ネコショカ

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『この橋をわたって』新井素子、作家生活40年目にして初の短編集


新井素子の初?の短編集

2019年刊行作品。2014年から2018年にかけて、新聞、雑誌、ウェブ媒体等に掲載されていた作品をまとめたもの。

新井素子にしては珍しい、特定のシリーズ、テーマに囚われない短編集。あれ、短編集って新井素子的には初めて?

この橋をわたって

って、思ってたら、あとがきを読む限り、この手の短編集は新井素子的にもはじめての試みであった模様。

何時書けるのか。どれほどの分量になるのか。書いてみないとどうなるかわからない、そのため長編書き下ろしでしか仕事を受けない。そんな独特の執筆スタイルの都合で、短編や、連載の依頼を全て断ってきた新井素子が、作家生活40年を機に、ようやく短編や連載の仕事を受けみたのが本作である。

企業依頼あり、新聞連載ありと、初出は様々ながらも、新井素子ならではのスタイルが楽しめる作品集かな。長年やっててここまでテイストが変わらないのも凄い。

あらすじ

大河に巨岩を投じて来た一族。それがいつしか対岸へ渡る橋になる「橋を、架ける」。飼い主の元を脱走した黒猫と烏とのやりとりを綴った「黒猫ナイトの冒険」。家庭内で起きた事故の意外な真相を読み解く「碁盤事件」。大晦日、中学二年生の少女の枕元に降臨したのは死んだはずの祖母?その真意は?「なごみちゃんの大晦日」他、全8編を収録した短編集

以下、各編ごとにコメント。

橋を、架ける

2014年。IHIのWeb企画「空想ラボラトリー」(公開終了)のために書き下ろされた作品。書かれた経緯については「新井素子さん最新情報」に詳しい記事があったのでご紹介させて頂く。

motoken.hatenablog.jp

今回の作品集のタイトルは『この橋をわたって』であり、完全一致はしないものの、本作のエッセンスが多少なりとも反映されているものと思われる。新井素子的なもっと先へ行きたい!未知なる世界への憧憬といった要素が盛り込まれており、本作の中では一番「らしい」なと感じさせてくれる一編。

作家生活40年を経て、更に先へ進もうとしている作者の姿をも表しているようで、この作品を冒頭に持ってきたのは大正解。

黒猫ナイトの冒険

2017年。中央公論社「小説-BOC」の第四号「猫ミス」特集に掲載された作品。

小説 - BOC - 4

小説 - BOC - 4

 

飼い主の元から逃げた若い黒猫と、キングと呼ばれる単独行動を好む烏との交流を描いた作品。烏のキングは意地悪な性格なのかと思ったら、その行動にはきちんと意味があってという、やさしい物語。ネコ飼い的には、飼い主の気持ちにに感情移入してしまう。

妾(わたくし)は、猫で御座います

2016年。新潮社「小説新潮」8月号掲載。夏目漱石没後100年の記念企画として書かれた一編。タイトルからして『吾輩は猫である』のオマージュ。

小説新潮 2016年 08 月号 [雑誌]

小説新潮 2016年 08 月号 [雑誌]

 

ネコ視点で飼い主を見るとこんな感じなんですよ。ってあたりを新井素子的な文体で書いてみるとこうなりましたというお話。ネコが一見して悪いことをしたとしても、飼い主を護るためなんだから仕方ないのである(ホントか!)。

ショートショート

「倍倍ケーキ」と「秘密基地」は2017年の偕成社ウェブマガジン掲載。

「お片付けロボット」は2017年。文春文庫。人工知能学会編『人口知能の見る夢はーAIショートショート集』掲載作品。

人工知能の見る夢は AIショートショート集 (文春文庫)

人工知能の見る夢は AIショートショート集 (文春文庫)

 

新井素子はそもそも星新一に見いだされてデビューした作家なので、ショートショートの分野には人一倍懸ける想いがありそう。短編も書けることが判ったのだから、試みにもう少し書いてみてほしいところ。

碁盤事件

2015年。角川春樹事務所のPR誌「ランティエ」12月号掲載作品。

ぬいぐるみに魂を宿らせるのは新井素子の十八番だ。本作ではぬいぐるみのみならず、家庭内のすべてのモノに魂が宿り、この家の主婦である晶子さん殺人未遂事件の謎に迫っていく、一風変わった法廷モノ?。

それでも結局はネコのせいか!まあ、あいつらはそういう種族なので仕方がない。

あとがきでも書いているけど、新井素子が書いた連続殺人事件は、是非読んでみたいと思っているので気長に待ちたいところ。普通のミステリには成り得ないと思うが。

なごみちゃんの大晦日

2018年。静岡新聞日曜版にて連載。

短編を書いただけでも驚きだが、連載!それも新聞掲載で!と、ファン的には驚愕した企画が本作。やらなかっただけで、能力的には十分出来たのではないだろうか?

中学二年の少女が主人公のお話で、かなりジュブナイル路線。掲載誌側の要望でもあったのだろうか?

如何ともしがたい大きな力に対しても、まずは自分に出来ることをしよう。人事を尽くして天命を待てという、ポジティブな問いかけが心に残る、爽やかな読後感の一編。新井素子作品とジュブナイルの相性はとても良いと思うので、思い切って長編化してみても良いのではと思った作品である。

この橋をわたって

この橋をわたって