ネコショカ

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星雲賞受賞作「ネプチューン」も収録!新井素子『今はもういないあたしへ…』


星雲賞受賞作「ネプチューン」を収録した作品集

1988年作品。今は亡き大陸書房からの刊行。 「ネプチューン」と「今はもういないあたしへ…」の中編作品が二作収録されている。解説は星新一。

今はもういないあたしへ… (ハヤカワ文庫JA)

 「ネプチューン」は1981年の『SFマガジン』1月号掲載が初出。こちらはその後、ハヤカワ書房が編纂した、1981年の年刊アンソロジーである『SFマガジン・セレクション1981』にも収録されていて、わたしが初めて読んだのはコレ。

SーFマガジン・セレクション 1981 (ハヤカワ文庫 JA 170)

SーFマガジン・セレクション 1981 (ハヤカワ文庫 JA 170)

 

原稿用紙180枚という半端な長さが災いして、長らく単行本未収録状態であったが、7年の歳月を経て、本書にてようやく新井素子作品として刊行された。

そして表題作の「今はもういないあたしへ…」は1987~1988年の雑誌『小説奇想天外』1号、及び2号に掲載されていたもの。

1990年には早川書房から文庫版が登場している。こちらも現在では入手困難かな。

今はもういないあたしへ… (ハヤカワ文庫JA)

今はもういないあたしへ… (ハヤカワ文庫JA)

 

あらすじ

23世紀、人類は生活の場を海上都市にまで広げていた。海で拾った謎の少女ネプチューンと三人の男女。ネプチューンはどこから来たのか?彼らの出会いは、世界に思わぬ波紋を広げていく(ネプチューン)。

瀕死の重傷を負って病院にかつぎこまれた享子は、長い昏睡状態からようやく目を覚ます。しかし深刻な損傷を受けていた筈の彼女の身体には何の傷跡も残されていなかった。享子は記憶と現実の乖離に苦しむのだが…(今はもういないあたしへ…)

「ネプチューン」

1982年の星雲賞日本短篇部門受賞作品。新井素子の短編(中編だけど)では、この作品が一番好き。

ただ一つの想いが生命の大進化をもたらしたという、センスオブワンダーの冴えが抜群過ぎて震撼させらえる。このネタだけでいくらでも長編が書けたのだろうけど、180枚という限られた紙面に詰め込んだことで、より密度の濃い物語に仕上がっている。

もっと遠くへ、まだ、誰も行った事のない世界へ。その想いは由布子にバトンタッチされ、人類を更に前へ前へと進めていく。話のオチがわかった瞬間に、ぐわっと時空が広がるような感覚が得られるのはエスエフ作品の醍醐味だよね。

「自然」の反対語が「人為」であるなんておこがましい。人類もまた自然の中に包含されるものなのだ。これは、新井作品にはよく出てくる考え方だけど、人の想いが生命の進化を加速させたのだという筋書きさえも、大いなる「自然」による作為の一部なのである。そんなより高次の視点が、最後に用意されているあたりもお見事。

「今はもういないあたしへ…」

交通事故により下肢断裂、内臓破裂、重度の火傷を負った筈のヒロインが、長い昏睡状態から目覚めるとなぜかその身体は五体満足な健康状態に。それはきっとクローンか何かを使っているんだよねと、比較的、最初の方で話のオチは見えてくる。

物語のポイントは人間の記憶は?心の在処はどこにあるのかというところ。唯一無事だった脳だけを取り出して、クローンの身体に移し替えた時に、人の心はどうなるのか?胸の中、腹の裡そんな言葉もあるくらいで、人間の記憶や心は脳だけが司っているのではないのかもしれない。現代の科学でも解明できていないことだけに(人体実験して試すわけにもいかないし)、なんともザラッとした読後感が残る一作。