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2023年に読んで面白かった新書・一般書10選

『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり

2022年に読んで面白かった小説13選

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2022年に読んで面白かった本企画、新書・一般書編マンガ編に続いて、最後に小説編をお届けしたい。基本的に「その年に読んだ本」が対象なので(「その年に出た本」ではない)、古い作品も混ざっているけれども、その辺はご了承くださいませ。

これまでの「面白かった小説10選」記事はこちらからどうぞ。

方舟(夕木春央)

2022年のミステリ界に衝撃を走らせた作品といえば、なんといっても『方舟』だろう。ネタは出尽くしているのではないか、もう出来ることはないのではないかと、さんざん言われている本格ミステリの世界だが、こうした作品が出てくることに、ジャンルの凄みを感じずにはいられない。

方舟

刊行当時Twitterの読書垢(アカウント)で大ブームになったのも記憶に新しいところだ。連鎖的に評判が広まって、あれだけ多くの方に拡散して読まれた事例はそうそうないのではないか(体感的には一昨年の『同志少女、敵を撃て!』以来かな)。皆、ネタバレを自重してくれて、具体的な内容の言及を避けていたのには、界隈の民度の高さを感じた。

恋に至る病(斜線堂有紀)

150人を死なせた女子高生とその幼馴染のお話。刊行直後は話題にならなくて、半年くらいを経て、TikTok(ティックトック)経由で人気に爆発的に火が付いた。『楽園とは探偵の不在なり』と並んで、2020年の斜線堂有紀ブレイクイヤーを牽引した作品と言っていいだろう。

恋に至る病 (メディアワークス文庫)

ラストの4行をどう考えるか。真相については明確に作中で「これだ!」とは書かれておらず、読み手に解釈を委ねているところも魅力のひとつだろう。斜線堂有紀の代表作の一つとして、これからも長く読み継がれていく作品になりそう。

海がきこえる(氷室冴子)

1993年刊と、今回紹介する中では最も発売年が古い。既刊の再読なので、本稿に入れるべきか悩んだのだが、良いものは良い!ということでご紹介してしまう。

1980年代~90年代にかけて一世を風靡した氷室冴子による、青春恋愛小説の名作である。地方都市の空気感、十代後半の頃でしか持ちえない感情の揺らぎ。オッサン年代になってから読むと、古傷を抉られるような快感もあって、初読時とはまた違った魅力を感じることが出来た。

海がきこえる〈新装版〉 (徳間文庫 トクマの特選!)

スタジオジブリによるアニメ化でも知られている物語。もっとも宮崎駿が関与していない若手中心の作品であること。映画ではなくテレビスペシャルとして発表されたことから、あまり一般的な知名度がないのが残念。わたし的には小説を読んだあとに、アニメ版も是非見ていただきたい。

名探偵のいけにえ(白井智之)

2022年の本格ミステリ界を『方舟』と並んで席捲したのが『名探偵のいけにえ』だろう。特殊設定ミステリであり、常軌を逸した物量戦が読者を打ちのめす、圧巻の解決編が魅力的。まだあるよ!これでもか!とサービス過剰なまでに注ぎ込まれるアイデアの数々には本当に痺れた。

名探偵のいけにえ―人民教会殺人事件―

白井智之作品はグロい、エグイという印象があって(あながち間違ってはいないと思う)、これまで読むのを避けてきたけど、2023年は過去作も読んでみようかと思っている。まずは『名探偵のはらわた』からかな。

感応グラン=ギニョル(空木春宵)

エスエフ本としては唯一チョイスしたのが空木春宵の第一作品集『感応グラン=ギニョル』だ。五つの短編を収録。少女たちの傷み、痛み、そして悼み。退廃感にあふれた、独特の世界観が読み手を惹きつけてやまない。

感応グラン=ギニョル (創元日本SF叢書 18)

空木春宵を知ることが出来たのは、個人的に2022年最大の収穫の一つ。いまのところ単著として出ているのが『感応グラン=ギニョル』だけなので、現在、猛烈な飢餓状態にあるわたくし。雑誌掲載作でも追いかけてみようかな。

此の世の果ての殺人(荒木あかね)

第68回江戸川乱歩賞、受賞作品。史上最年少の乱歩賞受賞者が繰り出してきたのはなんと「終末モノ」だ。巨大な彗星が地球(しかも日本を直撃である)に激突する。人類そのものが滅亡しそうな状況下で起きた連続殺人事件。果たしてその真相は?

