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『世に棲む日日』司馬遼太郎 吉田松陰と高杉晋作、長州の二人の英雄を描く

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司馬遼太郎の長州モノ

1971年刊行作品。1969年2月から1970年12月にかけて朝日新聞社の「週刊朝日」に連載されたていた作品をまとめたもの。タイトルは『世に棲む日日』であって、『世に棲む日々』ではないので注意。

現在は文春文庫版(改版)が世に出ており、読むならこちらになるだろう。以下、各巻ごとにカンタンにご紹介していきたい。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

幕末の歴史小説を読みたい方。特に幕末は長州だという方。吉田松陰や、高杉晋作のファンの方。司馬遼太郎の幕末モノを一通り読んでおきたいという方。熱量の高い人々が歴史を動かしていくさまを見届けたい方におススメ。

ココからネタバレ

第一巻あらすじ

新装版 世に棲む日日 (1) (文春文庫)

幕末の長州。若くして家督を継いだ吉田松陰は旺盛な好奇心のままに学問に没頭していた。しかしそのあまりに先鋭的な思想はいつしか危険視されていく。後の討幕運動に絶大なる影響を与えたとされる吉田松陰の前半生を描く。

幕末の長州藩を描く

司馬遼太郎が他界して早くも四半世紀。ひところは「司馬史観」なるものがもてはやされ、ともすれば神格化されてしまいそうな勢いの司馬遼太郎だったが、最近ようやく落ち着いてきた感があるので再読してみた。死後になってそんな具合に持ち上げられて、作者本人も愉快ではないと思うんだけど。

さて、本題。冒頭の一文、「長州の人間のことを書きたいと思う」というところからも分かるとおり、本作では長州藩を中心として幕末の激動期を描いていく。序盤の二巻が吉田松陰、後半の二巻では高杉晋作を主人公に据えて物語は進んでいく構成になっている。

第二巻あらすじ

新装版 世に棲む日日 (2) (文春文庫)

国禁の海外渡航が露見し、国許へ蟄居の身となった松陰。安政の大獄で刑死するまでの三年間、粗末な小屋で有志の藩士相手に始めた松下村塾は多くの討幕論者たちを生み育てることになる。松陰の教え子の一人、高杉晋作は激烈な討幕の流れに身を投じていく。

少し引いた視点で描く

幕末では会津藩好き(穏健派)に属するわたしなので、長州ものを読む時は複雑な気持ちになってしまう。幕末の長州人には狂気とも言える圧倒的な熱量がある。凄まじい執念を持ち、勝つためなら謀略の限りを尽くし手段を選ばない。そんなイメージが強くある。

作者も書いているけど確かに幕末の長州人は「狂い」という言葉を使わなければ理解出来ないのかもしれない。

そんな長州藩の人々を描くにあたって、司馬遼太郎は特に美化するでもなく一定の距離を保ち、冷静な筆致で描いていく。この冷静さ、早乙女貢あたりにも見習って欲しい。

第三巻あらすじ

新装版 世に棲む日日 (3) (文春文庫)

禁門の変にて京での政争に敗れ、蛤御門の変では壊滅的な打撃を受け多くの有為の士を失った長州藩。暴走した藩論は晋作の思惑すらも越え過激化していく。四ヶ国連合軍との戦いに惨敗した長州に追い打ちをかけるように幕府の討伐軍が迫る。晋作は敢然と難局に立ち向かっていく。

高杉晋作編に突入

本作を読んでいる西郷隆盛という圧倒的カリスマを戴いていた薩摩藩に対して、長州藩がいかに確固たる指導者のいない藩であったかよくわかる。内ゲバも多く、これだけ仲間割れしていてよくも無事に討幕をなしとげられたものだと感心してしまう。内乱の果てに自滅しちゃった水戸藩とは大違い。

まああくまでも小説なので話半分に読むとしても、幕末の歴史的情勢の劇的さっていうのは凄まじいもので、高杉晋作の人生に用意された数々の舞台の派手なこと派手なこと。こういうのを読むたびに、事実は小説より奇なりってのは本当だなと感じ入ってしまうのであった。

第四巻あらすじ

新装版 世に棲む日日 (4) (文春文庫)

藩論は一転し佐幕派が実権を握った長州藩。その最中、僅か八十八名の同志を引き連れて晋作はクーデターの狼煙を上げる。防長二国を激震させた内戦に勝利した晋作は幕府による第二次長州征伐をも退ける。しかしいつしかこの男の躰は病魔に蝕まれはじめていた。維新を目前にしながら高杉晋作は病に倒れる。

高杉晋作が凄すぎる

しかしメチャメチャですな高杉晋作。まさに乱世の英雄。天に愛されているという圧倒的自負心のなせる技なのか、直感的に思い込んだら理屈抜き。ものすごいエネルギーでひたすらに駆け抜けていく。壮絶な生きざまが、いつまでも読み手の記憶に残る。

なにせクーデターで政権握ったのに、全てを投げ出して妾連れて脱藩しちゃうんだよこの人。いやこれはとても真似できない、凡人には到底理解出来ない境地である。高杉晋作が早逝していなかったら明治の日本はどうなっていたのか。気になって仕方がない。

新装版 世に棲む日日 1-4巻 セット

新装版 世に棲む日日 1-4巻 セット

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