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『ラス・マンチャス通信』平山瑞穂 第16回日本ファンタジーノベル大賞受賞作

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異端として彷徨い続ける男の物語

2004年刊行。第16回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。平山瑞穂(ひらやまみずほ)のデビュー作である。

ラス・マンチャス通信

連作短編形式。幻想小説でありながらホラーの要素もあって、終わってみればビルドゥングスロマン的な側面も多分に持ち合わせたいたという何とも贅沢な作品。

ラス・マンチャスとは「汚点」「穢れ」「呪われたモノ」みたいな意味合いで使われている。どこに行っても異端者。被差別の存在として生きる主人公の彷徨の日々を綴る。世界のあり方が微妙にズレた不思議な物語空間。このズレの匙加減が巧い。

文庫版は2008年に登場。なぜか新潮社からは発売されず、角川文庫から刊行されている。

ラス・マンチャス通信 (角川文庫)

ラス・マンチャス通信 (角川文庫)

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おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

ファンタジーというジャンルの奥深さを堪能したい方。日本ファンタジーノベル大賞系の国産ファンタジー作品を読みたい方。マジックリアリズム的な肌触りのする作品を読んでみたい方におススメ。

あらすじ

僕はとうとう「アレ」を殺してしまった。姉と共にその死体を埋めたとき、僕の少年時代は終わってしまったのかもしれない。施設での日々。ミス矢萩。レストランリトル・ホープでの修業時代。灰の降る町での生活。ゴッチャリ。由紀子との出会い。地を這いずり回るような底辺の暮らしの中で、最後に僕がたどり着いた場所は……。

ここからネタバレ

以下、簡単に各章の雑感。

第一章「畳の兄」

少年時代終わりの日。家族の中で不可触の存在となっていた「アレ」(知的障害者の兄)。出だしは幻想小説っぽい。出だしの陸魚がとにかく気持ち悪くて掴みはバッチリ。姉を犯そうとする「アレ」を撲殺して、施設に送られるところまで。地に足の着いていない現実から感覚が遊離した状態でただひたすら屍体を埋めようとする、姉と弟。いい絵だな。

第二章「混血劇場」

ここからブンガクっぽい雰囲気。施設に送られた主人公。施設での日々と、出所後の最初の職場、レストラン「リトル・ホープ」での暗澹たる日々を描く。最後のトイレでのシーンが秀逸。いつまでたっても終わらない排尿。陰茎を握ったまま立ちつくす主人公となんだかよくわからない男。家族から切り捨てられていく主人公の焦燥感。乾いた絶望感をこんなかたちで表現してくるとは。

第三章「次の奴が棲む町」

イナガワさんの所に送られて、灰の降る町(鹿児島?)で凝固した灰(ゴッチャリ)を取る仕事に就く主人公。とにかく酷い人イナガワさんと、ヒロイン由紀子の登場。トラウマになりそうな初体験。そして「次の奴」の存在。わけのわからないものが、わけのわからないままに放置される恐怖。ここでは濃厚なホラーの香りを満喫させてもらった。

第四章「鬼たちの黄昏」

イナガワさんと由紀子、そして主人公との不毛な同居生活編。この汚れ具合が堪らない。インチキ商法で糊口をしのぎ、どんどん擦れて堕ちていく主人公。姉との再会、そして人間じゃない生物の登場!この話どうなっちゃうんだろうと、手を叩いて喜んだ瞬間だ。スゲー。世界とのズレはもはや修復不能。この先まるで読めない凄い展開に突入していく。

第五章「無毛の覇者」

名前は頻繁に登場していたけど、これまで姿を現すことの無かった小嶋さんが遂に表舞台に。謎の人物の住む山荘へと送られた主人公。嗚呼、こんな酷い最後が用意されていようとは。阿鼻叫喚。それでいて妖しくも美しく魅せるラスト。幕の引き方も粋だ。

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