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『トリニティ・ブラッド』吉田直 未完の大作、全12巻+αを一気にご紹介


吉田直、未完の大作

「トリニティ・ブラッド」シリーズは2001年~2004年に、角川スニーカー文庫から刊行されていたライトノベル作品だ。作者の吉田直(よしだすなお)は1969年生まれ。1997年に『ジェノサイド・エンジェル 叛逆の神々』にて第二回のスニーカー大賞を受賞者し、作家としてのデビューを果たした。

残念ながら2004年に34歳の若さで早逝されている。そのため「トリニティ・ブラッド」も未完に終わっている。

「トリニティ・ブラッド」は二つのシリーズに分かれる。

  • トリニティ・ブラッド R.A.M.:通称R.A.M.。角川書店のライトノベル誌「ザ・スニーカー」に掲載された短編作品。R.A.M.はRage Against the Moonsの略。全6冊。

  • トリニティ・ブラッド R.O.M.:通称R.O.M.。文庫書下ろしの長編作品。R.O.M.はReborn on the Marsの略。全6冊。

R.A.M.とR.O.M.が相互にそれぞれの作品世界を補完し、「トリニティ・ブラッド」の物語は構成されている。他ではあまり見られない形式だ。

イラストはTHORES柴本(トーレスしばもと)が担当。THORES柴本のプロデビューはこの「トリニティ・ブラッド」である。THORES柴本の美麗なキャラクターイラストは、「トリニティ・ブラッド」人気の大きな要因となっている。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

ゼロ年代のスニーカー文庫を代表する作品を読んでみたい方。教皇庁、巡回神父、異端審問官、吸血鬼、こんなワードに興味のある方。世界史好きの方、世界史上の有名都市がお好きな方。THORES柴本のイラストがお好きな方におススメ。

ここからネタバレ

まずはR.A.M.の全六巻から。

『トリニティ・ブラッド Rage Against the Moons フロム・ジ・エンパイア』

あらすじ

未曾有の大災厄により崩壊した文明社会。僅かに残された人類は、突如出現した吸血鬼と呼ばれる異種知性体との抗争に明け暮れていた。一見無害な好青年、教皇庁の巡回神父アベル・ナイトロードの真の姿は派遣執行官"クルースニク"。人類圏を脅かす数々の陰謀に彼は巻き込まれていく。ヨーロッパ各地で繰り広げられる数々の死闘を描く。

トリニティ・ブラッド Rage Against the Moons フロム・ジ・エンパイア (角川スニーカー文庫)

昼行灯主人公、アベル・ナイトロードのキャラが良い!

2001年4月刊行作品。本作は吉田直の出世作である「トリニティ・ブラッド Rage Against the Moons」(略称R.A.M.)の一冊目。「ザ・スニーカー」に掲載されていた三つの短編に書き下ろし一編を加えた構成となっている。

冒頭にも書いたが、このシリーズはR.A.M.の系統とは別に、Reborn on the Mars(略称R.O.M.)の系統がある。R.A.M.は雑誌発表の短編がメイン。一方のR.O.M.は書き下ろし主体でR.A.M.よりも数年先の話を描く大河長編型(それでも一巻ごとに一応の決着は付くけど)となっている。従ってR.A.M.の一巻である本書はもっとも初期のお話ということで、キャラクター紹介中心の顔見せ興行的なエピソードが続く。

普段はおちゃらけ君だけど、やる時はやりますよ型の昼行灯主人公ってのは、ありがち過ぎる設定だけど、うすらぼんやり⇒ピンチ⇒実は凄腕の執行官、って流れはカタルシスを効果的に醸し出す手法としては便利なのだろう。それにしても、イラストの格好良さとギャップがありすぎ。中世的な世界配置と、高度文明社会の遺産が混在する世界にはそれなりに魅力的。メディチ家だとか、ローゼンクロイツだとか中二感漂うネーミングも、今こうして読むとイイ!ではないか。

