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『ラスト・イニング』あさのあつこ 「バッテリー」シリーズのその後を描く

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「バッテリー」シリーズ待望の外伝作品

「バッテリー」シリーズは、正編6冊の感想を書いたものの、長らく本書の存在を知らずにいたので、遅まきながら入手して読んでみたよ。

本作は2007年刊行。新田東対横手の再試合と、その後を描いた「マウンドへと」「白球の彼方」の二編を収録している。

ラスト・イニング

文庫版は2009年に登場。

この際に「白球の彼方」は「天藍の空」にタイトルが変更となっている。また、単行本『バッテリーSCORE BOARD』に収録されていた「空との約束」、DVD『バッテリー特別版』の初回限定生産盤に収録されていた「炎陽の彼方から」が追加収録されている。こちらの方がお得だね。

ラスト・イニング (角川文庫)

ラスト・イニング (角川文庫)

 

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

「バッテリー」シリーズ既刊6巻を全部読んだ方(←当たり前か)。特に、新田東対横手の試合がどうなったのか気になって仕方のない方。野球小説、スポーツ小説が好きな方。天才と天才でない者。その微妙な関係性に痺れる方におススメ!

あらすじ

新田東対横手の再試合から数か月。名門校への推薦を断った門脇。野球を辞めた瑞垣。中学生活最後の試合で二人に何が起きたのか。激戦の経緯を振り返る「ラスト・イニング」「天藍の空」、更に「空との約束」「炎陽の彼方から」を収録した、「バッテリー」本編では語られなかった待望の外伝的短編集。

ココからネタバレ

瑞垣、野球やめたってよ

「バッテリー」正編6巻の感想では、えー試合やらないのかよと突っ込んでしまったが、多くの読者にとって最大の関心事であったかと思われる、新田東対横手の再試合を描いた後日譚が本作である。

ただ、物語の視点はライバル校である、横手中の瑞垣俊二(みずがきしゅんじ)になっていて、その独特なキャラクター性にスポットライトが当てられる形となっている。Amazonの紹介文を読むと「屈指の人気キャラクター瑞垣」って書いてあるけど、瑞垣人気あるんだね。確かに、コミック版とかアニメ版見るとメッチャイケメンなのである。

執着という名の呪縛を手放すということ

門脇と瑞垣。再試合がこの二人に与えた影響は大きかった。巧との対戦に敗れた門脇は、野球名門校への推薦を断り、地元の無名校への進学を選ぶ。瑞垣に至っては野球部の無い高校へ進学してしまう。

ずば抜けた才能を持つ存在と共にあること。あり続けること。門脇と瑞垣の関係は、巧と豪との関係の裏返しでもあり、将来の彼らの在り方を想起させるものでもある。幼い頃から共に育ってきた門脇から離れ、野球からも距離をとったことで、長年の執着を手放すことができたのか。手放したようで、逆にその業は深くなっている感すらある。

しかし、ラストシーンの瑞垣は、ふっきれたようでもあり、一つ上の関係に上がることが出来たのかもしれない。共に歩くことはもうできなくても、少し離れた位置から見守ることは出来るのだから。

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