ネコショカ

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白川紺子の『後宮の烏(からす)』はしんみり泣ける中華ファンタジーの佳品


ネットで高評価の作品を読んでみようシリーズ。今回紹介するのはこちらの一冊。

後宮にあって伽をしない「烏妃」の物語

2018年集英社オレンジ文庫より刊行。作者の白川紺子(こうこ)は2013年にコバルト文庫から刊行された『嘘つきなレディ』がデビュー作。コバルト文庫から作品を出しつつも、2015年の『下鴨アンティークシリーズ』からはオレンジ文庫にも進出。五年余りのキャリアで20作以上もの作品を世に送り出している人気作家だ。

 

後宮の烏 (集英社オレンジ文庫)

あらすじ

霄の国の後宮には不思議な妃がいた。「烏妃」は伽をしない。常に黒衣を纏い、隠れ潜むように暮らす。不思議な術を使い、災いを招くと噂される。不老不死であるとも、老婆であるとも、はたまたうら若き少女であったとも伝えられ、その本当の姿を知る者は少ない。そんな「烏妃」の暮らす夜明宮に、ある晩ひと組みの主従が訪れる。

香魚子の表紙イラストが素晴らしい

集英社オレンジ文庫から刊行されているため、本書はいわゆるライト文芸のジャンルに入る。それだけ表紙イラストのクオリティは重要なのである。この点で香魚子(あゆこ)による表紙イラストは素晴らしい仕事をしている。黒衣にひときわ印象的な真っ赤な牡丹の花。そして哀切を帯びた烏妃の表情が、本作の悲劇的な世界観を醸し出しているのだ。これは思わず手に取ってしまいたくなる素晴らしいデザインだ。

烏妃と帝、孤独に生きてきた二人の物語

 烏(からす)に妃と書いて烏妃(うひ)と読む。主人公の柳寿雪は天涯孤独。数奇な運命を経て、若くして烏妃となる。後宮にあって、呪術や祈祷、失せもの探しなどの巫覡の術を生業とし、畏敬を集める反面、敬して遠ざけられる存在である。孤独の中に生きてきた彼女の下に、皇帝夏高峻が訪れるところから物語は始まる。

『後宮の烏』は、皇帝である高峻の依頼を受け、寿雪がさまざまな怪異に出会いながら、報われない想いを、非業の死を遂げた者たちの魂を、彼岸に還していく物語である。謎めいた存在である烏妃。後宮の内部にどうしてこのような存在が生まれたのか。寿雪の出生そのものにも秘密が隠されており、これに孤高の権力者、高峻の生い立ちが絡みストーリーが進行していく。

本作では四編の物語が収録されているが、過去に起こった事件の謎を解いていく連作短編形式となっている。いずれも既に悲劇は起きてしまった後であり、その哀しみそのものを消すことは出来ない。残されたものたちの悲痛な想いに、寿雪がいかに寄り添っていくかが見どころ、、かな。

以下、各編ごとに簡単にコメント

翡翠の耳飾り

烏妃こと柳寿雪と、霄の帝、夏高峻の最初の出会いを描いたお話。孤独の中で生きてきた寿雪と高峻が会い見えることで、いかに変わっていくかを本作では描いてい

皇帝となったものの、彼が即位するまでには多くの血が流れている。皇后派によって、生母を殺され、友を殺され、一度は廃太子にまで追い込まれた高峻の復讐譚。静かな怒りと哀しみが全編を貫く一品。

花笛

高峻の姉的な存在である、花娘(かじょう)が登場。本作で最も抒情的な一編。

花笛とは死者を弔うための玉の笛。悼む相手が還って来たときにだけ鳴る笛である。一つ前の「翡翠の耳飾り」や、この後に登場する「玻璃の櫛」でもそうだが、故人の思い出を偲ぶアイテムの使い方がこの作者は抜群に上手い。

雲雀公主

公主とは中国では皇帝の娘のことを指す。日本風に言えば内親王といったところか。不遇のうちに亡くなった若き公主の思い出を綴る一編。

次第に寿雪のまわりに登場人物が増え、本当は自分は寂しかったのだと彼女は気付いていく。

玻璃に祈る

霄の国は夏高峻の祖父が、前王朝から禅譲を受け成立している。禅譲とは名ばかりで、高峻の祖父は権力を確立すると、先帝の王族たちである欒家の血縁者を皆殺しにしている。寿雪は欒家の最後の生き残りだが、目の前で殺されようとしている母親を前に、何もできなかった自身に深い罪悪感を覚えている。

再三、夜明宮を訪れる高峻に対して、寿雪は頑なに心を閉ざしてきた。それは自分には生きている価値はないのではないかと信じるが故であった。

最終エピソードの「玻璃に祈る」では、欒家の死者たちの想いが綴られ、彼らに関わっていくことで、鬱積していた寿雪の心情が初めて吐露される。

救い続けたことで、最後に自身も救われる

四つのエピソードを通じて、寿雪は無念の死を遂げた人々の死に向き合い、結ばれなかった想いを繋いでゆく。死者たちの想いに触れてきたことで、どこへも行けない。なにも望めないと思い込んできた寿雪の心にも変化が訪れてくる。

人々の想いを救い続けてきたことが、結局は自分自身の心を救うことになる。この作品構成が素晴らしい。かつて寿雪の周りには誰もいなかったが、今では九九や紅翹が居て、花娘が通い、高峻が足しげく訪れる。同じ苦悩を抱えて生きてきた高峻から差し出された手を寿雪は握り返した。

かつて手放してしまった手を今度こそ手放すまいとして、この二人は生きていくのである。

後宮の烏 (集英社オレンジ文庫)

後宮の烏 (集英社オレンジ文庫)

 

わりと、綺麗にオチがついているので、本作だけでも十分完結している内容なのだが、人気が出ているせいか、昨年12月に続篇の『後宮の烏2』が刊行されている。こちらも入手済なのでいずれ感想をあげる予定。

後宮の烏 2 (集英社オレンジ文庫)

後宮の烏 2 (集英社オレンジ文庫)

 

この作者の執筆ペースなら、『後宮の烏3』が2019年の後半には出そうな気がする。

『後宮の烏』が2018年4月刊行、『後宮の烏2』が2018年12月刊行なので、『後宮の烏3』の登場は2019年8月と予想しておこう。