『トリニティ・ブラッド Rage Against the Moons II サイレント・ノイズ』

あらすじ

アルビオンで発見された子供の吸血鬼。その謎を追ってアベルはとある島を訪れる「ネバーランド」。バルセロナで相次ぐ連続テロ事件。その背後に隠された恐るべき陰謀「サイレント・ノイズ」。薔薇十字騎士団の次なる破壊目標はローマ。目前に迫った危機をアベルは防ぐことが出来るのか「オーヴァーカウント」。他一編を収録。

トリニティ・ブラッド Rage Against the Moons II サイレント・ノイズ (角川スニーカー文庫)

"ダンディ・ライオン"登場巻

2001年12月刊行作品。Rage Against the Moons(R.A.M.)の二巻目。四編のエピソードを収録。最初の三編は雑誌「ザ・スニーカー」の掲載作品。最後の一編のみ書き下ろし。R.A.M.の基本構造として最初の三編は、独立しながらも一応のつながりをもった連作短編になっていて、最後の一編だけ独立したエピソード「ユーグ編」になっている。「ユーグ編」は今後R.A.M.の四編目をずっと追いかけていくと話がつながる仕掛け。

新しい派遣執行官"ダンディ・ライオン"ことレオン・ガルシア・デ・アストゥリアス神父は獄中から登場。ケレン味があってなかなか良い。いきなり登場した美人シスター、ノエルをあっさり一回こっきりの使い切りにする気前のよさもグッド。とにかくバタバタと無惨に人間が死んでいくのも、いかにもこの手の活劇小説らしい。ツボをしっかりと心得た筆の運びには安心が持てる。

『トリニティ・ブラッド Rage Against the Moons III ノウ・フェイス』

あらすじ

新教皇庁についての重要な情報を握る人物を保護するためケルンを訪れたアベルの災難を描く「ミッドナイト・ラン」。自らの理想のために教皇庁を裏切った派遣執行官ヴァーツラフ・ハベルの物語「ジューダス・プリースト」「ノウ・フェイス」。一族の仇を追い求めるユーグの彷徨を描く「ガンズ・アンド・ソードズ」の四編を収録した短編集。

トリニティ・ブラッド Rage Against the Moons III ノウ・フェイス (角川スニーカー文庫)

シスター・パウラの存在感

2002年8月刊行作品。Rage Against the Moons(R.A.M.)の三冊目。短編で構成されているR.A.M.シリーズなのだが、こうして巻を重ねてみると、エピソードは時系列的に連続していることがよく判る。R.A.M.1(顔見せ)⇒R.A.M.2(新教皇庁誕生)⇒R.A.M.3(新教皇庁崩壊)といった流れ。四編目のユーグ編も刊行順で話がつながっている点は同様。

今回の個人的なイチオシは「死の淑女」こと異端審問局副局長のシスター・パウラちゃん。なにもそんな露出派手なコスチュームで戦わなくても……。全然地味じゃないところがポイント大。ダメダメに描かれてきた、傀儡教皇のアレッサンドロ君が頑張る気を見せているところもなかなかよろしいのではないかと。

『トリニティ・ブラッド Rage Against the Moons IV ジャッジメント・デイ』

あらすじ

新教皇庁への内通の疑いをかけられた枢機卿カテリーナ・スフォルツァ。異端審問にかけられた彼女を救うためアベルたちは奮闘する「レディ・ギルティ」。北方の地エストニアへと落ち延びた新教皇庁の残党たち。彼らの持つ"智天使"を追い求め派遣執行官たちの戦いは続く「ブレイヴ・ハート」「ジャッジメント・ディ」。そして一族の仇を追い求めるユーグの彷徨を描く「ハウル・オン・ジ・エッジ」。四編を収録。

トリニティ・ブラッド Rage Against the Moons IV ジャッジメント・デイ (角川スニーカー文庫)

教皇庁ネタが面白い

2003年3月刊行作品。Rage Against the Moons(R.A.M.)の四冊目。アルフォンソ・デステの反乱に始まる、新教皇庁ネタは思っていたよりも長く続いていて、R.A.M.シリーズのメインストーリーとも言うべきエピソードになっている。どうせ教皇虜囚までやってくれたのだから、本格的な教会分裂とか、宗教改革ネタまでやってくれると世界史ファンとしては嬉しかったのだけど、デステ君レベルの小物にそれを期待するのは無理か。

