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『キドナプキディング 青色サヴァンと戯言遣いの娘』西尾維新 私は玖渚盾。誇らしき盾。

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戯言シリーズが帰ってきた!

2023年刊行作品。驚くなかれ、西尾維新の「戯言(ざれごと)シリーズ」に、18年の歳月を経て続巻が登場した。

キドナプキディング 青色サヴァンと戯言遣いの娘 (講談社ノベルス)

「戯言シリーズ」は西尾維新のデビュー作『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』に始まる全九冊のシリーズだった(過去形)。ラインナップは以下の通り。

2005年の『ネコソギラジカル』三部作をもって完結していた同シリーズだが、西尾維新のデビュー20周年を記念してなんと続篇『キドナプキディング』が書かれることになったのだ。表紙及び、本文イラストはもちろん引き続きtakeが担当している。

タイトルの「キドナプキディング 」は、なんだか舌を噛みそうな早口言葉的な文字列だが、英語のkidnap(誘拐)とkidding(冗談)をくっつけたものと思われる。

ちなみに、このシリーズは英題というのが別にしっかりあって、本作の場合は「Our daughter」となっている。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

「戯言シリーズ」の既刊を全部読んでいる方。もしくは読んでいなくても気にならない方。「戯言シリーズ」の世界観に、久しぶりにどっぷりとハマってみたい方。キャラクター性の強いミステリ作品が好きな方。西尾維新の作家業20周年を寿ぎたい方におススメ。

あらすじ

私立澄百合女学園に通う平凡な女子高生玖渚盾は、ある日人類最強の請負人・哀川潤に拉致されてしまう。彼女が連れてこられたのは、国内屈指の財閥玖渚機関の牙城「玖渚城」だった。待ち構えていたのは、青い髪、青い目をした同年代の少女たち。そして、凄惨な事件は起きる。犯人は誰なのか、そしてその目的は?玖渚盾は、事件解決のために推理をめぐらせるのだが……。

ここから読み始めても大丈夫……だけど

シリーズ10作目ということなので、旧作を読んでいないと意味不明なのでは?と思われるかもしれないが、主人公の玖渚盾(くなぎさじゅん)は完全に新キャラクタ―で、既存キャラクターの登場も最小限に留められている。知っていないと、読み解けない作品知識的なものもない(もちろん知っていた方が楽しいのだが)ため、本作から初めて「戯言シリーズ」を読む方でも、いちおう大丈夫……ではあると思う。

とはいえ、玖渚一族の設定や、玖渚盾の両親(いーちゃんと玖渚友)、膨大な既存キャラクターとの絡みを知らないと、この作品を十全に堪能することは困難であるかと思われる。そのため、出来る限り、旧作の全九作(言葉遊び)を全て読んでから、本作を読むことを強く推奨したい。

ここからネタバレ

横溝オマージュを散りばめて

ちなみに、本作のサブタイトルは全て、ミステリ界のレジェンド、横溝正史(よこみぞせいし)作品タイトルのパロディとなっている。以下、一覧。

  • 悪魔が来りて人を轢く⇒悪魔が来たりて笛を吹く
  • 城王蜂⇒女王蜂
  • 玖渚家の一族⇒犬神家の一族
  • 九つ墓村⇒八つ墓村
  • 白老仮面⇒白蝋仮面
  • 双生児はささやか⇒双生児は囁く
  • 獄門問う⇒獄門島
  • 青髭忌⇒青髪鬼
  • 本心殺人事件⇒本陣殺人事件
  • 青と赤⇒白と黒

西尾維新ならではの遊び心。考えつくのも凄いけど、これ、ちゃんと内容も関連させないといけないし、作品の方向性を縛ることにもなるので、全部やり切るのはけっこう大変なのではないだろうか。

しかしながら、ミステリとしては薄味。殺人事件はひとつしか起きないし、その発生も遅い。解決もあっさり。ツッコミどころも多い。ってまあ、このシリーズにいまさら、ミステリ感を求めている人はいないと思うけど。

ちなみに舞台となった玖渚城は、世界遺産とあるので、おそらくは姫路城を想定して書かれているものと思われる。ぶっ壊されるけどね。

青色サヴァンと戯言遣いの娘だった!

