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『信長の棺』加藤廣 サラリーマン夢のリタイア生活を描く

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75歳作家のデビュー作 

2005年刊行作品。作者の加藤廣(かとうひろし)は1930年生まれ。東大法卒。中小企業金融公庫⇒山一証券⇒フリー。そして小説家に。なんとデビュー時で75歳!

昔はいろいろな経歴を経てから、中年以降に作家デビューってパターンは多かったと思うのだけど、これほどまでの高齢デビューは珍しいよね。残念ながら今年4月に87歳で病没されているが、かなり最近まで執筆は続けていたようで、ホントに凄い。

信長の棺

信長の棺

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文春文庫版は2008年に刊行。文庫化に際して上下巻に分冊されている。

信長の棺 上 (文春文庫) 信長の棺 下 (文春文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

戦国武将なら織田信長が好き!という方。どうして信長は殺されたのか。日本史史上最大のミステリが気になって仕方ないという方。年を取ってからも、生き生きと自分らしく過ごしたい。理想の老境というものを見てみたい方におススメ。

あらすじ

天正10年6月2日。京都本能寺に滞在していた織田信長は、明智光秀の謀反により命を落とす。光秀は何故信長を討ったのか。そして毛利軍と対峙していた羽柴秀吉は、奇跡的な中国大返しを何故成功させることが出来たのか。謎を解く鍵は本能寺から消えた信長の遺骸にあった!信長の遺臣太田牛一は歴史の闇に潜む、禁断の秘密に迫っていく

ここからネタバレ

主人公は太田牛一

刊行当時、小泉首相も読んでいる本としてちょっと話題になった作品。本能寺の変にまつわる数々の異聞を取り込んだ歴史ミステリ。主人公は信長についての一級史料『信長公記』を著した実在の人物である太田牛一(おおたぎゅういち /うしかず/ごいち)。

熱狂的な信長信者で歴史家でもある牛一をナビゲータにしたのはなかなか面白い。ちなみに2006年11月にテレビでドラマスペシャルとしても放映されている。この時牛一役は松本幸四郎だった。

リタイアしたらこんな風に暮らしたい

手っ取り早くまとめると「サラリーマン夢のリタイア生活」。二大英雄に仕え、戦国の乱世をそれなりに生き抜いて、悠々自適の生活に。社会的にも評価され、知的水準は高く、金には困らず、コネも沢山ある。家族や親類縁者の束縛もなく、体は健康で、娘のように若い女も言い寄ってくる。当然夜の生活もまだまだ現役。男としてはあこがれの老後であろう。うがった見方なのかもしれないが、この作品が売れたのはこうしたキャラクター設定の勝利もあったのではないかと思う。

信長の死の真相は?

では、肝心の本編について。信長の死後は秀吉に仕え、老齢に入り無事に引退することが出来た主人公が、旧主信長の死について真相を求め各地を訪ね歩く展開となっている。信長の遺骸が何処に?という謎の設定は面白いのだが、真相に至るまでの筋運びが強引過ぎるような……。

何の根拠もない白日夢を謎ときの手がかりにされてビックリ。主人公は仮にも歴史家なわけだし、どうせフィクションなんだし(あれ)、嘘でもいいから架空の証言なり、史料なりを創作してしまえば良かったのに。最終的な回答に至る展開も、嫁さんの実家に挨拶に行ったら、真相を知っている人が偶然にも親戚でしたって、脱力するしかないような結末で、なんとも肩すかしなのであった。

ここまでして期待させておいた信長の死の真相についても正直期待外れ。それってそんなに大事な事だったのだろうか。秀吉の出生の秘密とか、桶狭間合戦の真相とかも聞いたよう話で意外性も無し。『信長公記』のバージョン違いが誕生する経緯の描写はなかなか面白いと思ったので、見てきたような嘘をつく歴史ミステリとして、まったくダメかというとそうでもないのだ。

このシリーズ、秀吉編の『秀吉の枷』、光秀編の『明智左馬助の恋』と続いているようなので、今後いちおう追いかけては見るつもり。巻き返しに期待。

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