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『恥知らずのパープルヘイズ』上遠野浩平によるジョジョ第5部ノベライズ

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『恥知らずのパープルヘイズ』は『ジョジョの奇妙な冒険』第五部の外伝的な作品である。このブログは基本的にネタバレありで感想を書いているが、本エントリでは、更に加えてジョジョ第五部の内容についてもネタバレしているので、未読の方はお気を付けを。

荒木飛呂彦×上遠野浩平 ジョジョ第五部コラボ作品

本作は2011年刊行。荒木飛呂彦(あらきひろひこ)の漫画家30周年、『ジョジョの奇妙な冒険』連載25周年を記念して企画された作品である。

ノベライズは人気ライトノベル作家の上遠野浩平(かどのこうへい)が担当。「ブギーポップ」シリーズ等で古くから能力バトルモノを書き続けてきた作家だけに、なかなかに良い人選と言える。荒木飛呂彦作品のノベライズだと、やはり書き手にも上遠野浩平クラスの大物が必要ということなのだろうか。

上遠野浩平はジョジョファンを自称するだけあって、原作へのリスペクトを随所に感じさせながらも、独自のアレンジを盛り込んできている。さすがはベテラン作家といった出来栄えに仕上げている。四部以前の小ネタも丁寧に拾ってきており、ファンに喜ばれるお手本のようなノベライズなのである。

恥知らずのパープルヘイズ ―ジョジョの奇妙な冒険より―

Jump jBOOKS版(新書サイズ)は2014年に登場。こちらの版からは、おまけでトリッシュの短編『トリッシュ、花を手向ける』がついてくる。これから読むなら断然こちらである。

集英社文庫版は2017年に登場している。 結局これが一番お得なのだが、ハードカバー版は、メタリック仕立ての表紙にフーゴとパープルヘイズが描かれ、天地と小口部分はパープルの着色が施された豪華な装丁となっていて、ファンなら結局全部買ってしまいそうな気がする。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

ジョジョは第五部が好き!と思っている方。「その後」のフーゴがどうなったのか気になって仕方がない人。ミスタやトリッシュの「その後」が気になる方。選ぶべき時に正しい選択を出来なくて悔やんでいる人。上遠野浩平アレンジの「ジョジョ」がどう描かれているか気になる方におススメ。

あらすじ

あの戦いから半年。ブチャラティのチームから抜けたパンナコッタ・フーゴを待っていたのは裏切り者の烙印であった。再会したミスタは告げる。ジョルノへの忠誠を証明するために、組織内最大の負の遺産”麻薬チーム”を殲滅せよと。「選ばなかった」後悔を抱えて生きてきたフーゴに、新たな試練が訪れる。

ここからネタバレ

それからのフーゴの物語

本作は上遠野浩平によるジョジョ第五部ノベライズである。ディアボロとの最初の対決後、組織を裏切る決意を示したブチャラティに対して、フーゴは行動を共にすることを拒む。ブチャラティチームから外れたフーゴが、その後どうなったのか?

本編ではその後の彼の行方は描かれないのだが、そのあたりの隙間を埋めてくれるのが今回の『恥知らずのパープルヘイズ』である。当然ながらジョジョ第五部のネタバレが前提となる作品なので、原作マンガを最後まで読んでからどうぞ。

ちなみに、わたしはディアボロ戦のクライマックスとで、颯爽とフーゴが加勢に登場するものとばかり思ってたけど、そうはならかったね。

「前に踏み出せなかった」ものたちへ

この作品は、「前に踏み出せなかった」ものたちの物語である。

人生の重大局面において、適切な判断を瞬時に下せる人間がどれだけいるだろうか。
有名な話だが、ジョジョ第五部の作中経過時間は、信じられないほどに短い。ジョルノがブチャラティと出会ってから、ラスボスであるディアボロを倒すまで、なんと10日程しか経過していないのである。

確かにボスは酷いかもしれないけど、トリッシュはほんの数日前に出会った小娘だし(性格もキツイし)、これほどの重大案件、瞬時に判断なんかできるわけがない!これは、しばらく別行動を取って冷静に考えてみよう。なんて、判断を保留にしていたら、数日後にはもうジョルノたちをボスを倒してしまっていた!

ブチャラティへの忠誠度の高いアバッキオや、脳筋系のミスタ、ナランチャが即決できたのに比べると、知性派タイプのフーゴが、その場で断を下せなかったのは仕方のないことだろう。自分に置き換えて考えてみて欲しい。決断できるだろうか?

しかし選ばなかった後悔は残る

ブチャラティをはじめ、ナランチャやアバッキオなどの仲間たちに死なれ。生き残ったジョルノとミスタは、栄光の日々を迎えつつある。彼らと袂を分かったフーゴは、孤独の中に生きていくことを強いられる。

しかし、その時に選べなかったことはそれほどに罪なのだろうか?たとえ、その時選ぶことができなくても、人生にはリベンジの機会が与えられることがあっても良いのではないか。

フーゴの持つスタンド、パープルヘイズは極めて扱いにくい特徴を持っている。その拳に装填された殺人ウィルス入りのカプセルは、ひとたびその力を発揮すれば周囲の生命体を殺戮し尽くす。それは使用者のフーゴも例外ではなく、これほどまでに危険なスタンドは、そうそう気軽に使えるものではない。

このパープルヘイズの扱いにくさ、凶暴性はフーゴの内面の、自分でも制御しきれないキレやすい性格を象徴しているものなのだろう。

しかし本作の中で、フーゴは自らの内面と対峙し、制御不能であった猛々しさを支配できるようになる。自身をも殺してしまう殺人ウイルスを克服し、パープルヘイズをパープルヘイズ・ディストーションへと進化させたのである。

上遠野浩平は、作中人物のムーロロにこんなセリフを言わせている。

「能力というのは、本人の性格を反映する。精神が変化すれば、能力も変わるんだよ」

文庫版『恥知らずのパープルヘイズ』p282より

深い悔恨の中から、自らの精神を進化させることで、フーゴはジョルノに信頼されるに値する、黄金の精神を取り戻したわけである。

取り返しのつかない失敗をしたとしても人生は続いていく。その中で、いつか必ずやり直しの機会はやってくる。本作は「前に踏み出せなかった」ものたちにも、救済は訪れるのだとして幕を閉じる。

おまけの短編『トリッシュ、花を手向ける』

Jump jBOOKS版、及び文庫版には、追加で書かれた短編『トリッシュ、花を手向ける』が収録されている。

ブチャラティの墓参に訪れたトリッシュの話。そこで彼女は意外な人物に出会う。

加えて、本編終了直後、ブチャラティの死に直面したミスタが、いかにしてその事実を受け入れたかが描かれている。もう既にこの世にはいないブチャラティの高潔な人柄が偲ばれる良短編である。

実はもう一作あるジョジョ第5部ノベライズ

残念ながら未読なのだが、本作に先立つこと10年。2001年にJump jBOOKSにて、大塚ギチによるジョジョ第五部ノベライズ『ゴールデンハート/ゴールデンリング』が刊行されている。レビューを見ていると評価はアレな感じ……。文庫化もされていないので、お察しくださいといったところだが、しかし気にはなる。

こちらは確保でき次第レビューをあげる予定。少々お待ちを。

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