初の非安藤直樹シリーズ
2001年刊行作品。浦賀和宏(うらがかずひろ)の六作目。浦賀和宏はメフィスト賞受賞作の『記憶の果て』以降、安藤直樹シリーズをずっと書いてきた。しかし、六作目にしてようやく、非安藤シリーズ作品を書いてみたのがこちらの『眠りの牢獄』である。
浦賀作品としては画期的な薄さ(163ページ)。当時の最長作品『時の鳥籠』の1/3である。こんなに薄い講談社ノベルスって実はけっこう稀少かもしれない。
随分長いこと文庫化されなかったが、2013年に講談社文庫版がようやく刊行された。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
クローズドサークル(閉鎖的な環境下)で展開する、息詰まる心理戦を堪能したい方。非安藤系の浦賀和宏作品を読んでみたい方。想像を超えたアクロバティックな展開のミステリ作品を探している方におススメ。
あらすじ
核シェルターに閉じこめられた三人の青年。かつてそこでは一人の女性が事故に遭い、昏睡状態に陥っていた。彼らを監禁したのは彼女の実兄。事件の真実、「誰が彼女を突き落としたのか」を犯人が告白することが解放の条件だった。閉鎖空間の中で徐々に追いつめられていく三人。明かされる秘密。そして……。
ここからネタバレ
主人公が「浦賀」
ということで、待望の本作(当時)だったのだが、読み始めてまず驚くのは、主人公の姓が「浦賀」だということだろうか。なんと、作家デビュー当初から現在に至るまでの経緯が本人の視点で語られていくのである。
うわ、これは中々に痛々しい。浦賀と二人の友人北澤と吉野、彼らの間で起こった忌まわしい事件について語りつつ、その一方でストーカー女性がメル友との間で交換殺人の計画を練るエピソードが展開され、二つのストーリーが交互に綴られていく。
北澤が「博」であるのはすぐ判るし、吉野の食人行為も理由は察しがついてしまう。なんだか今回の作品はページ数も少ないしこれで終わっちゃうの?なんて物足りなく思っていると最後にはやっぱりいつもの浦賀的カタストロフィが待っていた(笑)。
嘘は嘘の中に
ああ成る程。嘘は嘘の中に隠すのが正しい。よくよく読んでみれば1ページ目から伏線貼りまくりなのであった。亜矢子との一夜も吉野の告白も修学旅行の一件もみんなみんな伏線!途中で気付けよ>自分。そう考えてみると主人公の姓を作者自身と同じにしたのもトラップなのですな。よくあるネタではあるけれど、実に爽快に騙されてしまった。
非安藤シリーズではあるけれど、寒々とした心象風景は従来の安藤シリーズと全然変わっておらず、ファン的には非常に安心した一作。というか、いつも以上に壊れてた。やるせないラストもいつも通り。浦賀作品にハッピーエンドは似合わないよね。