浅倉秋成の第二作
2013年刊行作品。『ノワール・レヴナント』に続く、浅倉秋成(あさくらあきなり)の第二作である。単行本は講談社BOXレーベルからの登場であった。イラストは中村ゆうひが担当していた。
本作は長らく文庫化されていなかったが、2019年の『教室が、ひとりになるまで』のスマッシュヒット以降、浅倉秋成作品の再評価が進み、角川文庫版が2021年に登場した。解説は杉江松恋(すぎえ まつこい)、カバー装画は模造クリスタルが担当している。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
深夜アニメが大好きな方。お約束的、テンプレート、王道路線的なストーリー展開を愛している方。テンポよくサクサク読める青春小説を読んでみたい方。浅倉秋成作品に興味のある方。張り巡らされた伏線がきれいに回収されていく職人芸を堪能したい方におススメ。
あらすじ
「物語の主人公となって劇的な人生を送ってみませんか?」見るからに胡散臭い中年男、村田静山の提案は思いもよらぬものだった。勝利!幸福!感動!日常をドラマティックに改変する「フラッガーシステム」。平凡な高校生、東條涼一はその被験者となる。ツンデレお嬢様の大接近、悪の秘密組織との魔法バトル、そして意中のヒロイン佐藤さんとの恋の行く末は……。
ここからネタバレ
夢のフラッガーシステム
「フラッガーシステム」は誰もが物語の主人公になれる夢のシステムである。特殊な電波を発信することにより、人々の行動や思考をまるでフィクションのように変容させることが可能である。 「フラッガーシステム」では、あらかじめ組み込まれた300本のシナリオをもとに、以下、三種類の結末を用意する。
- 勝利
- 幸福
- 感動
300本のシナリオは、そのうち299本が深夜アニメを。残る1本は『戦場のメリークリスマス』を参考としている(謎の「戦メリ」推し、作者が好きなのかな)。
「フラッガーシステム」に操作される側の人間の意志は、思い切り誘導操作されるので、人権もへったくれもない非道なシステムではある。
深夜アニメの主人公属性を再現
本作の主人公、東條涼一(とうじょうりょういち)は平凡な男子高校生である。学園系深夜アニメに登場する、主人公キャラのスペックをおおよそ満たしている。彼が「フラッガーシステム」のモニターに採用されたのは以下の理由による。
- 帰宅部
- ツッコミ気質
- 友達が少ない
- 名前がまぁまぁカッコいい
深夜アニメにおける、現代の主人公属性とはこういったものなのであろうか。言われてみるとそれなりに納得感があるような気がする。特に「ツッコミ気質」は大事な要素だよね。
お約束の展開、定番をあえて使い倒す
本作における「フラッガーシステム」の作動時間は、12月1日~31日までの一か月間だ。この間に東條涼一が体験する主な深夜アニメ的展開はこんな感じ。
- 突然両親が海外赴任、一人暮らしに
- 訳アリ少女(ソラ)との自宅同居
- クラスの大半の男子生徒がはしかでダウン
- ツンデレお嬢様(御園生怜香)とのラブコメ
- 学園魔法バトルに巻き込まれる
- メインヒロイン佐藤佳子の余命が僅かに
お約束の展開、定番の物語展開は多用、常用すると野暮ったくなりがちだ。展開も読みやすくなるし、意外性もなく、読み手としては物足りなくも思えてくる。しかし本作においては「フラッガーシステム」に収録されているシナリオなのだからという体裁で、逆に開き直ったかのように、ありがちな展開がてんこ盛りとなっている。ここまで振り切れていると、次はどんなネタが出てくるのか楽しみになってくる。
浅倉秋成の巧みなところは、よくある要素を散々積み上げていったところで、終盤に思いもよらぬアクロバット展開を示して見せる点にある。失敗フラグを延々と折っていった結果が、メインヒロイン佐藤佳子の生命の危機につながる。伏線の魔術師、浅倉秋成の面目躍如とも思えるストーリーテリングの見事さには感嘆させられた。
フィクションとノンフィクションを縫合したい
以上、『フラッガーの方程式』の魅力について書いてきたが、本作にはもう一つ見どころがある。それは巻末の「あとがき」である。
「あとがき」の魅力その1。浅倉秋成の青春時代について知ることができる。
浅倉秋成は写真を見る限り、好青年風のビジュアルなのだが、学生時代はまるでモテなかったらしい。ラブコメアニメのテンプレートを実生活で忠実に再現した結果、貴重な青春の時間をドブ川に捨てることになってしまった体験談。この世界がフィクションだったら、人生もっとうまくいったはずなのに。そんなやるせない思いが綴られていて好感度が上がる(笑)。
「あとがき」の魅力その2。作者、浅倉秋成の作家としての覚悟や、小説観について知ることができる。特に印象的だったのがこちらのフレーズ。
物語に翻弄され、現実を蔑ろにしながらも、やっぱり物語を愛さずにはいられない。とても似ているけれども二つの世界が究極的には絶対に交わることのない別物なのだと理解しながらも、どこかそれを認めきれない。愛と憎しみを胸に、神になったつもりで二つの世界を無理やり縫合してしまおうという壮大な野望具現化させたーー
文庫版『フラッガーの方程式』p500より
物語作家としての浅倉秋成の矜持を伺い知ることができる一節である。もう一つ、この作家の物語観に触れることができるフレーズがこちら。
物語は現実の対極にある逃避先ではなく、現実を楽しく生きるためのよき教師であり、友達であってほしい。
文庫版『フラッガーの方程式』p501より
これは本作に限らず、浅倉秋成全般を通して言えることなのではないかと思う(まだ全策は読めてないけど)。浅倉作品で「あとがき」がついている作品は貴重なので、ファンとしてはこのパートも必読である。
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