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『君の教室が永遠の眠りにつくまで』鵺野莉紗 あの日、教室で何が起きたのか?

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鵺野莉紗のデビュー作

2022年刊行作品。タイトルの『君の教室が永遠の眠りにつくまで』の読みは「きみのきょうしつがとわのねむりにつくまで」。英題は「A DREAM OF SLEEPING BEAUTIES」。

作者の鵺野莉紗(ぬえのりさ)は1991年生まれのミステリ作家。本作が第42回横溝正史ミステリ&ホラー大賞の優秀賞を受賞し、作家としてのデビューを果たしている。ちなみに、この年は「大賞」受賞作なし。

ちなみに、同賞応募時のタイトルは「狭間の世界」だった。

君の教室が永遠の眠りにつくまで (角川書店単行本)

カドブンに作者インタビューが掲載されていたのでリンクを貼っておく。

また表紙イラストはイラストレータ、画家である孳々(じじ)が担当している。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

小学校時代の自分の無力さについて考えてみたい方。思い出してみたい方。小学校を舞台としたミステリテイストのホラー作品を読んでみたい方。百合成分を多分に含んだ作品がお好きな方。横溝正史ミステリ&ホラー大賞関連の作品に興味がある方におススメ。

あらすじ

北海道の田舎町、不思子町(ふしこまち)。小学六年生の遠野葵は、同じクラスで、凄惨な虐めを受けている落合紫子と親友になる。しかし、とある事件をきっかけとして、二人の関係は破局を迎える。激しく傷つき、転校してしまった紫子。もういちどやり直したいと願う葵は、担任教師のアドバイスを受け、思わぬ手段に打って出る。しかしそれは更なる悲劇につながっていく……。

ここからネタバレ

対称的なふたりの少女

『君の教室が永遠の眠りにつくまで』には主人公がふたり存在する。

第一部の主人公、遠野葵(とおのあおい)は小学六年生。身長165センチ。運動能力に優れ剣道を習っている。ボーイッシュで大人びた外見から、周囲の女子に絶大な人気を誇るが、当人はそれを快く思っていない。人付き合いは苦手。外面のわりには、内面は年相応、というよりちょっと幼いかも、というタイプのキャラクター。

第二部の主人公、落合紫子(おちあいゆかりこ)は遠野葵と同じクラス。物静かで目立たない内向的な少女だったが、父親のスキャンダルが明るみになって以来、クラス内で激しい虐めを受けることになる。とある事件をきっかけに、親友の葵とも決裂した紫子は、クラス全員への復讐を決意し実行に移す。

タイプの全く異なるふたりだが、逆にそれだからこそ惹かれあう。切なくも仄かな百合テイストは本作の魅力の一つと言っても良いだろう。

小学校時代のままならなさ

学生時代に戻っていいよと言われて、小学校時代を選ぶ方はどれくらいおられるだろうか。わたしだったら真っ平御免である。何も知らず、何が出来るのかも知らず、自分の意思を通すどころか、示すことすらままならない。親や教師の発言は絶対で、逆らうことなど許されない。クラス内では虐めを受けないように、慎重にふるまわなくてはならない。そして、どれほど辛いことがあっても、そこから逃げ出すことは出来ないのだ。

本作において、葵と紫子は強い抑圧下にある。クラス内にはスクールカースト上位層である、笹川理恵(ささがわりえ)と安藤夏美(あんどうなつみ)が君臨し、意に染まぬ行動を取る児童を排除していく。

理恵と夏美のターゲットは、当初は立花佳苗(たちばなかなえ)だったが、父親の醜聞をきっかけとして紫子もその対象となっていく。クラスの中では独自の憧れキャラとして、一定のポジションを維持していた葵だが、面と向かって虐めに立ち向かうだけの勇気は持ちわせていない。ヒリヒリとした教室の雰囲気が、容赦なく読み手の心を抉っていく。この展開は読んでいてかなりしんどかった。

ふた組の百合カップルの末路

第一部のラストで驚愕の展開が示され、第二部はその種明かしとも言える展開となっていく。本作には、メインの百合カップルである葵と紫子とは別に、葵の母親である、遠野めぐみと、担任教師の石山(牛野)みどりとのペアが存在する。親の因果が子に報いとでもいうべきか、母親の遠野めぐみのクズっぷりが際立つ。石山みどりの狂気には相応の報いが与えられたのに、遠野めぐみには大したペナルティが与えられなかったのはもやもやする部分。

葵と紫子の関係については、インタビュー記事によると「もっと救われない結末だった」ようだが、いちおうハッピーエンド?的に落ち着いてはいる。ただ、精神世界に逃避した引きこもりエンドなので、彼女たちがしでかした事件の深刻さを考えると、釈然としない部分が残る。

いろいろ惜しい

小学校女児が用意したDVDを見て、クラスの全児童が催眠に陥り、長期にわたる昏睡状態になってしまうというのは、さすがに出来すぎのような。犯行の隠蔽工作を石山みどりがやっていたのに、それが警察に看過されているのも無理がある。

石山みどりに唆されて、葵がハナの「処置」をする展開も、いくらなんでも葵が無知過ぎないだろうか(外面の大人っぽさに反して、内面は幼いという設定にしてもだ)。フィクションの中でも、最低限のもっともらしさは欲しい。

葵と紫子の関係性については、ふたりが交流しているシーンの描写がごくわずかに限られている点が惜しいと感じた。ふたりが心を通わせている場面が、それほど多く描かれないために、その関係性に深みが出ない。あと、二つ三つ、エピソードを盛った方が、終盤の展開に説得力が出たのではないかと思えるのだ。

また、32年前からの謎の雲に覆われている不思子町の設定が、まったく生かされていないのも謎?これは、作者的にお気に入りの世界設定なのだろうか。

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