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『老ヴォールの惑星』小川一水 硬軟取り混ぜた第一短編集

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小川一水の初期作品集

2005年刊行。ベストSF2005国内部門第一位の作品。小川一水(おがわいっすい)としては、初の短編集となる。

老ヴォールの惑星

初出は「ギャルナフカの迷宮」が同人誌「Progressive25」。「老ヴォールの惑星」「幸せになる箱船」が「SFマガジン」。最後の「漂った男」のみが書き下ろし作品となっている。ファーストコンタクト、漂流モノ、比較的よくあるエスエフテーマを小川一水風に調理してみましたよ、という作品集。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

異星人とのファーストコンタクトをテーマにした作品に興味のある方。漂流系の作品がお好きな方。初期の小川一水作品を読んでみたい方。小川一水の短編集を読んでみたいと思っている方におススメ。

あらすじ

灼熱のガス惑星に生きる知的生命体。存亡の危機に立たされた彼らの選択を描いた表題作。政治犯だけが放り込まれる迷宮という名の監獄。そこで繰り広げられる壮大な社会実験を描く「ギャルナフカの迷宮」。地球外生命体との交渉に赴いた一団の思わぬ顛末を描く「幸せになる箱船」。僻遠の星で遭難した男の数奇な人生を描いた「漂った男」。四編を収録したSF短編集。

以下、作品別に短評。

ここからネタバレ

ギャルナフカの迷宮

おおっ、迷宮!『ウィザードリィ』大好き人間としては、こういうタイプのお話はワクワクする。貴志祐介の『クリムゾンの迷宮』や高見広春の『バトルロワイアル』みたいなゼロサムゲームが展開するのかと思いきや、そこは小川作品。連帯、共闘、組織化という展開になる。どちらかというと新井素子の『ラビリンス』に近いかな。単なるハッピーエンドに終わらせず、ひとひねり入れてきたのが巧い。

老ヴォールの惑星

少し前に話題になった地球外惑星ホットジュピターをネタにしたお話。本巻収録中もっともハードエスエフ指向な作品だろう。こういう「人類は一人じゃない」ネタはエスエフの超王道とはいえやっぱり泣ける。珪素体でプラズマを吐きながらホットジュピターを駆けめぐる知的生命体がとにかく萌える。個人的にヴォールの皆さんのキャラクターボイスは玉川紗己子(@タチコマ)でお願いしたい。

幸せになる箱庭

タイトルがネタバレだけど気にしちゃだめ。地球外生命体によって木星の質量が激減。このままでは地球の軌道にも影響が……。ということで、異星人と交渉して、木星の掘削をやめてもらいましょうと調査団が派遣されるお話。うーん、しかしこれはよくある話のような。あまり新鮮味は無し。

漂った男

第37回の星雲賞で、日本短編部門賞を受賞している短編作品。

超遠隔地の惑星で遭難した主人公。あまりに遠い惑星のため満足な捜索隊は派遣出来ない。この惑星には陸地が無く全てが海。危険な生命体は無く、しかもその海水は栄養分が豊富で主人公は遭難しながらも生命の危険がゼロ。かくして、究極の放置プレイに見舞われた主人公が、緊張感のない長い長いサバイバル生活を繰り広げる展開。

キーポイントは無線による連絡手段は常に確保されていること。普通であればすぐさま孤独死してもおかしくない状態だけど、他者とのコミュニケーション手段が残されている人間は決して孤独では無いのだというお話。最初に救難信号をキャッチしたタワリ中尉との長く長く続く交流がとにかく泣きのツボ。お約束的展開ながらもラストは燃える。

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