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『銀河帝国の弘法も筆の誤り』田中啓文 「バカSF」をとことん楽しめる一作

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第33回星雲賞受賞作を含む短編集

2001年刊行作品。SFマガジン1997年8月号、2000年2月号、、SFマガジン1999年9月臨時増刊号に掲載された作品に加え、表題作を含む書き下ろし二作を加えたSF短編集である。表題作である「銀河帝国の弘法も筆の誤り」は第33回星雲賞(日本短編部門)受賞している。

作者の田中啓文(たなかひろふみ)は1962年生まれ。集英社スーパーファンタジー文庫の『背徳のレクイエム 凶の剣士グラート』がデビュー作である。ライトノベルレーベル出身の作家だが、その後ミステリやホラーの世界にも進出。本作はそんな田中啓文の初SF短編集となっている。

銀河帝国の弘法も筆の誤り (ハヤカワ文庫JA)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

「バカSF」というジャンルに心惹かれる方。思いっきりナンセンスな展開に酔いしれたい方。どれほどぶっ飛んだ展開になっても赦すことが出来る懐の深い方。田中啓文作品に触れてみたい方。あらすじを読んでピンと来た方におススメ。

あらすじ

人類が史上初めて、地球外生命体から受け取ったメッセージは「ブラックホールの中にホトケはいるかおらぬか、そもさん」という、およそ信じられない内容の文章だった。答えられなければ人類存亡の危機が迫る。首脳たちの苦悩の末に召喚されたのは伝説の高僧弘法大師空海。ここに空前絶後の禅問答が始まる。

ここからネタバレ

「バカSF」を代表する一作

もう前世紀の話になるが、大原まり子と岬兄悟の共同編纂で『SFバカ本』なる企画が存在し、これが当時けっこうシリーズ化されて巻数を重ねていた。

SFバカ本

SFバカ本

  • 作者: 大原まり子,梶尾真治,火浦功,斎藤綾子,村田基,高井信,森奈津子,岬兄悟,中井紀夫
  • 出版社/メーカー: ジャストシステム
  • 発売日: 1996/07
  • メディア: 単行本
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バカミスというジャンルがミステリ界にはあるように、SFにもバカSFというジャンルはきっとあるのだろう。

本作はそんな「バカSF」を代表する一作である。この作品にまともなSFを決して期待してはいけない。

やりきれなさが癖になる

本作のタイトルはもちろんアイザック・アシモフの『銀河帝国の興亡』のオマージュだ。興亡と弘法大師空海をかけているわけだが、タイトルからして、胡散臭さ爆発である。どうして空海が人類の危機に対して、地球外生命体と禅問答をしなくてはいけないのかまったく得心がいかない。レトロフューチャー風のバタ臭さ満載の表紙デザインもヤバい。くだらないダジャレがオチになっている作品まである位で、もうこのやりきれなさをどこにやればいいのか途方に暮れるばかりだ。

そんなわけだから、本作に対しては深く考えずに虚心坦懐に臨むのがおススメである。振り上げた拳をどこにも下ろすことが出来ないというもどかしさを存分に味わうことが出来る良作なのだ。

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