此の世の果ての殺人

抒情的に描かれた終末の世界がとにかく良い!ヒロインとバディ役の女性キャラの関係性がこれまた良い!結末がとにかくエモーショナル!と、わたしの個人的に嗜好のツボをぐいぐいと押してくる作品で、これからが楽しみな作家といえるかも。

きょうの日はさようなら(一穂ミチ)

BL作品の書き手として長いキャリアを持ちながら、2021年に書いた一般向け小説の『スモールワールズ』が、本屋大賞でいきなり第3位にランクイン!にわかに、人気作家の地位に躍り出た感のある一穂ミチ。そんな一穂ミチが、2016年に書いていた一般向け作品が本作。原稿を依頼した編集者の慧眼を褒めたたえたい。

きょうの日はさようなら (集英社オレンジ文庫)

不幸な事件により冷凍睡眠化され、歳を取ることなく30年後の世界で目覚めた「従妹」との夏。二度と帰ってこない、大切な存在と過ごした特別な時間を描いた作品。90年代の懐かしネタがこれでもかと登場するので、当該年代の方であれば懐かしさで滂沱の涙を流すはず。

星のせいにして(エマ・ドナヒュー)

2022年の年間ベストを一冊だけ挙げろと言われたら、エマ・ドナヒューの『星のせいにして』になる。

時代は第一次大戦下、アイルランドのダブリン。最悪の感染症「スペイン風邪」の猛威がヨーロッパを襲っていた時代。産科発熱病棟で孤軍奮闘していた女性の奇跡のような三日間を描いた作品。

星のせいにして

女性が社会に出て働くことに、強い偏見がもたれていた時代。現場では命懸けで働いているのに、男たちから蔑視される看護婦たち。そんな彼女たちですらも、知らず知らずのうちに身に付いた偏見のフィルターからは逃れることが出来ない。嵐のような三日間を終えたとき、主人公が選んだ道とは何だったのか。ホントに素晴らしいので、とにかく読んで!と声を大にして叫びたい一作。

ブッチャー・ボーイ(パトリック・マッケイブ)

『星のせいにして』に続いて、本作もアイルランドを舞台とした作品となっている。ただ時代区分的には、1960年代の冷戦真っただ中といった頃合いのお話。当時、アイルランドではキリスト教会による児童福祉施設で、凄惨な虐待が行われており、本作はその歴史的事実に取材した作品ともなっている。

ブッチャー・ボーイ

不幸な生い立ちの少年が、家族を失い、友人を失い、次第に人生のレールを踏み外していく。その事実を、少年自身は理解しているのか、いないのか?次第に行間から滲み出てくる、いかんともしがたい哀しみ、やりきれなさが読み手の心をかき乱す。

アディ・ラルーの誰も知らない人生(V・E・シュワブ)

たとえ不老不死になれたとしても、誰からも記憶されなくなったら?そんな状態で、人間は生きていけるのか?長い長い、気の遠くなるほどの時間。ただひとりで、孤独な人生を歩んできた女性が、唯一めぐりあった救いの物語。

アディ・ラルーの誰も知らない人生 上 アディ・ラルーの誰も知らない人生 下

歴史ロマンメロドラマ?とでもいうべき、壮大なスケールの作品。究極的にはヒロインとそのお相手役の、幾年にも及ぶ、凄惨な愛憎の物語となっている。映画化されることが決まっているようなので公開がいまから楽しみで。

異常(アノマリー)(エルヴェ・ル・テリエ)

この作品、どういう話なのか説明するのが難しい~。カバー写真、一見するとなんだかわけがわからないけど、作品を読んでみると、ものすごく内容をよく表しているデザインなのだなと実感できる。

異常【アノマリー】

こんな「異常」事態が起きたら、あなただったらどう対応する?さまざまな具体例を取り揃え、真の意味で「自分と向き合う」ことの難しさを突き付けてくる一冊。ラストのオチは、いかにもフランス人作家らしい底意地の悪さ。

あの図書館の彼女たち(ジャネット・スケスリン・チャールズ)

虐げられていく自由。奪われていく平和な世界。第二次世界大戦下のパリ。アメリカの資本で運営される図書館で働いていた女性たちは、進駐してきたナチスの軍人たちとどう対峙したのか。

あの図書館の彼女たち

第二次大戦中のエピソードと、1980年代のアメリカが交互に描かれる。主人公の境遇が、戦後どうしてかくも変わってしまったのかが、次第に明らかとなっていく構成となっている。女性同士の友情モノがお好きな方には特におすすめ。

ザ・ロード(コーマック・マッカーシー)

終末モノをもう一作。こちらは核戦争?と思しき事態の後、極端な食糧不足となってしまったアメリカが舞台。希望の地(本当にそんなものが存在するのかはわからないのに)向けて、ただ黙々と歩き続ける一組の父子の物語。

ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)

生存のためになら何をしても良いとされる世界で、人間の善性を保って生きることはできるのか?地獄のような時代にあって、お互いの存在だけが救いにして唯一の癒し。そんな親子の絆が描かれる。

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