第二次大戦直後に書かれた作品
2003年刊行作品。2003年のこのミス海外部門、及び週刊文春のミステリベストテンで、それぞれ第2位に輝いた作品なのだが、オリジナルが出版されたのはなんと1952年である。邦訳が出るまで、ずいぶんと時間がかかったものである。ちなみに原題は「Death in Captvity」。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
第二次世界大戦を舞台としたミステリ作品を読んでみたい方。脱走モノの作品がお好きな方。本格ミステリと、サスペンス、二つの要素がガッシリ絡み合った重厚な作品を読んでみたい方におススメ。
あらすじ
1943年。第二次大戦下のイタリア第127捕虜収容所。連合軍のイタリア本土上陸が迫る中、収容所の捕虜たちは大規模な脱走計画を進めていた。しかし掘削中のトンネル内でスパイ容疑を受けていたクトゥレス中尉が何者かによって殺害されてしまう。厳重に閉鎖されていたトンネル内で一体どのようにして犯行は行われたのか。そして彼らの大脱走作戦は成功するのだろうか。
ここからネタバレ
第二次大戦における捕虜収容所を描いた作品
作者のマイケル・ギルバート(Michael Francis Gilbert)は1912年生まれのイギリス人作家。2006年に亡くなられている。大戦中はイギリス軍の一員として北アフリカ、イタリアと転戦。後に捕虜となりイタリアの捕虜収容所に収監されていたところ、実際に脱走して前線復帰してのけた経験を持っている(凄い!)。これくらいの実体験が無いと本作のような作品は書けないかもしれない。
本作には多分に、作者の経験が活かされているのであろう。収容所での生活や、捕虜となっている英国人将校たちのキャラクター描写は、さすがは経験者と言うしかないリアルさが行間の随所から滲み出ているのである。
ミステリ+サスペンス、二つの楽しみ
本作の楽しみとしては二つの要素がある。一人では進入出来ない閉鎖的なトンネル内で、どうやって被害者は殺されたのかというミステリ的な謎解きの楽しみがまず一つ。そして空前の大脱走劇は成功するや否かというサスペンス的な楽しみがもう一つ。二つの要素を兼ね備えたところが本作のウリと言えるだろう。
しかしなにぶん半世紀以上も前の作品なので、トリックがあまりにシンプルに思えてしまう。今となっては、さすがに古さを感じてしまうのが難点だろうか。親玉の実行犯が逃亡してそれっきりなのも消化不良なのだ。主人公が犯人の名前を上官に報告しないのも不自然過ぎるんだよなあ。