深水黎一郎のデビュー作
2007年刊行作品。第36回のメフィスト賞受賞作品。タイトルの「ウルチモ・トルッコ」はイタリア語で究極のトリックを意味する。作者の深水黎一郎(ふかみれいいちろう)は1963年生まれのミステリ作家。本作『ウルチモ・トルッコ』がデビュー作となる。
文庫版は講談社からは登場せず、河出文庫から刊行されている。この際に、タイトルが『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!』から、『最後のトリック』に改題されている。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
奇想天外なトリックとその真相について迫ってみたい方。切り口の変わったミステリ作品を読んでみたい方。とにかくメフィスト賞作品なら全部読まねば!と思っている方。デビュー当時の深水黎一郎作品を読んでみたい方におススメ。
あらすじ
作家である「私」の元へある日一通の手紙が届けられる。それはミステリー界最後の不可能トリックを用いた「意外な犯人」ネタを高額で買い取って欲しいとの申し出であった。手紙の主は香坂誠一と名乗り、再三にわたり取引を要請してくるようになる。「読者が犯人」。想像を絶した不可能トリックは本当に存在するのか。「私」はその秘密を知り驚愕するのだが。
ここからネタバレ
表紙を見ると犯人の顔が映る装丁!
既にサブタイトルにいきなり物凄いネタバレが書いてある。「犯人はあなただ!」と。カバーを見ると判ると思うけど、表紙部分が鏡のようになっていてぼんやりとではあるが自分の顔が映るようになっているのだ。なかなかに凝った意欲的な装丁と言える。なにせ犯人は読者なのである。
ミステリ界の一芸入試メフィスト賞の受賞作に相応しいと言えば相応しいタイプの作品だろう。
いかにして究極のトリックを実現させるのか?
ネタはすでに割れているので、いかにして超絶不可能トリック「読者が犯人」を実現させているかに興味は移る。作家のモノローグ。とある人物からの手紙。そしてその人物からの覚書。意味不明な文章が次々に出てきて、正直リーダビリティは高くないのだが、当然それらは全て意味があること。きちんと仕掛けの一部になっている。
それがおもしろいのかと問われると微妙なところではあるが、ここは我慢して最後まで読むべき。これが島田荘司だったら、社会派ネタを縦横に織り込んでハンカチ一枚みっしり泣ける話に仕上げてくるのだろうけど、さすがにこのあたりが限界か。
で、問題のオチだけど、書き手が後だしジャンケンで「実はこれが~で」みたいな、それまで明らかにしていなかった新事実を持ち出してくるのはアンフェアなんじゃなかろうか。書きようによってはもう少しうまく処理出来たような気もするけど、なんだかペテンにかけられたかのような読後感の悪さがつきまとうのが勿体ないのであった。
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