児童文学ファンタジー大賞受賞作
1996年に理論社より刊行。第一回の児童文学ファンタジー大賞受賞作品。
ちなみに、この児童文学ファンタジー大賞は滅多に大賞を出さない文学賞である。25年の歴史の中で第一回の梨木香歩『裏庭』と、第三回の伊藤遊『鬼の橋』しか大賞を獲っていない。大賞、佳作、奨励賞の三賞があるが、全て該当作なしの年もあるくらいで、要求水準の高い文学賞として知られている。
本作は順調に版を重ね、2001年に新潮文庫版が刊行されている。ロングセラーになっている作品だけに、この表紙はご覧になったことある方も多いのではないだろうか。表紙イラストは早川司寿乃(はやかわしずの)が担当。
作者の梨木香歩(なしきかほ)は1959年生まれ。『西の魔女が死んだ』『丹生都比売』『エンジェル エンジェル エンジェル』に続く、四作目が本作である。
あらすじ
バーンズ屋敷は戦前からある謎めいた洋館。とあるイギリス人一家が所有していたこの建物は、地元の子供たちの隠れ家であり秘密基地であり、そして格好の遊び場でもあった。共稼ぎの両親と心のすれ違いが続く照美は、久しぶりに訪れたバーンズ屋敷で、誘われるようにして一枚の大鏡の前にたどり着く。そこは禁断の「裏庭」の入口だった。
母、祖母と続く女たちの思い
ファンタジー小説の書き方としてはこういう入り方もあるわけだ。ありがちなオチに終わらない硬質な印象を受ける作品である。よくある少女の自分探しストーリーではあるのだが、その背後には母、祖母と続く女たちの思いが連綿と込められており、作品の雰囲気は終始重苦しいものに包まれている。清々しいだけの作品では決してない。
『西の魔女が死んだ』とはかなり異なった印象の作品
一回り成長し、大人びて裏庭から戻った照美を、母親の幸江は素直に受け止めることが出来ない。時を経て、ふたたび裏庭に戻ったレイチェルと丈次はそれで幸せだったのだろうか。癒しの中に垣間見える底知れない残酷さがなんとも後味が悪いというか、それが魅力というべきなのか。『西の魔女が死んだ』のようなカタルシスを本書に求めると、少々驚かされることになるかもしれない。