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『ライオンハート』恩田陸 時空を超えて何度も廻り逢う男女の物語


20世紀最後に刊行された恩田陸作品

新潮社の小説誌『小説新潮』に1990年~2000年にかけて掲載された、五編の作品をまとめたもの。奇しくも連載中にSMAPの「らいおんハート」発売されているが、関係はない。

単行本版は2000年12月に刊行された。個人的には20世紀の最後の大晦日から、21世紀最初の元旦にかけて読み切ったということで、とりわけ印象深い一冊である。この作品も世に出てから既に20年を経てしまったのかと思うとなんとも感慨深い。

ライオンハート

ライオンハート

 

新潮文庫版は2004年に登場している。解説は梶尾真治

ライオンハート (新潮文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

イギリスの歴史が好きな方、ちょっと変わった恋愛小説を読んでみたい方、初期の恩田陸作品を読んでみたい方におススメ!

あらすじ

時間を越えめぐり合う二人。エドワードとエリザベス。悠久の時の流れの中でただひとときを共有しそして別れていく。あまたの時代と空間を経て出会いと別れをくり返す二人。だが決して結ばれることはない。果てしのない切ない愛の姿を綴り上げる五編の連作短編集。

ここからネタバレ

では簡単に各編の感想を。

エアハート嬢の到着

初出は『小説新潮』1999年5月号。

1932年。ロンドン。第一次大戦と第二次大戦の戦間期の西欧文化ってのがわたし個人的に大好物。リンドバーグや飛行船、第一次大戦の傷病兵、大恐慌なんてな小道具が背景にうまく取り入れられていて良い雰囲気なのだ。

飛行場の情景が浮かんでくるようです。エドワードにとっての初めての出会いを描いた場面がこれまた印象的。爆発するエリザベスの歓喜にまだ事情も良くわからないのに目頭が熱くなる。まずつかみとしてはバッチリの第一篇。

初出は『小説新潮』1999年9月号。

1871年。普仏戦争後のフランス、シェルプール。描き出された情景の美しさは本作中屈指であろう一編。丘を越えた農園。林檎の木。空に二重の虹。刹那の逢瀬を飾るに相応しい、哀しいまでに美しい光景に戦慄させらる。まあ、でも一番の功労者はミレーの絵そのものだけど(笑)。

イヴァンチッツェの思い出

初出は『小説新潮』1999年12月号。

1905年。パナマ。異質な印象。妻の復讐を遂げるべくパナマを訪れた老富豪ジェフリーを軸に物語は展開する。本作に収録されている作品の中で、もっともミステリ寄りの一品。エドワードとエリザベスの話は、実は物語の刺し身のツマだったりする。

もう少し長い作品であればこういった寄り道も世界観が膨らんで良いのかな、と思わないでもないけど、僅か五編しかない連作短編集の中ではいささか本筋を逸脱しすぎている内容に思える。

天球のハーモニー

初出は『小説新潮』2000年5月号。

1603年。ロンドン。って読んだ瞬間嫌な予感が背筋を突き抜けたのだが、うげえ、やはりこうなってしまうのか。何もエリザベスのオリジナルを史上最も高名なエリザベスにしなくても良いと思うのだけど駄目ですか。まあ、そりゃそうだよねってところだけど、急に話が生々しくなってきて、少々残念。

記憶

初出は『小説新潮』2000年9月号。

1855年。イギリス、オックスフォード。最終章。郊外に隠居した老夫婦の物語。忘れていた筈の記憶が蘇るように、不明瞭であった全体像がじんわりと浮かび上がってくる。オチはかなり最初のうちに想像がついてしまうものの、読み手の誰もが思うであろう、かくあるべき結末にきれいに着地してみせてくれるので満足度は高い。

あともう数編欲しかった

以上、雑に各編のコメントを書いてみた。各論ではいくつか不満は残るものの、総論ではとても満足な一作。時空を超えて何度何度も巡り会ううけれども、決して結ばれることのない二人というコンセプトがとにかく最高。

ただ、あともうニ~三編あればより重層的かつ奥行きの深い作品になったのではないかなあと、ちょっと残念に思っていたりもする

ライオンハート (新潮文庫)

ライオンハート (新潮文庫)

  • 作者:陸, 恩田
  • 発売日: 2004/01/28
  • メディア: 文庫
 

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