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『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』乙野四方字 二つの作品が繋がる瞬間のカタルシス!


二作同時刊行された並行世界モノ

『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』両作が、2016年6月の同時刊行である。

作者の乙野四方字(おとのよもじ)は1981年生まれ。第18回電撃小説大賞《選考委員奨励賞》を受賞した、2012年の『ミニッツ 〜一分間の絶対時間〜(応募時タイトルは『ミニッツ 〜一分間で世界を滅ぼす方法について〜』)』がデビュー作。

乙野四方字はデビュー媒体である、電撃文庫を中心に作品を世に送り出していたが、今回ご紹介する二作は初の非電撃系作品となる。

僕が愛したすべての君へ (ハヤカワ文庫JA) 君を愛したひとりの僕へ (ハヤカワ文庫JA)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

並行世界系のエスエフ作品が好きな方、読んでみたい方。並行世界での恋愛小説的な展開を楽しみたい方。二つの作品を続けて読むことで物語の可能性が膨らむ!意欲的な仕掛けにあふれた作品を堪能してみたい方、映画公開前に原作を読んでおきたい!という方におススメ!

二冊あわせて一つの作品!

『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』は表紙のデザインを見て頂ければ想像がつくかもしれないが、同じ世界観をベースとした作品である。同時刊行されただけあって、それぞれがもう一方の内容を補完する構成になっている。

読む順番としてはどちらから先に読んでもオッケー。わたしの場合は、『僕が愛したすべての君へ』→『君を愛したひとりの僕へ』の順で読んでみた。

では、今回はこの二作品をまとめてレビューを書いてみたい。

ここからネタバレ

『僕が愛したすべての君へ』あらすじ

並行世界の存在が立証された世界。隣接した並行世界への移動は日常的に発生する。両親が離婚し、母親の元に引き取られた高崎暦は進学先の高校で、瀧川和音という少女に出会う。遠く離れた85番目の世界からやってきたと語る和音は、その世界では暦とは恋人関係にあったと告白する。和音との奇妙な交流が始まる中、暦は並行世界を生きる自分は同一人物と言えるのか、苦悩し始めるのだが……。

並行世界の自分は自分なのか?

本作の愛称は『僕愛』。

隣接した並行世界への移動がごくあたりまえに発生する世界。ちょっとした物忘れや、行き違いは、実は並行世界へ移動していたことが理由だった。というのが本作での主張である。隣接した並行世界は極めて似通った世界線であり、元の世界とほぼほぼ同じ未来をたどる。しかし、遠く離れた世界線に移動するほど、元の世界とは全く異なる運命が待ち受けている。

自分が愛した女性を並行世界上のもうひとりの自分が同様に愛している。同じ自分とは言え、別の人間が彼女を抱く。これは理解できるようでいて、なんとも気持ちの悪い状況かもしれない。主人公の高崎暦(たかさきこよみ)は並行世界への移動を繰り返すうちに、パートナーである瀧川和音(たきがわかずね)と自分の関係性に悩むようになる。

可能性ごとすべて愛する

暦と和音は、並行世界を提唱した佐藤弦子が所長を務める、虚質科学研究所に勤めるようになる。暦は和音との結婚を意識しながらも、並行世界間での自己同一性について苦悩する。並行世界は無限に分裂していく。和音を選んだ自分、和音を選ばなかった自分。そのいずれもが高崎暦なのである。

しかし、幾多もの体験を経て、暦はそれでもすべての可能性を含めて和音を愛することを決める。それは二人が結ばれない世界、二人が不幸になる世界すらも許容する強い決意だった。

僕が愛したすべての君へ (ハヤカワ文庫JA)

僕が愛したすべての君へ (ハヤカワ文庫JA)

 

『君を愛したひとりの僕へ』あらすじ

並行世界の存在が立証された世界。隣接した並行世界への移動は日常的に発生する。両親が離婚し、父親の元へ引き取られた高崎暦は、父の勤務先の研究所でひとりの少女、佐藤栞に出会う。相思相愛の仲になっていく二人。しかし彼らの両親同士が再婚することになり、二人の関係にも暗雲が立ち込めてくる。お互いが一緒になれる遠い並行世界へと跳んだ二人だったが、そこでは悲劇が待ち受けていた……。

この世界の君だけ愛したい

本作の愛称は『君愛』。

『僕が愛したすべての君へ』同様に、『君を愛したひとりの僕へ』でも主人公は高崎暦である。両親の離婚時に、研究者である父親に引き取られたこの世界の暦は、幼いころから並行世界への深い知見を有している。

そしてこちらの世界での暦のパートナーは、虚質科学研究所の所長佐藤弦子の娘、栞(しおり)である。栞は天然気味で被保護欲をかきたてられるようなタイプ。知的でクール。比較的強気なキャラだった和音とは真逆の女性である。

二人が一緒になれる世界を求めて、異なる並行世界へ跳んだ二人だったが、事故により栞は肉体を喪ってしまい、魂だけが現世に取り残されてしまう。ここで暦は、あくまでもこの世界線での栞を救うことに執着する。こちらの暦は、他の世界線での栞が生きているならそれで良しとはしなかったのである。

この世界の栞だけを愛する。彼女だけを救いたい。しかしそれは、過去を変える必要がある。かくして暦は禁断の領域へと踏み込んでいくことになる。

君を愛したひとりの僕へ (ハヤカワ文庫JA)

君を愛したひとりの僕へ (ハヤカワ文庫JA)

 

二つの作品が繋がる瞬間のカタルシス

『僕が愛したすべての君へ』と『君を愛したひとりの僕へ』は、単品で読んでもそれなりに楽しめる作品ではあるが、それでも最後に謎は残る。

『僕が愛したすべての君へ』の最後に登場した老婦人は誰だったのか。『君を愛したひとりの僕へ』で過去を改変しようとした暦はどうなったのか。これらの謎は両方の作品を続けて読むことで解消するように構成されている。

最終盤に二つの物語が繋がった時のカタルシスは、読み手の心を深く抉るであろう。無限に広がっていく並行世界が、この瞬間だけ、ただひと時、ただひとつの場所に収斂していくのである。すべての可能性を愛した男と、ただひとつの可能性だけを信じた男。二人の主人公の想いが報われるラストが実に感動的なのだ。

2022年映画化決定!

作者本人のTwitterにより、本作の映画化が発表された。公開予定は2022年。

ハヤカワの方でも告知が入った。累計18万部は、けっこう売れている数字だよね。2016年の作品なのに、書店でも平積みされるようになったし。映画版の今後の情報に期待しよう。

www.hayakawabooks.com

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