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『鬼女の都』菅浩江 京都×同人の世界を描いた本格ミステリ

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菅浩江初の本格ミステリ

1996年刊行作品。1989年に『ゆらぎの森のシエラ』でデビューして以来、エスエフ、ファンタジー寄りの作品を手掛けてきた菅浩江が、初めて書いた本格推理小説が本作である。ちなみに、カバーの袖には法月綸太郎の賛辞まで入っていた。

鬼女の都

文庫版は2005年に祥伝社から登場している。この表紙絵は、山田章博かな?電子書籍化もされているので現在でも読むことが可能。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

京都を舞台とした本格ミステリ作品を読んでみたい方。同人誌の世界、独特の価値観を持った人々が登場するマニアックな小説を読みたい方。菅浩江の初期作品に興味がある方におススメ。

あらすじ

京都出身の同人作家、藤原花奈女が自殺した。創作同人界でカリスマ的存在だった彼女は数ヶ月後にプロデビューを控えており、あまりに謎めいた死に周囲は騒然となる。花奈女を慕う優希は葬儀の為に京都を訪れる。それは、花奈女を死の淵にまで追いつめた「ミヤコ」の正体を暴くためでもあった。

ここからネタバレ

同人誌の世界が舞台のミステリ

これまでずっとエスエフ、ファンタジー畑の人だった菅浩江が本格ミステリを書くに当たって選んだジャンルは同人誌の世界。あらすじを読んでもそんなことちっとも書いてなかったからびっくりした。菅浩江は高校時代から同人活動を始めた、ガチの同人出身の作家である。つまり思いっきり得意分野で攻めてきたわけだ。ちなみに、自分の事を「ボク」と呼ぶ、「ボクっ子ちゃん」の女の子が主人公である。

創作系同人サークルの世界がこの物語の舞台となっていて、「創作系のクセに午前中で売り切れなんて許せない」なんて、知っていると笑える部分が随所にあるのだが、普通のお客さんを置き去りにしているような気が……。

マニアの世界を描く場合の2つのパターン

マニアの世界を舞台にした作品を描く際には、出来る限り一般人への配慮をするパターンと(だいたいの作品はこちら)、一般人は切り捨てて徹頭徹尾、趣味の世界を突っ走るパターンと、二種類あるんじゃないかと思う。

太田忠司の『Jの少女たち』は前者のパターンで、部外者の視点で語ることで一般の読者への配慮をしていた。逆に小森健太朗の『コミケ殺人事件』なんかは完全に、オタク趣味に振り切っていてハナから一見さんお断りの雰囲気を漂わせていた。

Jの少女たち

Jの少女たち

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本作『鬼女の都』は、『コミケ殺人事件』同様に、判る人だけ判ってくれればいいという視点で描かれた作品である。そのため、当たり前の話だが、マニア度が非常に高くなってしまい、同人の世界が良くわからない読み手には、ついていくのが難しい作品になってしまっているかもしれない。

悠久の歴史、風情、古都の闇、京都の街の描写が素晴らしい

初めての本格ミステリに挑戦ということで、この物語に菅浩江はもう一つ得意なものを持ちこんでいる。出身地という強みを生かした京都の街の描写がとても魅力的なのである。伝統文化や、独特の習慣、観光客として見るだけでは決して知ることができない、出身者だからこそ描ける京都の姿が、色鮮やかに描き出されており、この作品を読むとついつい京都に行きたくなってしまうのである。

鬼女の都

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