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『ホテル』エリザベス・ボウエンの第一長編作品


ボウエン作品が日本語で読めるようになった

作者のエリザベス・ボウエン(Elizabeth Bowen)は1899年生まれ。アイルランド生まれの小説家。1973年没。

本作『ホテル』は2021年刊行作品。原題は『The Hotel』で1927年の刊行。100年近く前の作品ということになる。ボウエンは生涯に長編を十作書いているが、『ホテル』は最初の作品である。

ホテル (ボウエン・コレクション2)

なお巻末のリストによるとボウエンの長編作品は以下の十作。

  • 『ホテル』The Hotel (1927) 国書刊行会
  • 『最後の九月』The Last September (1929) 而立書房
  • 『友達と親戚』Friends and Relations (1931) 国書刊行会
  • 『北へ』To the North (1932) 国書刊行会
  • 『パリの家』The House in Paris (1935) 晶文社
  • 『心の死』The Death of the Heart (1939) 晶文社
  • 『日ざかり』The Heat of the Day (1949) 晶文社
  • 『愛の世界』A World of Love (1955)  国書刊行会
  • 『リトル・ガールズ』The Little Girls (1964) 国書刊行会
  • 『エヴァ・トラウト』Eva Trout (1968) 国書刊行会

ボウエン作品の邦訳はあまり進んでいなかった。しかし、近年、国書刊行会の「ボウエン・コレクション」シリーズや、晶文社、而立書房などから相次いで刊行が進み全ての長編作品が日本語で読めるようになっている。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

エリザベス・ボウエンの作品に興味のある方。第一次世界大戦と、第二次世界大戦の間の時期。戦間期の時代に興味がある方。夏のリゾート地を舞台とした小説作品を読んでみたい方。20世紀初頭のイギリス文学に触れてみたい方におススメ。

あらすじ

1920年代。イタリア、リヴィエラ海岸に建つとあるホテル。ここではさまざまな人々がそれぞれの余暇を過ごしている。シドニー・ウォレンは22歳。彼女は年の離れた未亡人ミセス・カーに心惹かれる。独身の牧師ジェイムズ・ミルトン。魅力的なロレンス三姉妹。退役軍人のデュペリエ大佐夫妻。老若男女が集うリゾート地で繰り広げられるひと夏の物語。

ココからネタバレ

戦間期の物語

『ホテル』は1920年代を舞台とした物語である。第一次世界大戦と第二次世界大戦の間、戦間期(inter-war period)と呼ばれる時代だ。戦間期は第一次世界大戦終結(1919年)から、世界恐慌の始まりまで(1929年)が前半期。その後の第二次世界大戦勃発(1939年)までを後半期に分けることが出来る。

『ホテル』は戦間期の前半を舞台としているだけあって、第一次世界大戦の影響を随所に見ることが出来る。登場人物の一人、ヴィクター・アメリングは第一次世界大戦の後遺症に悩んでいる。共同墓地には大戦の死者たちが眠っている。パーティの場面で女性の方が多いとさりげなく書かれているのも、戦争の影響だろう。健康な若い男性が少なかった時代なのだ。

本作は1927年刊行作品なので、当時としてはリアルタイムに世相を描いた作品だったのではないかと想像できる。

歪な疑似親子関係

『ホテル』のヒロインは22歳のシドニー・ウォレンである。彼女は医師志望。両親は亡く、従姉妹のテッサ・ペラミーに同行してこのホテルに滞在している。シドニーは、滞在客の一人、ミセス・カーに魅力を感じ積極的に声をかける。しかし、ミセス・カーのリアクションは控えめだ。シドニーの親愛の情に対して、誠実に応えているようには見えない。

ミセス・カーには息子のロナルドがいて、物語の中盤から登場する。ミセス・カーとロナルドの親子関係は希薄なもので彼らはほとんど一緒に暮らしたことが無い。しかし、ミセス・カーはシドニーに対してのあてつけなのか、ホテルにやってきたロナルドにかつてない親密さを見せる。ミセス・カーの振る舞いは無自覚というか、天然の気配がありタチが悪い。

シドニーは、ミセス・カーに対して疑似的な母親像を仮託していたかのように見える。しかしその思いは報われない。ミセス・カーに振り回されている点で、シドニーとロナルドは疑似的な姉弟のようでもある。

ミルトンの求婚とその結果

英国国教会の教区牧師ミルトンは43歳で独身。彼はホテルに到着するなり、セレブ客であるピンカートン閣下の未亡人が借り切っている浴室を無断で使用。周囲を困惑させる残念な中年男性として描かれる。これまでに恋愛の経験はなし。そんな彼がいきなりシドニーにプロポーズをしてしまう。

紆余曲折の果てに、シドニーはなんとこのプロポーズを承諾する。この時代でも21歳差のカップルは珍しいケースなのではなかろうか。シドニーがこの結婚を受諾したのは、ミセス・カーのつれないリアクションへの反動があったのではないかと推測できる。シドニーは保護者的な存在を求めてミセス・カーへの接近を図ったものの、その願いはかなえられない。その時近くにいた年長者男性がミルトンだったわけである。

もちろん二人の関係は長続きしない(ミルトンが可哀そうすぎる!)。ミセス・カー、そしてミルトン。二人の保護者的な存在との別離を通じて、シドニーは人間的な成長を遂げられたのであろうか?

現代人の視点から読むと、戦間期の物語からは独特の切なさを感じる。未曽有の世界大戦を生き延び、つかの間の余暇を楽しんでいる彼らだが、その未来には世界恐慌があり、第二次世界大戦が待ち構えている。シドニーやミルトン、そして登場人物たちのその後に思いを馳せてしまうのである。

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