のアホさ加減がなんとも微妙。

判事の家(The Judge’s House)

B・ストーカー(Abraham "Bram" Stoker)作。訳者は小山太一。

マルコム・マルコムソンは、周囲の雑音に悩まされず勉強ができる場所を求めて、ベンチャーチの街を訪れた。彼はそこで理想的な屋敷に巡り合い、即座に家を借り受けることを決める。しかし、そこは「判事の家」と呼ばれる名うての幽霊屋敷だった……。

B・ストーカーはもちろん『吸血鬼ドラキュラ』で知られるホラー作家。ちょっと呑気で、かなり鈍い主人公が、幽霊屋敷を舐めてかかって酷い目に(というか死ぬ)遭う話。不条理系のホラー大好きだけど、死に方含めて、かなり悲惨で、因果応報系でないだけにちょっと可哀想な気もする。

亡霊の影(The Shadow of a Shade)

T・フッド(Tom Hood)作。訳者は小山太一。

海軍士官のジョージ・メイソンは、北極探検の航海中、不慮の事故で帰らぬ人となる。残された恋人レティの元へ、探検からの生還者ヴィンセント・グリーヴが執拗につきまとい求婚する。ジョージとヴィンセントには何があったのか。

「豪州からの客」と同じスタイル。死者を描いた肖像画が、仇敵を前にして異常な反応を示すお話。ヴィンセント・グリーヴが、ストーカー気味の相当気持ち悪い人物として描かれているので、悪いことしたんだし、こんな仕打ちを受けても仕方ないよねという印象。

猿の手(The Monkey's Paw)

W・W・ジェイコブズ(William Wymark Jacobs)作。訳者は柴田元幸。

ホワイト氏は、インド帰りのモリス特務曹長から「猿の手」を譲り受ける。願い事をなんでも三つ叶えてくれる「猿の手」。200ポンドを与えたまえ!そう願ったホワイト氏は、さっそく200ポンドを手に入れることが出来たのだが……。

エピソード単体としては、この話が一番有名かな。

1つめの願い:200ポンドを与えたまえ!

⇒息子が工場の事故で死に、保証金として200ポンドが支払われる

2つめの願い:息子を生き返らせたまえ!

⇒ゾンビ状態で蘇生

3つめの願い:息子を墓に戻したまえ!

⇒息子が去っていく

願い事が、最悪の形で叶えられていくブラックな展開が堪らない。

夢の女(The Dream Woman)

W・コリンズ(William Wilkie Collins)作。訳者は柴田元幸。

医師の私が知り合った、馬丁、アイザック・スキャチャードは、夜に寝ないで昼間に寝る奇妙な男だった。午前二時になると、かつての妻が殺しに来るのだという。アイザックとその妻の因縁。そしてアイザックの運命は。

独身時代に見た夢。それはナイフを持った女に襲われる夢だった。結婚後、夢で見た女が妻であったのだと気づくアイザック。かつて見た夢は正夢になるのか。男は特に悪いことをしているわけでもなく、どちらかというと妻の方が性悪。それなのに男の方が、殺されなくてはならないという、なんとも不条理なお話。

古代文字の秘法(Casting the Runes)

M・R・ジェイムズ(Montague Rhodes James)作。訳者は宮本朋子。

錬金術師を自称する男カーズウェル。その論文を酷評したエドワード・ダニングに災難が訪れる。それはカーズウェルの呪詛なのか。古代文字の秘法を叱咤エドワードは、懸命の反撃を試みるのだが……。

ラストエピソードは、呪詛と呪詛返しの物語。タイトルの「Casting the Runes」からもわかる通り、ルーン文字を使った呪詛が登場する。呪いをかけられたエドワードが、その呪いを返そうとするシーンは、ちょっとドキドキする。

ゴーリーの挿絵があると怖さ100倍

以上、『エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談 憑かれた鏡』に収録されている、12編のそれぞれの紹介をザックリとお届けしてみた。古典的な作品が選ばれているので、現在のド派手なホラー作品を読みなれている方には、少々物足りなく感じられてしまうかもしれない。

注目すべきは、やはり全編に選者ゴーリー当人のイラストが描かれていることだ。古典的なホラー作品には、ゴーリーの鬱々としたタッチがよく似合う。絵本作家として著名になってからのゴーリー作品しか知らないわたしとしては、挿絵作家時代のゴーリー作品をもっと読んでみたいと思っていた。それだけに本作はとても楽しく(怖ろしく)読めた作品集だった。

ゴーリー作品の全作紹介ページも作ったよ!