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『朝日のようにさわやかに』恩田陸 14編を収録した第二短編集

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14編を収録したバラエティに富んだ短編集

2007年刊行作品。『図書室の海』に続く恩田陸の第二短編集である。この当時、既に恩田陸の刊行ペースは相当に早く、ほぼ毎月なにかしら作品が出ている状態であった。この時期の多作ぶりはホントに凄かった。デビューした当時では想像も出来なかったよなあ。

新潮文庫版は2010年に登場している。

朝日のようにさわやかに(新潮文庫)

あらすじ

湿原の学園に訪れたとある怪事件"笑いカワセミ"の謎を巡る一幕「水晶の夜、翡翠の朝」。ビルの入り口に置かれた雛人形、それに隠された秘密とは「あなたと夜と音楽と」。駅の売店の老人から託された恐るべき真実「冷凍みかん」。薄暗い四畳半に立てこもった五人の少女。彼女たちの運命は「卒業」。他計14編を収録した短編集。

14編を収録したバラエティに富んだ短編集

本書は各誌に発表された短編作品14編を一冊にまとめて上梓したものである。

収録作品の初出を見る限りでは、必ずしも全てが新潮社から出ているわけでは無い。しかしながら『図書室の海』に続いて、二作目の短編集も新潮社からの登場となった。学園モノからホラー、ミステリ、ショートショート、児童向け作品まで幅広いジャンルの作品を収録している。

しかし、この本から恩田陸に入ってくれとはちょっとお願いしにくい。正直なところ短編ではまだ恩田陸の本領は発揮し切れてないと思う。短編作品では、やってみたかった「スタイル」を提示するに留まってしまい、恩田陸独自の個性が出せていないように思えるのだ。それぞれの作品の質は決して低くないと思うのだけど。

以下各編ごとに短評……。

水晶の夜、翡翠の朝

2002年作品。角川スニーカー文庫『殺人鬼の放課後』収録。『麦の海に沈む果実』の外伝的作品。ヨハンファンは必読だろう。麦海系はもっとお話の裾野を広げて欲しいのでこうした短編での取り組みは大歓迎。

ご案内

読売新聞2006年4月8日夕刊掲載。珍しいショートショート作品。読売掲載時の町田久美の日本画もどうせなら見たかったな。

あなたと夜と音楽と

2001年作品。『「ABC」殺人事件』収録。会話文のみで構成された作品。さすがに細かな部分の描写は難しくて()文でト書きを入れて補っているあたりに苦労がしのばれる。

冷凍みかん

1999年作品。廣済堂文庫の、異形コレクション『GOD』収録。

 

 

星新一的なブラックさと往年の日本エスエフっぽい香り。バカバカしい話ながらも、収録作品中これが一番好きだ。

赤い毬

2005年作品。紀伊国屋書店の季刊誌「i feel」収録。不思議な建築物ネタは『禁じられた楽園』や『エンドゲーム』でもあったね。恩田陸的に好きな話なのかもしれない。凄みを漂わせる不思議空間を瞬時に構築出来る力はさすが。

深夜の食欲

1999年作品。こちらも廣済堂文庫、異形コレクション『グランドホテル』収録。

宮沢賢治の「注文の多い料理店」を換骨奪胎したようなお話。「ヘイスティングス」のネーミングセンスがナイスである。

いいわけ

2004年作品。「小説現代」2004年8月号収録。元ネタはカミュの『異邦人』。これもショートショート作品。

一千一秒殺人事件

2004年作品。集英社『怪談集 花月夜綺譚』収録。

稲垣足歩風ジャパネスクホラー。本人もあとがきで反省しているけど、失速パターンの恩田陸。このオチはいかがなものかと。

おはなしのつづき

2005年作品。「飛ぶ教室」第二号収録。

初めての児童文学として執筆された作品。全体的な長さの制約もあってか、当初の狙いは果たせていない気がする。

邂逅について

2004年作品。中井英夫へのオマージュ本、河出書房新社『凶鳥の黒影』収録。

一枚の絵から引き出された幻想について。絵を見てから何十年も経つのにこれだけ書けるんだから、そうとう吸引力のある絵だったろう。

淋しいお城

2006年作品。「小説現代」2006年4月号収録。2016年に刊行された講談社「ミステリーランド」作品(『七月に流れる花』『八月は冷たい城』←わたしは未読)の予告編的なお話らしい。ロアルト・ダール的な意地悪さと不条理感の詰まった一編。

楽園を追われて

2006年作品。「yomyom」2006年Vol.1収録。登場人物たちに近い年代なので少々身につまされる内容の作品。ワカモノ読者は、オジサンオバサンになってからもう一回読んでみよう。

「卒業」

2006年作品。今は亡き電子書籍サイト「Timebook Town」にて、2006年7月7日配信。20枚でスプラッタホラーを描くとこうなるという見本。これ、ちゃんと一本長編で書いてくれないかな。

朝日のようにさわやかに

2006年作品。サントリーの情報誌「サントリークォータリー」2006年Winter収録。ウイントン・マルサリスは凄いよなというお話(違。

以上、ほんとに駆け足の短評で申し訳ない。そろそろ長編作品の感想もアップしていきたいところだけど、再読した方が良い気もするので悩み中。さて、どうするか。

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