ユーグ編はそろそろ大詰め。仇の正体は最初からバレバレなんだけど、裏切られる前に気付けよ。いい加減彼には楽になって欲しい。次の巻当たりで、ラスボス対決なのではないかと予想。

『トリニティ・ブラッド Rage Against the Moons V バード・ケージ』

あらすじ

ボヘミア公女と派遣執行官レオンのローマでの逃避行を描いた「ロマン・ホリディ」。枢機卿カテリーナの屋敷に現れた突然の襲撃者。アベルは彼女を守りきれるのか「バード・ケージ」。"魔導士"と"人形使い"、薔薇十字騎士団の二人の魔人が乗り込んだ客船で起きたとある事件を描く「ラジオ・ヘッド」。最後の敵にたどり着いたユーグ、その凄絶な死闘を描く「ブロークン・ソード」。四編を収録。

トリニティ・ブラッド Rage Against the Moons V バード・ケージ (角川スニーカー文庫)

作者の生前に刊行された最後の作品

2004年1月刊行作品。Rage Against the Moons(R.A.M.)の五冊目。作者の吉田直は2004年7月15日に急逝しており、生前に刊行された最後の作品となっている。作者としては無念だろう。これから終盤の盛り上がりに入ろうとしているところだっただけに読者としても残念でならない。

今回は比較的つながりの薄い四編を収録。それぞれ別の話の補完&伏線バラ撒きエピソードになっているのではと予想。ユーグ編は遂に完結している。

『トリニティ・ブラッド Rage Against the Moons VI アポカリプス・ナウ』

あらすじ

歴史の陰で暗躍し続ける薔薇十字騎士団。その活動の策源地を急襲すべく、教皇庁は六人もの派遣執行官をゲルマニクスの古都ヴィエナへと送り込んだ。しかし騎士団内部も一枚岩では無かった。氷の魔女ヒルダは最高幹部ケンプファーの抹殺を企てていたのだ。ヴィエナの反ゲルマニクスパルチザンのテロ活動にも巻き込まれ、アベルたちは窮地に陥る。

トリニティ・ブラッド Rage Against the Moons VI アポカリプス・ナウ (角川スニーカー文庫)

R.A.M.シリーズの最終巻

2004年12月刊行作品。Rage Against the Moons(R.A.M.)の六冊目。まとまったボリュームで出せるのはこれが最後か。おそらくは吉田直の遺作。R.A.M.のシリーズとしては最終エピソードらしいのだが、巻末で公開されているプロットの1/3も消化出来ていない。全てが終わると、時系列的にR.O.M.の一巻に丁度合流する仕掛けになっていたらしい。

これまで描かれてこなかった、謎の大国ゲルマニクスが舞台になっている。架空幻想都市としてのヴィエナ(ウィーン)がこのあとどのように描かれているのか読んでみたかった。どうせならばベルリンも。借り物感が強くて最初の頃は辟易していたけど、歴史上の有名都市が吉田直テイストでアレンジされて出てくるのを読むのが、この頃には楽しくなってきていたのだった。

R.A.M.シリーズのラストを飾るってことなのか、そんなに派遣しちゃダメでしょカテリーナちゃんと突っ込みたくなるくらいオールスターキャストのAx勢揃い状態。これに異端審問官の皆さんが加われば最凶だったろうに。残念ながら派手な展開に突入する前に物語は中断してしまっている。

ここから先はR.O.M.シリーズの紹介となる。

『トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars 嘆きの星』

あらすじ

大災厄によって滅び去った高度文明。数百年の後、異種生命体・吸血鬼との暗闘が続く中、人類はそれでも新たな文明を築きつつあった。辺境の街イシュトヴァーンへ派遣された巡回神父アベル・ナイトロード。そしてロストテクノロジー「嘆きの星」を使い、人類抹殺を目論む吸血侯爵ジュラの野望。アベルはその陰謀を阻止することが出来るのだろうか。

トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars 嘆きの星 (角川スニーカー文庫)

