ネコショカ

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渡辺球『象の棲む街』第15回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞


渡辺球のデビュー作

2003年刊行作品。第15回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作である。作者の渡辺球(わたなべきゅう)は1967年生まれ。

ちなみにこの時の大賞受賞作は森見登美彦の『太陽の塔』である。

象の棲む街

残念ながら文庫化はされていない。

渡辺球は本作以降、寡作ながらも作品の執筆は続けていたようで、2006年の『俺たちの宝島』、2007年の『べろなし』、2011年の『捕食』と、これまでに計四作を上梓している。ここ数年は、新作が出ていないのが気になるところである。

あらすじ

現実とは異なる歴史を歩んだ近未来の日本。米中に支配されスラム化が進む東京。臨時雇いを転々としながらその日暮らしを続ける英治はある晩仲間たちと共に地見屋の屋台を襲撃する。彼らに襲われたハルは人知れず材料を集め爆発物を作ろうとしている男だった。いつしかコンビで稼ぐようになった英治とハル。彼らは世にも奇妙な動物、象の噂を聞きつける。

米中の狭間で衰退する日本

15年以上前に書かれた作品だが、米中両超大国の間に挟まれて、暗転化していく日本の姿を既に予見している。書かれた当時は、荒唐無稽な感を覚えないでもなかったが、米中の肥大化と、少子高齢化による日本の衰退化は想像以上で、改めて目を通してみるとと非常に生々しく読めてしまうから恐ろしい。

昏い時代を未来の東京を描く

8つの章に別れているが章ごとに主人公が変わり視点も変わる。連作短編というほどにそれぞれの物語同士に密接なつながりは無く、象というテーマを軸に緩くつながっているという感じ。蔓延する貧困。激発する犯罪。伝染病の恐怖。希望の見えない暗澹たる時代を生きる人々を描く異色ファンタジーだ。

描かれている未来世界の救いの無さが徹底している。不味そうな食べ物。最悪の労働環境。生まれる子供は皆奇形児ばかり。読んでいてうんざりしてしまうくらいである。読み手に強い嫌悪感を喚起させる描写力はデビュー作にしては立派なものだと思う(読んでいていい気分はしないのだが)。

食うか食われるか、弱肉強食の世界を生き抜いていく登場人物たちの逞しさ、したたかさも強烈に印象に残った。終盤の展開が強引に過ぎたのが難点と言えば難点かな。美しい着地点ではあると思うのだけど。

象の棲む街

象の棲む街