ファンタジーノベル大賞の投稿常連だった沢村凛
1998年刊行作品。第10回の日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞受賞作である。
ちなみにこの年の大賞は山之口洋の『オルガニスト』で、もう一作の優秀賞は涼元悠一の『青猫の街』。
文庫版は何故か新潮社からは刊行されず(ファンタジーノベル大賞あるある)、2013年に角川文庫からリリースされている。
作者の沢村凛(さわむらりん)は1963年生まれ。第3回日本ファンタジーノベル大賞に応募し、最終候補作となった『リフレイン』がデビュー作である(この作品も2012年に角川から文庫が出た)。この年は恩田陸の『六番目の小夜子』も最終候補に残っており、実はこの二人は作家デビューが同期となるわけだ。
沢村凛はこの賞の常連で本作や『リフレイン』以外でも、『世界の果てに生まれて』が第6回の最終候補作(未刊行)、『五人家族』が第9回の最終候補作(未刊行)となっている。この執念、見習いたい。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
不思議な生きものが登場するファンタジー作品に興味のある方。島モノがお好きな方。1990年代のファンタジーノベル大賞系作品を読んでみたい方。最初期の沢村凛作品に触れてみたい方におススメ。
あらすじ
長年の念願がかない、瞳子は遂に秘境イシャナイ島に足を踏み入れる。Z国の学術調査団になんとか同行することが出来た瞳子は、幻の生物ダンボハナアルキを探すべく行動を開始する。しかしイシャナイでは反政府ゲリラが暗躍。政府軍と激しい抗争を繰り広げていた。ゲリラに囚われたしまった瞳子はヤンと名乗る不思議な青年に出会う。
ここからネタバレ
ダンボハナアルキが素晴らしい!
鼻行類に属する正体不明の生物ダンボハナアルキ。
この発想がまず何よりも素晴らしい。この生き物は類名の通り鼻を使って移動する。南の島を闊歩するダンボハナアルキ。馬鹿馬鹿しくもファンタスティックな情景だ。どうせならこの生物探しを主体にして話を進めていけば良かったと思うのだが、どうやら作者にはその意図は無かったようだ。
作者の政治思想が色濃く滲む作品
植民地時代を経てようやく独立を勝ち得たものの、宗主国の搾取と、内乱による政情不安定から、貧しい生活を余儀なくされるイシャナイの人々。彼らは独立すべきだったのか、それとも島が発見されなければ、内乱さえ起きなければ……。様々なありえたはずの未来を並行して語りながら物語は進行していく。
この辺りで作者の政治思想が濃厚に漂ってきて、辟易とさせられる。主人公の瞳子が信じられないくらい自己中心的なスカポンタン女であることも相まって、読み手的には少々しんどい。せっかくのダンボハナアルキが刺身のツマ程度にしかなっておらず、もの凄くもったいなく感じるのだ。
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