『塩の街』『空の中』に続く第三作
2005年刊行作品。『塩の街』が陸上自衛隊、『空の中』では航空自衛隊が登場し、今回の『海の底』では海上自衛隊が登場する。有川浩(ひろ)の最初期の三作、「自衛隊三部作」と呼ばれる一連の作品の最後に登場するのが『海の底』である。
『空の中』に続いていきなりハードカバーでの刊行。当然のことながらイラストは無しと、当時から期待されていたことが良くわかる。
角川文庫版は2009年に登場している。
ゴジラ来襲!みたいな特撮映画的な緊急事態に対して、現在の日本社会はいかにして立ち向かうのか、ってテーマは今回も健在。それぞれの立場で最善を尽くそうとする大人たちがとにかく格好良すぎて泣けるのだ。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
横須賀出身者(笑)、海上自衛隊好きの方、最初期の有川浩(ひろ)作品を堪能したい方、良質なジュブナイル小説を楽しみたい方、『真ゴジラ』みたいな話が好きな方におススメ!
あらすじ
横須賀港に突如として出現した巨大甲殻類の大群。基地解放日中の米軍横須賀基地はパニックに見舞われる。自衛官の夏木と冬原は湾内に停泊していた潜水艦きりしおに民間人の少年少女13名と共に取り残されてしまう。県警はいち早く警備体制を敷くが、警察の装備では甲殻類に歯が立たない。前代未聞の緊急事態に自衛隊出動の機運が高まるのだが……。
ココからネタバレ
警察側の視点
本編は二つの視点が交互に切り替わりながら進行していく形式を取っている。まず一つは警察サイド。多数の殉職者を出し、無数の重軽傷者を出しながら限られた装備故に有効な措置を講じることが出来ないジレンマ。
メンツを捨てて自衛隊出動への捨て石となることを選択するキャリア官僚の烏丸、そしてそれを補佐する叩き上げの警部明石がいい味出している。綺麗事をと言ってしまうのは簡単だけど、かくあって欲しい大人像だろう。
潜水艦の中で
そしてもう一つの視点は。潜水艦に閉じこめられてしまった自衛官夏木・冬原と少年少女たち。こちらは有川版十五少年漂流記。夏木と冬原、二人の大人にヒロインの少女と彼女を目の仇にする少年。複雑な事情を抱えた彼らが事件を通して成長していく姿が丹念に描かれていて、今回も良質なジュブナイルに仕上がっている。
しかしまあ、五年も想い続けてくれて、あまつさえ同じ職場に就職までしてくれるヒロインってのはちょっと出来すぎのような気もするけど、これも男の浪漫ってことで。
横須賀出身者には嬉しい一作!
米軍基地、汐入のダイエー(今はイオンだが)、プリンスホテル(現在はメルキュールホテル横須賀)、横須賀港、不入斗(いりやまず)運動公園、国道16号、京浜急行、入り組んだ谷戸が織りなす丘陵地形、地元出身者としてはすべて馴染みの光景で終始ニヤニヤできる。猿島や第一~第三海堡なんかはザリガニで埋まっていたのかと思うと笑える。実家が沿岸部で無くて良かった。
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