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『月と日の后』冲方丁 国母、ゴッドマザー藤原彰子の生涯を描く

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冲方丁が描く、平安歴史絵巻

2021年刊行作品。作者の冲方丁(うぶかたとう)は1977年生まれの小説家。デビュー作の『黒い季節』以来、エスエフ系統の作品を多く書いているが、2009年の『天地明察』では歴史小説にも挑戦している。『天地明察』はいきなり本屋大賞を受賞してしまい、以後、歴史小説の書き手としても冲方丁は大活躍している。

月と日の后

月と日の后

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PHP文庫版は2023年に刊行されている。文庫化に際して、上下巻に分冊された。文庫版の表紙イラストはアオジマイコ。

月と日の后(上) (PHP文芸文庫) 月と日の后(下) (PHP文芸文庫)

冲方丁の平安モノとしては、2013年刊行で、清少納言と一条天皇の中宮定子の関係性を描いた『はなとゆめ』があるが、本作はそれに続く平安モノ二作目となる。

PHP「歴史街道」による冲方丁へのインタビュー動画はこちら。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

平安時代を舞台とした歴史小説を読んでみたいと思っている方。大河ドラマ『光る君へ』にハマっている方(そしてネタバレされても大丈夫な方←重要)。藤原道長の死後、歴史がどう動いていったのかを知りたい方。紫式部と藤原彰子の関係性に興味がある方。冲方丁の『はなとゆめ』を既読の方におススメ。

あらすじ

藤原道長の娘、彰子は幼くして一条天皇のもとに入内する。後宮では、藤原道隆の娘、中宮定子が帝の寵愛を一身に受け、彰子が割って入るような隙はないかに思えた。しかし、思わぬ運命の変転により、彰子は激動の人生を歩むことになる。七代の御代に渡り、国母として朝廷に君臨。藤原氏のゴッドマザーとして絶大な権力を揮った数奇な生涯を綴る。

ここからネタバレ

藤原彰子が主人公

冲方丁の平安モノ一作目『はなとゆめ』は清少納言(せいしょうなごん)が主人公で、彼女の目線から中宮定子(ていし)を描き、歴史的な文学作品『枕草子』誕生の内幕を描いた作品だった。

そのため『月と日の后』は、それの紫式部パターンなのかな?と思っていたのだけれども、予想は外れて、あくまでも藤原彰子(ふじわらのしょうし)がメインの物語だった。紫式部も登場するが、サブキャラ的なポジションに留まっている。

ちなみに、現在放映されている大河ドラマ『光る君へ』では「さだこ」「あきこ」と訓読みになっているけれど、平安貴族の女性名は、実際にどう呼ばれていたのか史料が残っていないこともあり、一般的に「ていし」「しょうし」と音読みされる。本作でも女性名は音読みで書かれている。

一条天皇から、白河天皇まで七代の御代に君臨

『月と日の后』で登場する天皇はこちらの七名(後ろの数字は在位年)。夫の一条天皇と、冷泉天皇系で、花山天皇の異母弟である三条天皇以外はすべて彰子の血統となる。

  • 一条天皇 986-1011:彰子の夫
  • 三条天皇 1011-1016:
  • 後一条天皇 1016-1036:彰子の子
  • 後朱雀天皇 1036-1045:彰子の子
  • 後冷泉天皇 1045-1068:彰子の孫
  • 後三条天皇 1068-1072:彰子の孫
  • 白河天皇 1072-1086:彰子のひ孫

彰子が入内したのは999年なので、ここから1074年までの75年間が、作中で取り扱われる期間となる。これは相当な長さだ。彰子の父、藤原道長は1028年に没しているので、道長の死後も、彰子は50年にわたって権力の座に君臨したことになる。

これだけの長い期間を描く作品なので、物凄い勢いでキャラクターが登場し、物凄い勢いで死んでいく。天皇以外の男性キャラはほぼ「藤原」だし、女性キャラは確実に「〇子」なので、油断するとあっというまに誰が誰だが分からなくなる。巻末に系図が掲載されているので、混乱したらこちらを参照するようにしたい(というか、これ読み終えるまで存在に気付かない方もいると思うので最初に出して欲しい)。

道長死後の権力闘争が面白い

一般的に歴史の教科書では、藤原道長は三人の娘を天皇に嫁がせ、摂関体制の頂点に立ったことで知られる。その子、平等院を建立した藤原頼通くらいまでは名が知られているにせよ、道長死後にどんな事件が起きたのかはあまり知られていない。藤原道長、頼通父子の次は、歴史の教科書では白河天皇の院政の話になってしまうので、この間の出来事はグッと知名度が下がる。それだけに本作では、なかなか知ることができない歴史上のエピソードを多数知ることができ、とても楽しく読むことができた。

道長の死後は、彼の子どもたち、頼通、教通 、能信らの権力闘争が始まる。道長同様に、娘を天皇に嫁がせて外戚になりたい頼通だったが、彼の娘にはとにかく男子が生まれない。結果として、藤原氏の影響を受けない、後三条天皇による親政がはじまり、その後の白河天皇の時代に続いていく。そして、院政の時代へと変わり、少しずつ藤原氏の権力は衰えていくのだ。

内裏燃えすぎ!

本作を読んで気になるのが、異常なまでの火事の多さだ。とにかく内裏はすぐに炎上し焼け落ちる。三種の神器のひとつである八咫鏡も、実はこの時代の火災で焼けてしまっている。火災の原因は落雷であったり、不審火であったり、原因不明だったりとさまざま。

この時代、災害は神意の現れ、天皇の徳が足りないために起こるともされていたので、内裏が焼けるたびに、メンタルにダメージを受ける歴代天皇の皆さまがおいたわしい。住む場所がなくなってしまうので、内裏が焼けると、天皇は外戚の邸宅などに避難し(里内裏)、これによって新たな歴史が紡がれていく。

ちなみに、現在の京都御所も、もともとは里内裏(土御門東洞院殿)だったりする。

月と日

もともと内向的な性格で、お嬢さま育ちで世間を知らず、道長が命じるままに一条天皇に嫁した彰子が、いかにして国母となり、朝廷に絶大な権力を及ぼすに至るのか。自ら光を発することはない存在。父道長の、夫一条天皇の陰(月)として始まった彰子の人生が転機を迎え、やがて自らが光り輝く陽(日)の存在へと変貌していく。

とても長い期間を扱った作品なので、ひとつひとつのエピソードにかけられるボリュームは少なめ。彰子以外のキャラクターの内面が描かれることもないので、その点は、物足りなく感じる部分もある。ただ、それをいちいちいち書いていたら、物凄い分量になってしまうので、これは致し方のないところか。

それでも夫である一条天皇との関係構築や、腹心の女房である紫式部とのやり取りは十分魅力的に描かれていたので、その点は楽しめたかな。出仕当時、出る杭は打たれるからと、暗愚を装う紫式部は可笑しかった。大河ドラマでのこの先の展開が楽しみになって来た。

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