R.O.M.シリーズのヒロイン、エステル登場

2001年2月刊行作品。Reborn on the Mars(通称R.O.M.)の一冊目。Rage Against the Moons(R.A.M.)シリーズの数年後の設定。R.A.M.は短編×4本の構成だが、こちらは長編×1本という構成になっている。あとがき曰く「歴史を語るのがR.O.M.」なのだそうだ。メインストーリーはR.O.M.。バックグラウンド説明用の枝エピソードがR.A.M.という区分と考えて良いのかな。

R.O.M.シリーズのヒロイン、エステルちゃんが登場。教会で育てられた孤児のエステルが、アベルの助けを借りながら、故郷の街イシュトヴァーンの安寧を脅かす吸血侯爵ジュラと対決するというお話。あらかじめR.A.M.1を読んでおくと人間関係が判りやすいのだが、反面ネタバレになってしまう部分もあるので、どちらから先に読むかは判断に苦しむところだ。

吸血鬼=悪なのではないという、後々にまでつながってくる基本コンセプトが早くも提示されていて、この作品が良い人間VS悪い吸血鬼なんていう、単純な勧善懲悪ストーリーで無いことが判る。作品世界に深みをもたらす意味ではなかなか良い設定。どことなく『ヘルシング』で、そこはかとなく『トライガン』の香りが漂ってくるのはとりあえず気にしないでおこう。

『トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars II 熱砂の天使』

あらすじ

枢機卿ミラノ公カテリーナと共にカルタゴの地へと降り立ったアベルとエステル。そこへミラノ公への会見を求める、真人類帝国の勅使メンフィス伯イオンが現れる。吸血鬼の支配する異人種国家から初めて人類にさし向けられた交渉の窓口。しかしイオンは謎の人物に命を狙われ会見は阻止されてしまう。教皇庁は異端審問局をカルタゴに派遣。事態は俄に緊迫の度合いを増していく。

トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars II 熱砂の天使 (角川スニーカー文庫)

エステルが物語を牽引

2001年7月刊行作品。Reborn on the Mars(R.O.M.)の二巻目。故郷を解放して教皇庁の人となったエステルはアベルのお供でカルタゴへ。一応の主役はアベルなのだろうが、このキャラクターとにかく反則級に強い上に世界の秘密の半分を背負ってしまっているため、なかなか動かすのが難しい。ってことで物語を牽引していくのは今後彼女の役割になっていく。

トリブラシリーズには巻頭にワールドマップが掲載されていて、遠未来のヨーロッパ世界が図示されている。イタリアの部分は教皇庁領で、フランスはフランク王国、ドイツがゲルマニクス王国で、スペインはヒスパニア王国と、安易過ぎるだろそれってノリのネーミングがかなり萎える。でもその分、判りやすいから仕方ないのかな。名前聞いてすぐに、場所の見当がつくからな。

ちなみに、異端審問局長のブラザー・ペテロがビジュアル的に『FSS』の誰かに激似であることは、あんまり突っ込んではいけないことなのだろうか。性格はともかく、顔や髪型はヤバイくらいに似ている。「聖騎士の聖衣」もどこかのゲームで聞いたような気が……。いや、そもそも不殺を貫く主人公アベルの諸々の設定が『トライガン』の誰かに酷似しているのも禁断の問いだろうか?

『トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars III 夜の女皇』

あらすじ

勅使イオンへの返礼として、真人類帝国を訪れたアベルとエステル。紆余曲折の末に、首都ビザンチウムにたどり着いた一行だったが、頼りにしていたモルドヴァ公は何者かに殺害され、しかもその嫌疑はイオンに向けられてしまう。一転して逃亡者となった彼らに更なる衝撃が!襲撃者の真の目的は女皇ヴラディカ暗殺だったのだ。

トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars III 夜の女皇 (角川スニーカー文庫)

東ローマ帝国好きにはたまらない

2002年6月刊行作品。Reborn on the Mars(R.O.M.)の三冊目。アベル君とエステルちゃんの世界不思議発見の旅は真人類帝国へ。秘かにビザンティン帝国が大好きで、首都コンスタンティノープルは大々好きな自分としては非常にツボだった一冊。ビザンチウムの街の描写を読んでいるだけで幸せな気分に。

