ネコショカ

小説以外の書籍感想はこちら!
2023年に読んで面白かった新書・一般書10選

『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり

『Kの流儀 フルコンタクト・ゲーム』中島望 第10回メフィスト賞受賞作品

本ページはプロモーションが含まれています


中島望のデビュー作

1999年刊行作品。作者の中島望(なかじまのぞむ)は1968年生まれ。本作『Kの流儀』で第10回のメフィスト賞を受賞し作家デビュー。

Kの流儀―フルコンタクト・ゲーム (講談社ノベルス)

残念ながら文庫化、電子書籍化はされていない。Amazonでも現時点(2022年1月28日)中古含め在庫なし。図書館を当たるか、地道に古本を探さないと読めない作品となっている。

続編に2000年刊行の『牙の領域』がある。

タイトルの『Kの流儀』での「K」は、空手、特に極真空手を意味しているのではないかと思われる。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

力こそ正義。悪い奴はぶちのめす!ただひたすらに勧善懲悪なバトル小説作品を読んでみたい方。ダークな世界観の物語を読んでみたい方。異種格闘バトルがお好きな方。メフィスト賞ならとにかく全部読む!と思っている方におススメ。

あらすじ

神戸市垂水区に位置する、私立赤磐高校は不良生徒が校内を支配する悪の巣窟だった。極真空手の達人である転校生、逢川総二は学園を牛耳る真壁宗冬のグループと対立。いわくつきの美少女との逢瀬もつかの間、総二は血で血を洗う死闘に巻き込まれていく。中国拳法、柔道、剣道、ボクシング。極真空手との異種格闘バトルの果てに、総二がたどりついた極致とは。

ここからネタバレ

メフィスト賞には珍しいバイオレンスアクション

ミステリ界の一芸入試とも言われるメフィスト賞は、これまでに多種多彩なジャンルの作品を世に送り出してきた。第1回の『すべてがFになる』こそ、本格ミステリ的な作品だったが、第2回『コズミック 世紀末探偵神話』、第3回『六枚のとんかつ』、第4回『Jの神話』と暴投気味の変化球を連発。狭義のミステリにこだわらない懐の深さを見せつけていた。

そして、第10回の節目とも言える回の受賞作『Kの流儀 フルコンタクト・ゲーム』はまさかのバイオレンスアクションであった。これミステリなの?思いっきりミステリの枠を広げたとしても、ジャンルの枠から漏れてしまいそうな作風なのだが、これもメフィスト賞の度量の広さなのだろう。物語に熱量があって面白ければオッケーということなのかな。

ここからネタバレ

登場人物一覧

以下が、本作に登場するキャラクターの一覧。

主人公の逢川総二は一見すると地味なフツメンだが、実は凄腕の極真空手使いという設定。ヒロインの小嶺明日香は不良少女で、総二に惹かれていくが実はラスボスの情婦。

北野了次より以下の七人は、総二が倒していく敵役キャラ。見るからに噛ませっぽい応援団長の北野了次から、少林寺拳法、柔道、空手、ボクシング、剣道、中国拳法の使い手と各種格闘技を取り揃えてみたって感じのラインナップである。

  • 逢川総二(あいかわそうじ):主人公。極真空手の達人
  • 小嶺明日香(こみねあすか):ヒロイン。実は真壁宗冬の女
  • 北野了次(きたのりょうじ):応援団長
  • 狩野莞爾(かのうかんじ):少林寺拳法部主将
  • 込山重太郎(こみやまじゅうたろう):柔道部主将
  • 大迫猛(おおさこたけし):空手部主将、暴走族ブラッディー・エンジェルズ所属
  • 相模京一郎(さがみきょういちろう):現役プロボクサー
  • 荒木但親(あらきただちか):剣道部主将、居合を使う。アル中
  • 真壁宗冬(まかべむねふゆ):中国拳法の使い手。学園の支配者

殺伐とした世界観

本作の世界観はとにかく殺伐としている。学園では殺人以外のあらゆる悪事がはびこっているし、暴力による問題解決は日常茶飯事。主人公も、やられたら過剰なまでに追い詰めてぶちのめす、情け容赦のないダーク系のヒーローとなっている。

時代設定的には1980年代頃の雰囲気だろうか。スマホどころか携帯電話すらない時代だ。本作の発表は1999年だが、その当時でも「ちょっと前の時代」を感じさせる作風だったはずだ。ノリ的には、平井和正や菊地秀行の学園伝奇系作品を彷彿とさせるものがある。これはちょっと懐かしいね。

悪い奴らを暴力でぶちのめす魅力

『Kの流儀』のストーリーはシンプル。どこをどう取ってもいいところのない、悪人が出てくる。主人公がぶちのめす。ただそれだけである。

相手は高校生とは思えないほど、悪に振り切れていて、何の同情の余地もない屑人間なので、読む側としてもボコボコにされても心が痛まない。作者が極真空手の経験者だけあって、バトルシーンの描写は迫力がある。極真空手が、異種の格闘技経験競者と戦ったら果たしてどうなるのか。そんな「if」の小説としても楽しい。

最初の敵キャラ、北野了次から、狩野莞爾、込山重太郎、大迫猛まではほぼ瞬殺。第五戦のプロボクサー相模京一郎とのバトルからがガチの戦いだ。主人公の逢川総二は、けっこう性格が悪いところがあって、プロのボクサーである相模の拳を砕いて勝利する。相手のプライドをへし折って勝利することを躊躇わないダークな強さが魅力と言える。

作中最強の敵は第六戦の剣道家荒木但親だ。武器を持っているだけでも圧倒的に有利なのに、荒木は日本刀装備で挑んでくる。この荒木、高校生なのに徳利をぶら下げて歩いていて、常時飲酒をしているアル中キャラなのである。そんな高校生いねーよ!とツッコみたくなるのだが、絵としては面白いからわたし的にはアリ。荒木は本当に、キャラが突き抜けていて、普通に人間を一刀両断して殺してしまうイカれた高校生である。バトルシーン的には対荒木戦がいちばん突き抜けていて面白かった。

ラスボスの真壁宗冬は、体格と体力にめぐまれただけのキャラクターの感が強くて、地道に削っていけば倒せちゃったという感じ。最後の敵なのだし、ヒロインの彼氏でもあるのだから、もう少し人物としての深みも欲しかったかな。

本作は、ヒロイン小嶺明日香の存在が、ハードな作風にかろうじて彩りをもたらしてくれてはいるものの、基本的にはほぼ全編暴力に次ぐ暴力のバイオレンスアクション作品である。強い男が、悪い奴をぶちのめす。非常に単純なストーリーなのだが、このシンプルさがイイ!

メフィスト賞関連作品の感想はこちらから