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『残穢(ざんえ)』小野不由美 残る穢れ、伝染する穢れ、日常を侵食する怪異


第26回山本周五郎賞受賞作品

2012年刊行。書下ろし作品。タイトルの『残穢』は「ざんえ」と読む。カバー装画は司修が担当。第26回の山本周五郎賞を受賞している。

残穢

残穢

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新潮文庫版は2015年に登場しており、現在読めるのはこちらの版であろう。解説は中島晶也、装画は町田尚子が担当している。

残穢(ざんえ) (新潮文庫)

あらすじ

小説家の〈私〉のもとにもたらされたのは、熱心なファンからの怪奇現象報告だった。この部屋には何かが「居る」のではないか。投稿者、久保からの情報に興味を抱いた〈私〉は、陰惨な過去が積み重なった土地の因縁を知ることになる。強い怨恨を伴った死は「穢れ」となり、時空を超えて広がっていく。

「悪霊」シリーズでの怪談募集がきっかけ

『残穢』に登場する〈私〉は小説家である。少女小説を出自とする、ライトノベル系の作家であったという〈私〉は、「悪霊(ゴーストハント)」シリーズ「十二国記」シリーズなどのヒットで知られる小野不由美本人をモデルにしているものかと思われる。

小野不由美の最初期作品『悪霊なんかこわくない』(「悪霊」シリーズの先駆となった作品だが、「悪霊」シリーズではないというややこしい作品である)のあとがきには、こんな一文が掲載されている。

それで、この本を読んでくださったあなたにも、おもわず聞いてしまいます。

なにか、こわい話はありませんか?

みなさまのおたよりをお待ちしております。

『悪霊なんかこわくない』あとがきより

『悪霊なんかこわくない』以降の、「悪霊」シリーズ本編のあとがきでも「こわい話」募集は再三掲載され、これには少なからぬ反響があったようである。読者から寄せられた膨大な怪奇譚は「悪霊」シリーズの血肉となって結実し、シリーズの完結後も送られ続けたのだという。

読者から送られ続けた恐怖体験の数々は、小野不由美に単独で一冊の作品を書かせるに至った。それが本作『残穢』と、姉妹作ともいえる『鬼談百景』である。

モキュメンタリー形式で綴られる怪異の記録

本作の語り手は小野不由美当人を思わせる〈私〉である。作中には作家の平山夢明(ひらやまゆめあき)や福澤徹三(ふくざわてつぞう)が実名で登場し、あたかも実話であるかのように思わせる構成を取っている。

フィクション的な内容を、実話を想起させるドキュメンタリーの形式で見せる手法をモキュメンタリーと呼ぶ。

作中には小野不由美の配偶者である、綾辻行人と思しき人物も登場する。また、かねてよりファンを心配させていた小野不由美の、体調不良問題についても言及がなされている。いかにも「ありそう」なエピソードがふんだんに取り込まれているだけに、「本当にあった」話なのではないか。虚実の境目をあっさり飛び越えていきそうなリアルさが全編に漂っていて読み手を惹きつける。

残る穢れ、伝染する怪異の恐怖

『残穢』は、恨みを抱いて死んでいったものたちの念が「穢れ」となって残り続け、しかもそれが時間と空間を超えて伝染していく恐怖を描いた作品である。

久保さんから〈私〉に寄せられた岡谷マンション204号室での怪異。謎の衣擦れ音は縊死者の霊なのか?深堀りすればするほど広がっていく怪異の記録。どこまで繋がるのか、どこまで行きつくのか、際限なく現れる『残穢』の積み重なりがなんとも怖ろしい。

現代では可視化されることが少なくなってしまったが、本来人間の世界で「死」はありふれたものであったはずだ。人の住む場所には、長い年月をかけて滓のように降りつもった「死」が堆積している。その中には強い怨念を抱いて逝った者たちも居ただろう。

そんな健全でない「なにか」に触れた時に『残穢』は発動する。『残穢』が発動するシステムは理由があるようで理由がない。それは誰にでも起こりうる災いで、容赦がなく無慈悲である。自分に何の責任がなくても怪異に襲われる恐怖。ましてや「心当たり」のあるものであれば恐怖心はさらに募る。

もっとも安全な場所である筈の、自分の家、自分の部屋が突如として心霊スポットに変じてしまうかもしれない。遠いものであるかに見えた怪異が、ごくごく身近にも存在しているかもしれない。そんな恐怖を『残穢』は思い起こさせてくれるのである。

『残穢』の年表と地図、系図を作ってくれた人がいる!

『残穢』の魅力は、メチャメチャ込み入った人間関係の歴史。因果の系譜である。こういう入り組んだ設定、小野不由美大好きだよね。『ゴーストハント6 海からくるもの』でも凄かったし。

年表や系図を作りたいなと思ったのだけど、ちょっとやってみてとても大変だったので諦めた(笑)。調べてみたらすでに作っている方が居られたのでリンクでご紹介。これは力作。

映画版では竹内結子&橋本愛が共演

終始テンション低め。怪異と怪異でないものを明確に切り分けようとする、リアリストの〈私〉を竹内結子が好演していて個人的にはアリの一作。

『残穢』は映画版が存在する。監督は中村義洋で、脚本は鈴木謙一が担当している。主なキャスティングは以下の通り。

〈私〉:竹内結子
久保さん:橋本愛
〈私〉の夫:滝藤賢一
平岡芳明:佐々木蔵之介
三澤徹夫:坂口健太郎

平岡芳明は原作における平山夢明。同じく、三澤徹夫は福澤徹三に相当するキャラクターである。映画化に際してキャラクター名が変更されている。また、〈私〉には小松由美子、久保さんは久保亜紗美とフルネームの設定が与えられている。久保さんの職業はライターから、女子大生に変更。〈私〉と久保さんの年齢も10歳以上若く設定されている。

また、ラストシーンでは吉兼家にまつわる「笑う女の絵」が登場し、不気味に物語を締めくくっている。

小野不由美作品の感想はこちらから!

〇ゴーストハント(悪霊)シリーズ

『ゴーストハント1 旧校舎怪談(悪霊がいっぱい!?)』 / 『ゴーストハント2 人形の檻(悪霊がホントにいっぱい!)』 / 『ゴーストハント3 乙女ノ祈リ(悪霊がいっぱいで眠れない)』 / 『ゴーストハント4 死霊遊戯(悪霊はひとりぼっち)』 / 『ゴーストハント5 鮮血の迷宮(悪霊になりたくない!)』『ゴーストハント6 海からくるもの(悪霊と呼ばないで)』 / 『ゴーストハント7 扉を開けて(悪霊だってヘイキ!)』 / 『ゴーストハント読本』

〇十二国記シリーズ

『魔性の子』 / 『月の影 影の海』 / 『風の海 迷宮の岸』 / 『東の海神 西の滄海』 / 『風の万里 黎明の空』 / 『図南の翼』 / 『黄昏の岸 暁の天』 / 『華胥の幽夢』 / 『丕緒の鳥』  / 『白銀の墟 玄の月』

「十二国記」最新刊『白銀の墟 玄の月』を報道はどう伝えたか 

〇その他

『悪霊なんかこわくない』 / 『くらのかみ』 / 『黒祠の島』 / 『残穢』