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『赤いモレスキンの女』アントワーヌ・ローラン 人は人生を変えられる


小粋な現代のおとぎ話

2020年刊行作品。オリジナルのフランス版は2014年刊行。原題は「La femme au carnet rouge」である。

赤いモレスキンの女 (新潮クレスト・ブックス)

作者のアントワーヌ・ローラン(Antoine Laurain)は1972年生まれ。

2007年にドゥルオー賞を受賞した『行けるなら別の場所で(Ailleurssi je y suis)』がデビュー作。その後2012年の『ミッテランの帽子(Le Chapeau de Mitterrand)』がランデルノー賞、ルレ・デ・ヴォワイヤジュール賞を受賞。一躍知名度を上げた。日本では『赤いモレスキンの女』同様に、新潮クレスト・ブックスから邦訳が刊行されている。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

海外のちょっとオシャレな恋愛小説を読んでみたい方。中年の男女が主人公の恋愛小説を探している方。パリを舞台にした物語を読みたい方。新潮クレスト・ブックスを読みたいけど、どれから読んでいいから悩んでいる方におススメ!

あらすじ

パリで書店を営むローランは、ある朝、ゴミ箱に捨てられたハンドバッグを拾う。ハンドバッグの中には赤いモレスキン。手帖に記された書き込みを読んだ彼は、その持ち主に惹かれ、彼女を探し始める。一方、ハンドバッグを強盗に奪われたロールは、鍵を失い家から閉め出され途方に暮れていた。奇妙な偶然から繋がっていく二人の縁。彼らは果たして無事に出会うことが出来るのか。 

ココからネタバレ

赤いモレスキンの女に惹かれるローラン

物語の舞台はフランス、パリ。主人公のローラン・ルテリエはかつてはエリート金融マンであったが、仕事に虚しさを覚えて、書店業に転身。個人の身でありながら書店主を務めている40代の男。バツイチ。経済紙編集者のドミニクと交際中。別れた妻子との関係は良好で、特に娘のクロエとは頻繁に会う程仲がいい。

ローランは偶然拾ったハンドバッグの持ち主に惹かれ、彼女を探し始める。バッグの中に入っていたのが、タイトルにもなっている「赤いモレスキン」である。

モレスキンは、イタリアモレスキン社が発売している高級ノート。日本で買うとノーマル版でも2,900円もするのだ。

女性の手帖を無断で読むなんて!と後ろめたい気持ちがありながらも、ローランは魅力的な手帖の内容に夢中になり、落とし主である女性を探すことにする。手がかりは彼女のファーストネームと、モレスキンの手帖、クリーニングの伝票だけ。

ここからの探索行は、正直言ってストーカーじみていて、日本でこれやったら逮捕されそう。結果オーライだからいいのかな。外国人男性は皆、これくらい積極的なのだろうか。

面白いのは彼女の自宅を突き止めてからである。彼女の同僚に出くわしたローランだが、既にあまりに彼女のことを調べ過ぎていたので会話が破綻しない(笑)。バッグを拾ったので部屋の鍵まで持っている。偶然とはいえ彼女の飼い猫にも懐かれる始末。結果、見事に彼氏と誤解され、そのまま部屋の管理を託されてしまうのである。この展開はニヤッとさせられる。

自分を探してくれた男に惹かれるロール

物語の後半はヒロイン、ロール・ヴァラディエの視点から描かれる。ロールは四十代の女性で金箔職人。カメラマンであった夫をテロで失っている。ある晩、彼女は強盗に殴られハンドバッグを奪われる。殴られた傷は意外に深く、その後彼女は意識を失い昏睡状態に陥る。

やがて意識が回復した彼女が自宅に帰ると、謎の男が自分の部屋の管理をし、ネコに餌をあげていたくれたことが判る。男はどうやらバッグの拾い主であるらしい。

バッグの中身からロールのところまでにたどり着くにはあまりに手がかりが少なく、この場所にたどり着くまでに、男は相当な苦労をしたであることが伺える。自分に会ったこともなく、見たこともないのにこれほどの苦労して来てくれた。探してくれた。この点にロールは感銘を受け、今度は彼女が男を探そうとする。

女性のバッグにはいったいどれだけの秘密が隠されているのだろうか。ロールのバッグの中には、祖母からもらった手鏡、母親のライター、亡夫と拾った貝殻、少女のころから使っているヘアピン、お守り代わりのサイコロなど。彼女の人生の断片の数々がぎっしりと詰まっていた。バッグは単なるカバンではなく、彼女のこれまでの人生が詰まっていた。

「人生の断片は決して買えない」それだからこそ、バッグを届けてくれた男に対して、ロールはひとかたならぬ恩義と愛着を感じたのであろう。

人は人生を変えられる

お互いに相手を探す時間がある。そして相手を探す時間に想いが深められていく。

ローランにしてもロールにしても、お互い実際に会ったことはなく。その姿すらわからない。与えられているのは人となりを知る僅かな情報だけ。それでも相手に惹かれて、追いかけてしまう。

中年の男女があたらしい恋愛に一歩踏み出すのは、時としてかなりの勇気を要する。相手が自分の理想に近しい人物であれば、それはなおさらかもしれない。そんな二人の背中をグイグイ押してくるのが、ローランの娘クロエであったり、ロールの同僚のウィリアムであったりする。主人公カップルが、やさしい人々に囲まれていることは、本作の印象をより柔らかなものにしているように思える。

ローランの居場所を突き止めながらも、会う勇気が持てないでいるロール。亡夫の葬儀以来はじめて髪を切り、そしてその髪を燃やすロールの姿が実に印象的である。

 

そして最後の二人の出会いのシーン。ローランの台詞「その本はないです。まだ書かれていないと思います」が読み手の心に刺さる。これ、フランス人のイケメンオッサンでないと言えない台詞だと思うけどね。

新潮クレスト・ブックスを読んでみよう!

おまけ。二月に入ってから書くのもどうかと思うが、今年の読書目標は海外(外国)文学をもっと読む!であったりする。海外文学の著名なレーベルと言えば、新潮クレスト・ブックスなのだ。

新潮クレスト・ブックスは1998年に創刊された海外文学、ノンフィクション作品を収録したレーベルである。版元である新潮社のクレスト・ブックス特設コーナーはこちら。

新潮クレスト・ブックスは優れた海外作品を多数収録しており、選書に困ったときはとりあえずクレスト・ブックスを読んでおけばネタには困らない。そして何より、クレスト・ブックスは装丁が格好いいのである。手に取られた際には、是非カバーを外してみて頂きたい。小口の天はギザギザのアンカット(新潮文庫でもお馴染み)。スピン(栞)として深緑色の紐ひもがついている。仮フランス装の独特の造本はカバーを外して読みたくなる。本読みにとっては堪らない魅力に溢れているのだ。

新潮クレスト・ブックスのおススメはこちら 

www.nununi.site