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『女信長』佐藤賢一 織田信長女体化の先駆的作品

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佐藤賢一初の日本史モノは、信長女体化の先駆けに!

2006年刊行作品。西洋史をテーマとした歴史小説ばかりを書いていた佐藤賢一としては初の日本史モノとなる。

女信長

新潮文庫版が2012年に刊行されている。解説は文芸評論家の井家上隆幸(いけがみたかゆき)が担当している。

タイトルが既にネタバレ。って、まあちょっと読めばバレバレなのだが。タイトルを読んで字の如く、信長が実は女だった!というトンデモ視点で既存の信長物語を綺麗にひっくりかえして見せた作品。父信秀の酔狂で織田家の家督を託されてしまったお長(信長)が、数々の部下、戦国大名と一夜を共にしながら天下布武への道を突き進んでいく物語だ。

いまでは織田信長の女体化はゲームでも小説でもマンガでも世に溢れまくっている。その女体化の歴史を調べた方によると、最古の例は本作なのだという!マジか!すげーぞサトケン!

なお、信長女体化の嚆矢は本作っぽいのだが、先駆けること7年前の、1999年に信長のアンドロギュノス(両性具有)化が宇月原晴明によってなされているので、こちらの作品もあなどれないぞ。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

戦国時代を舞台とした歴史小説がお好きな方。織田信長像のバリエーションを追求してみたい方。どんな織田信長が出てきても受け入れる度量のある方。佐藤賢一の書いた戦国モノを読んでみたい方におススメ。

ここからネタバレ

あらすじ

尾張の小大名織田信秀は世継ぎとして「娘」のお長を世継ぎに決め、男として育てあげる。それは狂気、はたまた酔狂?それとも大英断なのか?信長を名乗り天下布武を掲げ戦乱の世に乗り出していくお長。舅、斉藤道三との衝撃的な出会い。同盟者、浅井長政の裏切り。そして叛逆者、明智光秀との出会い。本能寺でお長で最後に見たものは何だったのか。

信長が女性だったらすべての平仄があう(笑)

日本史上空前の革命児と呼ばれた信長も、実は女性だったということになれば、天下布武⇒戦争反対!、鉄砲の採用⇒体力が無かったから、楽市楽座⇒物が高いのはイヤン、やたらに家臣に冷たかった⇒ヒステリーで済んでしまうという恐ろしさ。斉藤道三との初対面シーン⇒ロストバージンで、もういきなりもの凄い衝撃的な展開に悶絶させられた。道三がやたらに信長に甘かったのは自分の女だったからなのだ。弟信行との家督争いの際には、カラダを使って柴田勝家を陣営に引き入れる。そして年下のイケメン大名浅井長政には、一目会った瞬間からベタ惚れ。しばらく長政の夜の奴隷になってるんだけど……。そりゃ金の髑髏にして酒盃を作りたくもなるか。とはいえ、ここまでは既存の信長ストーリーの視点を変えて見せているだけなのであまり新鮮味は無い。

明智光秀のキャラもいい!

やや持ち直すのは明智光秀が出てきてからだろう。西洋事情に明るく、当時の日本人としては画期的な先見性を持っていた光秀は信長の合理的(に見える)施策をことごとく支持。女の感性で突っ走っていた信長の天下統一事業に論理的整合性を与えていく。「言うこと聞かないなら、軽く焼いちゃえばいいかな」なんて思っていた比叡山も。光秀にかかると「なるほど!本願寺への見せしめなのですね。なら全山皆殺しで!」と素敵な献策をしてくる始末。この変のギャップは楽しかった。

一方で秀吉は冷遇

一方で、猿面の醜男秀吉には全く興味無かったようで、美貌の主君に一顧だにされなかった恨みが秀吉の天下取りの野望につながるのだから面白い。家康は家康で尾張家人質時代に出会った、美少女モードの信長の面影故に生涯忠実な同盟者として振る舞っていたらしい。光秀との関係を描くのに多くの紙面を割いている関係で、秀吉や家康の出番はかなり少なめで残念なのだが、説明しすぎないこともバランス的には大事なので、これくらいが丁度良かったのかもしれない。

信長が女だったらこんな本能寺の変

終盤。信長と光秀が男女の仲だったという視点で考えると、本能寺の変はこんな謎解きが出来るのだ。と、新解釈を示して見せた部分もまあ満足か。人口に膾炙した光秀=天海説もここで生きてくるわけだ。惜しむらくは帰蝶(お濃)の出番が最後に無かった事。正室ではなく、信長の唯一の女友達として描かれていたキャラクターだけにきちんとその後を追って欲しかった。

相変わらず女性の見方が一面的過ぎるのが、良くも悪くもサトケン作品なので好き嫌いの別れる作品だろう。ちょっと毛色の変わった戦国モノを読んでみたい向きにはオススメ。

女信長

女信長

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舞台版とテレビ版がある!

ちなみに本作は2009年に黒木メイサ主演で舞台化されている。

また、2013年には天海祐希の信長でドラマ化されているのだけれども、わたし的には未見。さんざん叩かれてたけど、どうだったんだろうね。

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