ネコショカ

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『コンビネーション』谷山由紀のデビュー作は野球小説!


ライトノベルには珍しいプロ野球小説

1995年刊行作品。谷山由紀のデビュー作となる。今は亡き朝日ソノラマの小説誌「グリフォン」に93年投稿の「コンビネーション(本作ではジンクスに改題)」に始まり、以後数年をかけて執筆された連作短編集である。

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古い作品で、なおかつ版元の朝日ソノラマが無くなってしまったので、書影が補完されないのであろう、手持ちの書籍をスキャンして画像を上げてみた。

ある意味、インパクトの強いカバーデザインである。1990年代とはいえ、このカバーデザインはどうなのかと。80年代や、70年代くらいのセンスのような気がする。新人のデビュー作なんだから、もう少し力を入れてやってもよかったのではないだろうか。

コンビネーション (ソノラマ文庫)

コンビネーション (ソノラマ文庫)

 

本作は長らく絶版状態であったが、2013年に電子書籍専門の出版社アドレナライズによって復刊を果たしている。多少金額は張るが、オンデマンド版でのペーパーバック化も受けているようなので、とても良い試みだと思われる。でも、名倉のビジュアルがちょっと強面になっちゃったね。

コンビネーション

コンビネーション

 

あらすじ

無名校からの高卒ルーキーとして、ドラフト五位でプロ入りした内野手名倉は、不器用ながらも持ち前の努力と才能で三年目にして見事にブレイクを遂げていく。対照的な大卒エリートルーキーや、全盛期を過ぎ静かに消えていこうとするベテラン、活躍の場すらなく虚しく球界を去る選手など、複数の視点から名倉の成長を描く連作短編集。

ソノラマ文庫でプロ野球小説

ソノラマ文庫で野球?しかもプロのお話?と謎は尽きないのであるが、これは素直に面白かった。名倉という一人の選手の生き様を、本人の視点は交えずに周囲のチームメイトや、かつての同級生の目線でのみで語っていく構成が面白い。名倉がいい奴過ぎるのが唯一の難点かな。陰の部分がもう少しあった方がもう少し親しみが持てたように思える。

では、各編ごとに簡単に振り返っていこう。

ジンクス

甲子園のアイドルから、神宮のスターを経て、鳴り物入りで入団したエリート投手岡野の視点から描かれる。アイドル顔で、明朗快活。サービス精神豊富ながらも、裏ではこっそり舌を出しているようなちゃっかりタイプの岡野と、無口で、感情表現が苦手な名倉が寮で同室となり、いつしか「岡野が投げれば名倉が打つ」程の信頼関係を築き上げるまでの物語。対照的な性格の二人の間に生まれる不思議な仲間意識が面白い。

コール

十一年目の名ショート宮崎。32歳。守備のスペシャリストの視点から描く名倉の成長物語。高校から野球を始め(すごい!)、無名の進学校からドラフト五位で入団した名倉を、密かに目をかけていた宮崎。しかし、名倉の努力と、素質はいつしか、宮崎の地位を脅かしていく。上から目線で見ていた相手に、長年守り続けてきたポジションを奪われる。ベテランの悲哀と、それでも負けまいとする気概が心にしみる一作。

カクテル・ライト

名倉の高校時代のチームメイト視点で描かれる。進学校である故に、野球はあくまでも学生生活の添え物。誰ひとり本気で野球をやろうとしない中で、周囲との温度差に悩む名倉。高校デビューの名倉に、あっという間に追い抜かれ、忸怩たる思いでその成長を見つめてきた男の葛藤が切ない。才能あるものの残酷さ。それでも、最終回の好機に「僕らは友達ですからね」と、立ち上がって名倉を応援する姿が泣かせる。

プライド

神宮で活躍し、ドラフト一位で入団するや否や名倉からポジションを奪う矢部。野球人生の王道を歩いてきた男が、初めて直面する壁。矢部はまったくタイプの異なる野球選手である名倉に強烈な敵愾心を抱くが、打撃、守備、練習姿勢、あらゆる場面で力が及ばない自分を知り愕然とする。それでも自分は負けない、名倉を越えてみせると奮い立つ。プロ選手ならではのプライドを垣間見ることが出来る作品。

キーストーン

キーストーンとは二塁の意。本塁側から見て、二塁ベースは内野の頂点に見えることに由来する。矢部が名倉のポジションを奪い、名倉が宮崎のポジションを脅かしたことで、タナボタとしてレギュラーの座が巡ってきた選手、鈴村(ドラフト4位)の視点から描かれる一作。甲子園の優勝経験者でありながらも、体格は小柄で、プロで生き残っていくのは容易ではない。名倉の恵まれた体格、圧倒的な才能と伸びしろにコンプレックスを抱きながらも、「僕は僕になればいい」と開き直れるところまでが、身の丈を知ったうえでどう生きるかの答えになっている。

エキストライニング

名倉と同期入団(ドラフト6位)でありながら、慢心と油断からスタートダッシュが遅れ、今期とうとう戦力外通告を受けた投手寺島の視点から描かれる一編。かつては親しく話せた名倉は一軍に上がり、いつまでも二軍暮らしの寺島とは、共有する時間もなくなると次第に疎遠になっていく。開いていく差をどう受け止めるのか。プロ野球のステージで敗れたとしても、人生にはまだ敗者復活の場が残されているのだとする、ほろ苦くも暖かなラストが印象深い。

エレベーターボーイ

エレベーターボーイとは一軍と二軍を行ったり来たりする、ブレイクできない微妙なレイヤーの選手を指す言葉。本作はブレイク前の名倉を見つめる、喫茶店の女子店員栞の視点で描かれる。栞は受験ノイローゼで、いざ本番の試験に臨むと緊張してしまい実力が出せない。自暴自棄になり、人生を投げやりに見ていた栞は、同じように伸び悩む名倉を見て、自分と同類であると信じ込む。しかし名倉は自分の同類などではなく、遥かに高い目標をめざし、それを実力でつかみ取っていく。

自分の限界を自分で決めてはいけない。停滞していた栞の人生を再始動させて、名倉は彼女の世界から去っていく。

圧倒的な存在を前にしたときの凡人のあり方

 

以上の七編は、程度の差こそあれ、冠絶した才能に直面した、ふつうの人々が(ほとんどプロだけど)どう生きたかの物語である。共に戦うのか、競うのか、別の場所で生きるのか、その選択はさまざまだが、彼らが自身が定めた領域で、自分は自分として人生を戦っていこうとする姿は共通している。結局は人と争うのではなく、戦いは自分の自身の中にあるということなのだろう。

本作は、プロ野球の世界を舞台にした、ライトノベルレーベルとしては異質な作品だが、普遍的な人間の生き方について教えてくれる作品であると言える。本作以降の谷山作品にも共通するモチーフなのだが、このあたりは、また別の機会に書いてみたい。