ネコショカ

小説以外の書籍感想はこちら!
2023年に読んで面白かった新書・一般書10選

『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり

『風よ龍に届いているか』ベニー松山のウィザードリィ小説2作目は傑作ファンタジー

本ページはプロモーションが含まれています


「隣り合わせの灰と青春」に続く、ウィザードリィ小説の2作目

今は亡きゲーム雑誌「ファミコン必勝本」。かつて宝島社(当時はJICC出版)から出版されていたこの雑誌はなぜか異常なまでに「ウィザードリィ」という特定のRPGをプッシュしていて、コミックが連載されていたり、常設の投稿コーナーがあったりと、実に盛りだくさんだった。

本作は同誌に連載されていた作品をまとめたもので、最初のバージョンは1994年にノベルズ形式で宝島社から刊行されている。このノベルズ版はウィザードリィ系創作小説の最高峰とされながらも、諸般の事情から発行から間もなくして絶版となり、長らく幻の作品とされてきた。

そんな幻の名作が8年の歳月を経て、2002年にハードカバー上下巻組での復活を遂げた。しかも幻の短編とされてきた『不死王』まで収録されているのだ。創土社の方の類まれな決断にカルキを送りたい(笑)。

なお、この創土社版も現在では残念ながら絶版だが、電子書籍版(幻想迷宮ノベル)として販売されている模様。しかもKindle Unlimited対応なので、未読だったら超絶おススメである。良い時代になったものである。

風よ。龍に届いているか (幻想迷宮ノベル)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

ゲーム「ウィザードリィ」を愛してやまない方(特にファミコン版の二作目と三作目)。「ウィザードリィ」でハマン、マハマンの呪文を使ったことがある人。3Dダンジョン系のRPGがお好きな方。1990年代のストイックなRPGゲームの雰囲気を思い出したい方におススメ!

あらすじ

世界は破滅の危機に瀕していた。絶対の魔法障壁を誇るはずの古都リルガミンにすらその災厄は及び人々は恐慌状態に陥っていた。五種族の長老たちは告げる。異変の謎を解く鍵は聖なる龍ル’ケブレスの守る宝珠にあるのだと。かくして名だたる冒険者がリルガミンに集い、スケイルと呼ばれる迷宮に挑むことになる。

ここからネタバレ

ゲームノベルの域を超えてファンタジー作品として秀逸

「ウィザードリー」を強く推していただけあって、この時期の宝島社から出ていたウィズ関連の攻略本の出来は他の追随を全く許さないクオリティを誇っていた。そして、作者のベニー松山はこの攻略本の制作側の人間でもあった。というわけで、「ウィザードリィ」の第一人者が書いたウィザードリィ小説が本書である。というわけだ。

本作はファミコン版の『ウィザードリー2 Legacy of Llylgamyn (リルガミンの遺産)』(PC版だと3)をベースに、微妙に『ウィザードリー3 Knight of Diamonds (ダイヤモンドの騎士)』(ややこしいけどPC版だと2)の成分を配合して構成されている。

「ウィザードリィ」というゲームはドラクエやファイナルファンタジーなどと比べて、極端にストーリー性が希薄なゲームで、ゲームクリアに至るまでのストーリーはプレーヤーの妄想の数だけ存在する。従って物語の骨子の部分は当然オリジナルの設定を用いて書かれているのだが、それ以外のほとんどの部分の肉付けは作者が独自で創作している。

大長編を一気に読ませる筆力

背景説明だけで終わってしまいそうなので先を急ごう。

久し振りに再読してみたのだが、やはり面白いよ、これ。主人公ジヴラシアの登場、主要キャラクターの紹介と進んで、ゲームでは絶対に味わえないド派手な地上戦に突入。街中で最強呪文のティルトウェイトを使うのはいかがなものかと思うのだが、とにかくスピーディな展開が読み手を引き付ける。上下巻二段組、合計700頁強もの長編なのだが、終盤に至るまでダレることなく、読み通さずにはいられない筆力は今読んでもたいしたものだと思う。

「ウィザードリィ」ファン必読

ゲームをやりこんでいる人間であれば、ニヤリとするような表現がそれはもう随所に取り入れられていて、オールドファンには嬉しい限り。

一番好きなシーンは、エアジャイアントのクリティカルを受け即死したジヴラシアを見るや、瞬時にディーがマハマンの呪文の詠唱を始めるシーンだろう。マハマンの呪文は唱えるとランダムで蘇生の効果を呼び出すことが出来る(ドラクエで言うところのパルプンテ)のだが、代償として1レベル分の経験値を失ってしまう。ファミコン版の2は経験値稼ぎにとにかく苦労するゲームで、1レベル上げることの困難さを考えると、マハマンなんて呪文は普通絶対唱えない。それだからこそ、躊躇うことなくマハマンの詠唱を始めたディーの行動に、ファンはその愛の深さを知り涙するのだ。このシーンは泣けた。

「ウィザードリィ」を知らない人にも是非読んで欲しい

特殊な呪文システムや、多岐にわたるアイテム、種族や職業も色々あって、ゲームをやっていない向きには若干とっつきにくい部分もあるとは思うのだが、未プレイ者のことも当然考慮して判りやすく書かれている。本当は「ウィザードリィ」を知らない人間にこそ読んで欲しい一作。

単なるゲームの小説化という域を超えて、国産ファンタジーの秀作に仕上がっている。当時、ハードカバーでの復刊は驚いたものだが、それだけの価値はある作品だと思う。電子書籍化されたことで、いつでも読めるようになったことも嬉しい。

第一作の『隣り合わせの灰と青春』も名作!

ベニー松山のウィザードリー小説、第一作の『隣り合わせの灰と青春』の感想はこちらから。こちらはゲーム版『ウィザードリーI』の世界観をベースにした作品。

ファンタジー作品ならこちらも