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『閻魔堂沙羅の推理奇譚 金曜日の神隠し』木元哉多 シリーズ初の長編作品

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「閻魔堂沙羅の推理奇譚」シリーズの六作目

2019年刊行作品。かれこれ三か月ほど続けている、木元哉多の「閻魔堂沙羅の推理奇譚」シリーズを全巻読もう企画だが、今回でようやく六回目である。

閻魔堂沙羅の推理奇譚 金曜日の神隠し (講談社タイガ)

ドラマ版の放映前に全部読めるかなと思ったら、9月にシリーズ七作目が出ていた!これも早く読まなくては。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

母と娘の関係性に焦点を当てたミステリを読んでみたい方。自分でも犯人当てをしたい!推理しながらミステリを読んでみたいと思う方。閻魔堂沙羅ちゃんのファンの方(笑)、木元哉多って長編を書かせたらどうなるのか気になる方?というかたにおススメ。

あらすじ

売れっ子の建築デザイナーとして活躍する新山律子には秘密があった。律子の母親は切り裂き町子と呼ばれた殺人犯だったのだ。母が負った借財を取り立てに、闇金の取立人川澄が律子の前に現れる。今の生活を守らなくてはならない。苦悩する律子だったが、執拗に付きまとう川澄の行動に精神をすり減らしていく。

ココからネタバレ

遂に長編作品が登場!

これまで短編作品のみを書いてきた木元哉多であったが、第六作目にして始めて長編作品に挑戦したのが『閻魔堂沙羅の推理奇譚 金曜日の神隠し』である。ストーリーテリングの妙味と、キャラクター造形の巧みさには定評のあった作者であるだけに期待は高まる。

殺人事件の被害者が、その死に際して閻魔大王の娘である沙羅の裁きを受ける。沙羅は被害者にとあるゲームをもちかける。誰に殺されたかを推理して、当てることが出来たら現世に甦ることできる!その名も「死者復活・謎解き推理ゲーム」。果たして主人公はゲームに勝ち、現世への復帰を果たすことが出来るのか?シリーズの骨格ともいえる、基本的なルールは今回も変わらない。

では、例によって、作中の事件を振り返っていこう。

新山律子 41歳 デザイナー 死因・刺殺

今回の容疑者リストはこちら。長編だけあって、いつもよりはやや多め。

  • 新山美久(にいやまみく):律子の娘。高校生
  • 新山寿(にいやまひさし):律子の叔父。父親代わり
  • 飯塚町子(いいづかまちこ):律子の実母。殺人の前科を持つ
  • 川澄吾郎(かわすみごろう):闇金の取立人
  • 福森幸次(ふくもりこうじ):律子の元夫
  • 晴山かりん(はるやまかりん):幸次の再婚相手
  • 野上叶恵(のがみかなえ):律子のビジネスパートナー
  • 蔵本樹季(くらもといつき):美久の彼氏。高校生

事件直前の美久と樹季の謎の行動。川澄の仄めかしあたりヒントになるかな。事実と伝聞情報を切り分けて、確定できる事項だけを絞り込んでいけば正解にたどり着けるかも(わたしは無理だった……)。町子のその後を予見できていれば、あとは一気に最後まで行けるだろうか。

二組の「母と娘」の物語

この物語では、町子と律子、そして律子と美久、二組の母娘が登場する。典型的な毒親とも言える性悪女、町子の娘として生まれ、幼い日から辛酸を嘗めつくした律子は、悲惨な過去を繰り返したくないと強く願う。しかしその激しい想いが空回りして、娘である美久との関係は上手くいっていない。毒親の子は、やはり毒親になってしまうのか。

コンプレックスを抱えながら生きる律子。そして捨てた筈の町子との関係が再び、律子を追い詰め、美久との関係も拗れていく。読んでいて暗澹とした気持ちにさせられる負の連鎖。キャラクター造形が相変わらずこの作家は上手い。

果たしては律子は負の連鎖を断ち切ることが出来るのか?彼女の立ち直りに、沙羅の「死者復活・謎解き推理ゲーム」が大きく寄与しているところが、興味深い点であろうか。

復活前に律子の人生を棚卸してくれて、的確な助言をくれる沙羅が優しすぎる!いつもながら、沙羅はなんだかんだ言って優しいよね。これだけ言ってくれると、頑張ろうという気にもなってくる。

殺人者でも天国に行ける?

ちなみに「死者復活・謎解き推理ゲーム」に挑戦しなかった場合の、律子の刑罰は「天国行き」!殺人の罪を犯していて、トータル評価がマイナスでも天国に行ける事例もあるわけだ。ってまあ、沙羅の裁きが甘いだけなのかもしれないけど。

一方で、今回の黒幕とも言える川澄は、律子復活時に雷の直撃を受けて死亡している。ここまで露骨に人の運命を変えてしまってもいいの?とツッコミたくもなるのだが、悪人だから仕方ないのかな?川澄は町子同様に、速攻地獄行きだったろうね。

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