良い点なのか悪い点なのか微妙なところだけど、トリブラってプロットがもの凄く判りやすい。裏切るだろうなって奴は間違いなく裏切ってるし、本当は生きてるんでしょってキャラはやっぱり生きてる。この人、実は※※なんでしょ、って想像も当たり前過ぎるくらいにその通りだったりして、出来ることならもう少し読者の期待を裏切るような捻りが本当は欲しいところ。

お話的には、やはりアベルがまともに動くと話が進めにくいと見えて、エステル、それにイオンの二人が物語を牽引。読み手に近い登場人物の目線で話を進行させるのは正解かな。ラストに真の敵である「01」の存在が仄めかされて、ますます『トライガン』な雰囲気が濃厚に。ひょっとして開き直ってきたのか。

『トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars IV 聖女の烙印』

あらすじ

真人類帝国からの帰還を果たしたエステルは、久々に故郷の地イシュトヴァーンを訪れる。そこで待っていたのは作られた「救世主」への圧倒的な賞賛だった。しかし聖女に祭り上げられた彼女に、帝国の暗殺者バビロン伯シェラザードの魔の手が迫る。なんとか危地を脱したエステルだったが、それは大いなる陰謀の序章に過ぎなかった。

トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars IV 聖女の烙印 (角川スニーカー文庫)

エステルがほぼ主役に

2002年12月刊行作品。Reborn on the Mars(R.O.M.)の四冊目。一年ぶりに故郷に帰ってきたエステルちゃんが、ピンチに次ぐピンチを乗り越えて頑張るお話。完全に扱い的に主人公だなこのキャラ。前巻のイラストで謎の痣も体にあったし、未だ伏せられている出生の秘密はそのうち明らかになってくるのだろう。ペテロ君の存在感が大きすぎるのもあってか、いちおう主役の筈のアベルの出番はやや少なめ。

この巻に限ったことでは無いのだが、「~していなければ~だったであろう」という言い回しが全編通じて異常に多くて気になった。あまりに多すぎるような。。。それから身内に陰謀家が多すぎるのもパターン化してきたな。中途半端に偉い奴は間違いなく裏切ると思っていい。明快でいいといえばそれまでだけど。

『トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars V 薔薇の玉座』

あらすじ

教皇アレッサンドロXVIII世に同行しアルビオン王国を訪れたエステル。永きに渡り王国に君臨した女帝ブリジットII世の危篤を受けて、宮廷では王位継承を巡る焦臭い暗闘が始まろうとしていた。到着早々、テロに巻き込まれたエステルは、王都ロンディニウムを彷徨う中で、自らの出生の秘密を知ることになる。その驚くべき真実とは。

トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars V 薔薇の玉座 (角川スニーカー文庫)

エステルの出生の秘密、ついに判明

2003年7月刊行作品。Reborn on the Mars(R.O.M.)の五冊目。いよいよエステルちゃんの出生の秘密が明らかに。これだけ引っ張ったんだから、さぞかし高貴な身の上なんだろうと思っていたけど、やっぱり王女様だったか。腹違いの姉の名前が、メアリ・スペンサーで人呼んでブラッディ・メアリ(メアリI世とメアリ・スチュワートがかけてあるのではと推測)だったりするあたり、姉妹の王位継承争いの結果を暗示しているわけで、これまた歴史好きならニヤリとしそうなネーミング。

で、シリーズ全編を通じての最終ボスかと思われるカイン君も登場。ますますトライガンの香りが……。こちらもあまりに判りやすいネーミングで逆に衝撃を受ける。そりゃ、アベルのライバルなんだからカインとくるのは当然といえば当然なのだが、ストレート過ぎてビックリした。主役のアベルが悪魔スタイル、仇役のカインが天使スタイルなんてビジュアル設定は、対照の妙は面白かった。

『トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars VI 茨の宝冠』

あらすじ

メアリ・スペンサーは王位を得るために吸血鬼たちの潜むゲットーを急襲する。薔薇十字騎士団の謀略により、出生に纏わる秘密を公表され、アルビオン王女であることが明らかとなったエステル。女王の死は目前に迫り、メアリは遂にエステルの暗殺を決意する。大混乱に陥ったロンディニウム。そんな最中、アベルの眠る棺の前にカインが現れる。

トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars VI 茨の宝冠 (角川スニーカー文庫)

五巻と六巻はセットの内容

2003年10月刊行作品。Reborn on the Mars(R.O.M.)の六冊目。前巻の「薔薇の王座」とは連続したエピソードとなっていて二冊でワンセット。剣を持つ姉メアリと王冠を受け王錫を手にする妹エステル。二冊並べてみるとなかなかに意味深なカバーデザインがイカス。帯によるとシリーズ100万部突破なんだとか。ここまで売れていたとは凄いな。

異母姉妹の王位争いに、超本筋のアベルとカインの死闘、この2エピソードだけでも大変なのに、薔薇十字騎士団が暗躍してたり、吸血鬼兄妹の話も書かなきゃいけないし、アレッサンドロ君の成長描写も入れなきゃならない、ってことで過剰に要素を盛り込みすぎて、話がやや冗長になってしまったのが惜しまれる。お話が込み入ってきているので、このあたりは苦労しているなという印象。

以上、「トリニティ・ブラッド」シリーズ全12巻の感想をお届けした。ここから先は、おまけである。

『トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars VII 極光の牙』

あらすじ

帝国で頻発する誘拐事件。圧倒的な戦闘力を誇る長生種たちが、痕跡も残さず忽然と消えていく。メンフィス伯イオン・フォルトゥナは事件の手がかりを求めて、アルビオンのネバーランド島を目指していた。しかしその途上、正体不明の襲撃者の魔の手がイオンに迫る。それは、長生種の血を吸う長生種という驚くべき存在だった。

「ザ・スニーカー」付録の小冊子があった!

あれ、七巻なんてあったっけ?と思った方は正解。『トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars VII 極光の牙』は、本来Reborn on the Mars(R.O.M.)の七冊目となる筈だった作品。2004年7月に作者の吉田直が急逝したため未完となっていた。かろうじて残っていた完成部分に、その後のプロットを補追して「ザ・スニーカー」2004年12月号の付録として発行されたのが本冊子。僅か31ページのボリュームしか無く、これが遺稿なのかと思うと非常に残念でならない。

これまで狂言回し的な役所を演じてきたエステルだが、前巻までの展開であまりに偉くなりすぎてしまったので、この巻では半人前吸血鬼のイオンをメインに据えてストーリーを構築するつもりだったようだ。「トリニティ・ブラッド」の全体的な構想については、この冊子では触れられておらず、それについては2005年刊行の『トリニティ・ブラッド Canon 神学大全』の登場を待つことになる(後述)。

『トリニティ・ブラッド Canon 神学大全』

内容はこんな感じ

十二冊の既刊をもって作者死去により未完に終わったトリニティ・ブラッドシリーズ。文庫未収録の作品三作を収録。そして作者秘蔵の未公開メモ・設定資料をベースに、描かれることの無かった物語の「始まり」と「終わり」を考察。更に緻密な世界設定を用語集の形で補完する。

トリニティ・ブラッド Canon 神学大全 (角川スニーカー文庫)

ファン待望のシリーズ集大成アイテム

2005年刊行。作者である吉田直が昨年急死したことにより、未完のままで終わることになってしまったトリニティ・ブラッドの文庫未収録作品、諸設定などを全収録した一冊。

第一部は「正典」として短編「ガンメタル・ハウンド」「ヒューマン・ファクター」の二作と、絶筆となった「極光の牙」の冒頭部を収録している。ちなみに「極光の牙」の冒頭部は「ザ・スニーカー」2004年12月号の付録として発行された小冊子と内容は同じ。

第二部は語られることの無いままに終わってしまった物語の前史と、今後の物語展開についての解説。口絵部分にはこの設定を元にしたTHORES柴本の書き下ろしイラストが掲載されているのだが、カテリーナが何故か薔薇十字騎士団に入団していたり、教皇アレッサンドロスXVIII世が死んじゃっていたりして衝撃度大。このイラストだけでもかなりの価値がある。

で、第三部は用語集。さすがに12冊も続いた話ともなるとボリュームが違う。この部分だけでなんと200頁もある。こんなのを見せられてしまうと、未完であることが本当に惜しまれてくる。

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