さて、久しぶりの戯言シリーズではあるが、これまで主役を張ってきた「いーちゃん(戯言遣い)」は登場しない。あくまでも主役は青色サヴァンと戯言遣いの娘、玖渚盾だ。「あの」二人を両親に持ちながら、玖渚盾の性格は意外に普通。奇行にも走らないし。変な趣味や嗜好もなさそう。

この辺は、実質的な子育てを担ったシッターさんの功績が大なのだろう。明確には書かれていないが、玖渚盾のベビーシッターは、闇口崩子(やみぐちほうこ)ではないかと思われる。わたし的には、戯言シリーズで崩子ちゃん一押しだったので嬉しい。崩子ちゃん相変わらず、尽くす人生だよなあ。

もちろん、「あの」二人の娘なので、玖渚盾がふつうの人であるはずはない。戯言遣い由来の最悪のスキル、当人は何もしていないのに、気づくと周囲を破滅させてしまう「無為式(むいしき)」はしっかり継承されている様子。

そして、母親が機械に愛されていたが故のしっぺ返し。娘はあらゆる機械を破壊してしまう。ママの絶対法則「機械に触るな」は伊達ではなかった(笑)。現代社会で機械に関わらずに生きていくって無理のような……。ラストシーンのドタバタ劇では、ドリフスターズ「8時だョ!全員集合」の「盆回り」BGMがループ再生されたわたし。

キャンセル系、無効化系の能力としては、『文豪ストレイドッグス』太宰治の「人間失格」とか、『甲賀忍法帖(バジリスク)』朧の「破幻の瞳(はげんのひとみ)」に近い感じか。当人が意識していないのに、自動的に、絶対的に発動してしまうってのはたちが悪いなあ。悪用しようと思ったら、相当に酷いテロが起こせそうではある。

ラストの締めのモノローグは、

私はいつだってマジで言っている

『キドナプキディング 青色サヴァンと戯言遣いの娘』p259

となっており、これは絶対にいーちゃんの常套句「戯言だけどね。」と真逆になるように書いているはず。繰り返し使われる「誇らしき盾」は、「矛(ほこ)らしき盾」とも読める。矛盾を孕んだ通り名は、これからの波乱の生涯を暗示していそう。自分の呪われた、ともいえる異能を知ってしまった玖渚盾が、これからどうなるのか。続篇が出ることに期待したい。

おまけ「パパの戯言シリーズ」しおり101種類

『キドナプキディング』にはおまけとして、特製しおり「パパの戯言シリーズ」がついてくる。わたしがゲットしたのはこちら。

パパの戯言その69

パパの戯言その69

実際にTwitterで101種類全ての現物が確認されている。

ちなみに101種中、1~100までが「パパの戯言シリーズ」で、0が番外編、ママの絶対法則「機械に触るな」となっている。

なお、『キドナプキディング』の本文中には「パパの戯言」が、頻繁に引用されいてるが、さすがに全100個すべては使われておらず、わたしが確認できたのは40個までだった(←数えた人)。

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〇戯言シリーズ

クビキリサイクルクビシメロマンチストクビツリハイスクール  / サイコロジカル(上・下) / ヒトクイマジカルネコソギラジカル(上) / ネコソギラジカル(中) / ネコソギラジカル(下) / ザレゴトディクショナル / キドナプキディング

〇人間シリーズ

零崎双識の人間試験 / 零崎軋識の人間ノック / 零崎曲識の人間人間零崎人識の人間関係(匂宮出夢との関係 / 無桐伊織との関係 / 零崎双識との関係 / 戯言遣いとの関係

〇最強シリーズ

人類最強の初恋 / 人類最強の純愛 / 人類最強のときめき / (人類最強のヴェネチア)