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『リバーズ・エンド』橋本紡 世界の存在を賭けた戦いと少年少女

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橋本紡の第三作

『リバーズ・エンド』は2001年から2003年にかけて刊行された作品である。

作者の橋本紡(はしもとつむぐ)は1967年生まれ。1997年に『猫目狩り』電撃ゲーム小説大賞を受賞し作家デビューを果たす。

2000年代前半まではライトノベル(電撃文庫)レーベルでの活動が主であったが、その後一般文芸の世界に転身している。ライトノベルレーベルからは多くの作家が、一般文芸に「越境」していったが、橋本紡はその中でも比較的初期の例と言えるかな。

リバーズ・エンド (電撃文庫)

本作『リバーズ・エンド』は『猫目狩り』、『バトルシップガール』に続く、橋本紡としては、三作目の作品となる。本編五巻に加えて後日譚的な「after days」の全六冊で構成されている。イラストは高野音彦(たかのおとひこ)が担当。

今回はこの『リバーズ・エンド』シリーズを、「after days」含め、一気にご紹介していきたい。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

ライトノベル作品を書いていたころの橋本紡に興味のある方、セカイ系の作品に触れてみたい方、ゼロ年代のライトノベルを読んでみたい方、5~6冊できっちり終わる作品を読んでみたい方におススメ。

あらすじ

携帯に突然届けられた一通のメール。それは見知らぬ少女からのメッセージだった。「あなたの町に海はありますか?」そんな言葉から拓己と唯との交流は始まる。遠く離れた町に住む、顔も知らない少女に拓己は次第に心惹かれていく。それが彼らにとって最も幸福な時間であったことを二人は知るよしもなかった……。

ココからネタバレ

世界の命運を託された少年少女の物語

偶然メル友になった女の子がなんと自分の学校に転校してきたんだけど、実は秘密が……、という導入部。一巻だけ読むとわけがわからない。ヒロインの唯は一巻で早々に表舞台からは退場してしまい、二巻からはスクールと呼ばれる隔離施設が舞台になる。『最終兵器彼女』的なお話なのかと思ったら、頑張るのは彼氏の方でどうやらプチ『エヴァンゲリオン』的な内容だった。

主人公とヒロインには世界を救う力が与えられているしかし、ヒロインは序盤に起きた事件の後遺症で意識不明の寝たきり状態。責任を一身に背負わされプレッシャーに押しつぶされそうになる主人公。昏々と眠り続けるのヒロインを揺り起こして弱音を吐くあなたは、どこの碇シンジ君ですか。それ以上の行為に至らないだけシンジ君よりはマシだけど……。

セカイ系かな?

話が大きい割には出てくる大人は数人だけ。人類の興亡を左右するような大問題の筈なのに、社会的な背景はほとんど描かれない。敵と戦う部分も非常に観念的で判りにくい。典型的なセカイ系のお話だ。自分(&ヒロイン)⇒世界の危機が直結されていてその間にあるものについては語られることがない。

残念なポイントしてはどうしても説明不足を感じてしまうところ。二人が出会わされた理由、ヒロインが殺されそうになる理由、わざわざ街一つ核まで使って破壊した理由が全く不明。一巻であれだけ盛り上げたのだから、広げた風呂敷はしっかり畳んで欲しいもの。一巻と二巻以降の断絶を最後まで埋めることが出来なかった印象が強い。

二巻以降のスクールでの生活描写は悪くない。実験動物として飼われている少年少女たちの閉塞感溢れる心理描写は良かったと思う。更に盛り上げるなら、彼らの中から第二第三の犠牲者を出せば面白かったのにと考えてしまうのは冷たすぎだろうか?ほとんど寝たきりのヒロインよりも、夏海や遙たちの方が出番が多かった分キャラが立ってるんだよなあ。

リバーズ・エンド 文庫 1-5巻セット (電撃文庫)

リバーズ・エンド 文庫 1-5巻セット (電撃文庫)

  • 作者:橋本 紡
  • 発売日: 2003/07/01
  • メディア: 文庫
 

「after days」はその後の物語

「after days」は2004年刊行。全五巻で完結した『リバーズ・エンド』シリーズの後日譚を描いた短編集だ。メインエピソードは三つで、比較的人気の高かった?直人、七海、拓己にスポットを当てた内容となっている。

リバーズ・エンド after days (電撃文庫)

弥生と唯、遙には若干出番アリ。茂と孝弘に関しては残念ながらほとんど出番無し。各話をつなぐインターミッション的に挿入された掌編でいちおうフォローされてはいる。

「after days」あらすじ

人知れず始まり、人知れず終わった世界の存在を賭けての戦い。あれから一年が過ぎた。"スクール"から解放され、それぞれの場所へと帰っていった彼らのその後を綴る。平穏な生活を取り戻す直人、満たされぬ日々を過ごす七海、未だ暗い闇の中にいる弥生。そして、"スクール"に残ることを選んだ拓己と唯の現在は……。

世界の危機を乗り越えても……

世界(というかセカイか?)を救った彼らがその後離ればなれになり、久しぶりに再会を遂げるまでのお話。

世界の危機を乗り越えても、人間の本質はそうそう変わるものではなく、その後の成長バイアスは、各人の性格や家庭環境に負うところが大きい。ひねくれているように見えて本質的に素直な直人は、家族の居るところに戻って安定し始めるし、家庭的に恵まれない弥生や七海は相変わらずグダグダしている。

一番気になる主人公カップルが、未だに"スクール"という名の繭の中で守られたままなのが不満といえば不満だろうか。その先が知りたいのにねえ。