ネコショカ

小説以外の書籍感想はこちら!
2023年に読んで面白かった新書・一般書10選

『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり

『橡家の伝説』佐々木丸美「館」シリーズのセカンドシーズン

本ページはプロモーションが含まれています


本日ご紹介するのは 佐々木丸美の「館」シリーズの外伝的な作品、『橡家の伝説』である。「館」シリーズについてもネタバレしているので、未読の方はお気をつけ頂きたい。

「伝説」シリーズの一作目

1982年刊行作品。『橡(つるばみ)家の伝説』は佐々木丸美としては12作目の作品になる。

本作は講談社時代は文庫化されなかったので、その後しばらく、手に入れることが困難な時代が続いていた。

 

しかし2007年にブッキングによる復刊版が登場。電子書籍化も行われ、現在では誰でも手軽に本作を読むことが出来るようになっている。

橡家の伝説 佐々木丸美コレクション

ちなみに、橡は「つるばみ」と読む。橡の漢字は、「くぬぎ」でも「とち」でも変換できる。どちらの木の意味でもあるようだが、本作ではいずれを意味しているのだろうか。「くぬぎ」は北海道には生えず、「とち」は北海道でも自生している模様。まあ、本作では苗字として使われているから、あまり深く考えても仕方ないのかな。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

佐々木丸美「館」シリーズを全作読んでいる方。「館」の世界観が好きな方。登場人物たちのその後が気になっている方。佐々木丸美の後期作品に興味がある方。昭和時代に書かれたちょっと不思議なお話が読んでみたい方におススメ。

あらすじ

涼子と哲文は、叔母に会うために車を走らせていた。しかし、いつしか二人は見知らぬレンガ造りの洋館に迷い込んでしまう。館では波路と名乗る美しい女主人と、忠実な召使たちが静かに暮らしていた。未だに会えぬ、前世からの想い人を待ち続ける波路に、涼子と哲文は、彼らの従弟千波の面影を見出すのだが……。

ここからネタバレ

「館」シリーズの涼子と哲文が再登場

本作は、「館」シリーズの外伝、もしくはセカンドシーズン的なエピソードの一冊目である。

「館」シリーズの涼子と哲文が再び登場する。時系列的には『水に描かれた館』『夢館』の間に位置する作品と捉えることが出来る。哲文は医大を卒業してインターンに。涼子は19歳になっている。『水に描かれた館』に出てきた、画商の巴田や、美術館経営者の堂本らも出てきており、「館」シリーズを読んできた人間にとってはお馴染みのメンバーで、親しみやすく読めるのではないだろうか。

逆に言うと、既存の登場人物に関しては説明不足の部分もあり、本作から読み始めるのはあまりお勧めできない。「館」シリーズの三部作を全て読んでから、取り掛かることを強く推奨したい。

過去編と現代編の二部構成

この物語は、二部構成になっている。前半は古い館に迷い込んでしまった哲文と涼子、そして「館」シリーズの千波を思わせる、謎めいた女主人波路の最期を描く物語である。波路は自身に尽くしてくれた三人の奉公人たちの子孫に遺産を残す。

後半では、現代に戻った哲文と涼子と、奉公人たちの子孫を巡る展開となる。三人の奉公人のうち、今回は操の子孫として、霞と渚の姉妹が登場する。おそらくは、全三巻構成で、それぞれの奉公人たちの子孫を登場させていく構想だったのではないかと思われる。

波路の残した遺産は「私が知識として得て力として使用した未知なる転移方法」とされており、時間を転移するための技術なのではないかと想像できる。「館」シリーズの後半からその兆候はあったが、本シリーズは完全にミステリの世界から、SF伝奇的な世界にジャンルを移している。

釈然としない終わり方

操の子孫として登場し、遺産を受け継ぐものとして指名された操だが、大金に目がくらんだ母親の異常なまでの虐待によって精神に失調を来している。姉の霞は、母と共に妹を虐げてきた冷たい美貌の持ち主だが、「館」を訪れたことでその心理には良い影響が出てきている様子。といっても、百戦錬磨の巴田、堂本の悪い男コンビにたぶらかされたら、たいていの十代女子はコロッと騙されると思うが……。

しかしながら、この姉妹の行く末は、本作中では明らかになっておらず、なんとも中途半端なままで終わってしまうのである。このあたりは、続編に期待しろということなのだろうか。

なお、本シリーズの二作目は『榛(はしばみ)家の伝説』がリリースされているので、感想のリンクを貼っておこう。

www.nununi.site

 

他シリーズとの関連性

「館」シリーズが、佐々木丸美のもう一つの主要シリーズ「孤児」シリーズとリンクしていることは『夢館』のレビューでも触れたが、本作では涼子の父親の上司が禾田部長なのであることが仄めかされている。禾田部長は吹原恭介の義理の兄でもあるわけで、こういう隠れた繋がりをニマニマしながら見つけていくのも、佐々木丸美作品の楽しみの一つと言えるだろう。

佐々木丸美作品はほとんどの作品が、何らかの形でリンクしているらしいので、全作読破した暁には、関係図をまとめてみたいものである。

哲文と涼子のフルネームが、二科哲文、雨宮涼子であることも判明。ちなみに叔母さんのフルネームは南条柚美である。

その他の佐々木丸美作品の感想はこちら