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『隣り合わせの灰と青春』ベニー松山 「ウィザードリィ」の世界を完全再現

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ファミコンゲーム「ウィザードリィ」のノベライズ

30年以上前に刊行された作品だが、未だ色褪せないゲームノベライズの先駆にして、その域をはるかに超えてしまった大傑作がベニー松山の『隣り合わせの灰と青春』である。作者のベニー松山は1967年生まれの小説家、ゲームライター、ゲームシナリオライター。

もともとはJICC出版(現在の宝島社)から発売されていた今は亡き『ファミコン必勝本』に連載されていた作品である。最初の単行本は1988年に登場。

その後、長らく絶版状態が続いていたが、1998年に十年振りにスーパーファンタジー文庫(このレーベルも今は亡いね)にて復刊された。

集英社版のイラストはイマイチ

ただ、苦言を一つ。文庫版のイラストは緒方剛志(おがたこうじ)なのだが、おいおい、ちゃんと読んで描いてるの?ってなくらいキャラクターの描写がおかしいのだ。

ガディの体格は貧弱だし、ジャバは全然ジャバっぽくないし、ベリアルって顎髭生えてなかったっけ?ヴァンパイアロードのしょぼい姿にも幻滅なのだった。この時期の緒方剛志人気に安易に乗ったようにしか思えずこの点はかなり残念。

Kindle Unlimitedで今は読める

この集英社スーパーファンタジー文庫版も当然現在では絶版だが、電子書籍版(幻想迷宮ノベル)として販売されている模様。しかもKindle Unlimited対応なので、未読だったら超絶おススメである。

隣り合わせの灰と青春 (幻想迷宮ノベル)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

ゲーム「ウィザードリィ」を愛してやまない方(特にファミコン版の一作目)。ゲームの世界を舞台としたノベライズ作品を読んでみたいと思っている方。しっかりと作りこまれたファンタジー世界を堪能してみたい方におススメ!

あらすじ

狂える大君主トレボーの支配する城塞都市の地下には巨大な迷宮が広がっていた。そこにはトレボーから魔法の護符を盗み出した大魔導師ワードナが立て籠もっているのだ。トレボーによって招集された冒険者たちは打倒ワードナを目指し地下迷宮へと挑む。仲間を失ったスカルダたち一行もまた新たな決意を胸に戦場へと向かう。

ここからネタバレ

「ファミコン必勝本」に連載されていた

ファミコン必勝本は当時、異常にゲーム「ウィザードリー(ファミコン版)」をプッシュしており、専用コーナー作ったり、小説を連載したり(本作のことである)、巻末にマンガを連載してみたりとすごい偏りようだった。ファミコン必勝本は後発誌で、「ドラクエ」や「FF」では大手有名誌に勝てないから、独自性を出そうとしていたのかもしれない。

ゲームノベライズの先駆的な作品

今にして思えば驚愕でしかないのだが、ベニー松山はなんと二十歳でこれ書いていた。すげーな。現在では珍しくもなんともないが、本作はゲームノベライズの先駆けとも言える存在なのである。

ファミコン版「ウィザードリー」はわたしのゲーム人生中の最高傑作。このRPGのシナリオは実にシンプルで「ワードナから魔除けを取り戻すこと」だけ。パーティ構成も自由だし攻略手順も人それぞれ。誰もが自分だけのシナリオを脳裏に思い描きながら迷宮探索に励むことが出来るのである。

シナリオがシンプル。というかほとんど無いということは、小説化するにあたって骨子のストーリーを全てゼロから組み上げなくてはならないわけで、それには元ゲームである「ウィザードリー」を余程熟知している必要がある。

その点、作者のベニー松山はガチの「ウィザードリー」マニアだったので、ファンの期待を裏切らない仕上がりになっている。

もちろん、ゲーム作品のノベライズであるが故に、呪文やアイテム、世界観に至るまで「ウィザードリィ」本体をやってないと何がなんだか訳がわからないかもしれない。だが、それだけに「ウィザードリィ」のファンには嬉しい作品とも言えるのだ。ゲームを判ってる人間でないと醸し出せない、ゲーム内のリアリティがひしひしと作中から感じられて実に楽しいのである。

『隣り合わせの灰と青春』をKindle Unlimitedで読む

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