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『大友二階崩れ』赤神諒 義と愛どちらを選ぶべきか?

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第9回日経小説大賞受賞作

2018年刊行作品。第9回の日経小説大賞の受賞作である。作者の赤神諒(あかがみりょう、神は旧字)は1972年生まれ。本名は、越智敏裕。上智大学法科大学院の現役教授で、弁護士。

大友二階崩れ

大友二階崩れ

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文庫化は講談社から行われている。2020年の刊行。

大友二階崩れ (講談社文庫)

赤神諒の恐ろしいところは、デビュー後の異常な量産ぶりである。本作以降の作品リストは以下の通り。

  • 『大友二階崩れ』(日本経済新聞出版社、2018年
  • 『大友の聖将』(角川春樹事務所、2018年)
  • 『大友落月記』(日本経済新聞出版社、2018年)
  • 『神遊の城』(講談社、2018年)
  • 『酔象の流儀 朝倉盛衰記』(講談社、2018年)
  • 『戦神』(角川春樹事務所、2019年)
  • 『妙麟』(光文社、2019年)
  • 『計策師 甲駿相三国同盟異聞』(朝日新聞出版社、2019年)
  • 『空貝 村上水軍の神姫』(講談社、2020年)
  • 『北前船用心棒 赤穂ノ湊 犬侍見参』(小学館、2020年)
  • 『立花三将伝』(講談社、2020年)

デビューから三年で十一作を上梓しているのである。

おそらくは、デビュー以前から書き溜めていたり、構想を温めていた作品が少なからずあるのだろうが、それにしても早すぎる。歴史小説は、たとえフィクションとはいえ、ベースとしては史実を踏まえなくてはならない。それだけに執筆対象の調査、検証に少なからず時間がかかる筈なのだが、本職の教授業もあるだろうに、この作家の頭の中はどうなっているのだろうか?

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

歴史小説が好き、特に戦国時代を舞台とした作品が好き!という方。大友家ファン。九州の戦国時代を描いた作品を読んでみたい方。赤神諒作品を読んでみたいけど、どの作品から読んでいいか悩んでいる方におススメ。

あらすじ

1550(天文19)年、豊後の戦国大名大友義鑑は、嫡男である義鎮を廃嫡して、愛妾が生んだ三男の塩市丸を世継ぎにしようと企てる。重臣の吉弘鑑理は理不尽な命令に反発を覚えるが主命には逆らえず、実弟の鑑広と共に義鎮を失脚させるために兵を動かす。しかし反義鑑派の動きは早く、ここに大友家を揺るがす「大友二階崩れの変」が勃発する。

ここからネタバレ

大友二階崩れって?

あらすじでも書いたけど、詳しくはこちらを参照のほど(手抜き)。

ja.wikipedia.org

大友家といっても一般的な知名度があるのは大友宗麟(本作でもちょっと出てきてはいるがまだ若い)以降だろう。それだけに、大友二階崩れという事件を知る人はかなりの戦国マニアであろう。知られていない分だけ、展開に予想がつかず、どこに物語が着地するのかがなかなか読めない。

主君に忠誠を誓うあまりに、いきなりお家断絶の窮地に追い込まれる吉弘兄弟の運命はどうなるのか?序盤から、緊迫感の高い場面が登場し、読み手は一気に引き込まれる。このあたりの導入部分はなかなかに上手い。

対照的な二人の兄弟

長年労苦を共にし、吉弘の家を護ってきた二人だが、その価値観は対照的である。兄の吉弘左近鑑理(あきただ)が、ひたすら義の道に生き、主家への忠節を貫こうとするのに対して、弟の吉弘右近鑑広(あきひろ)は家族が大事、家の存続こそが第一であるとする。本作の初期タイトル(刊行前)は『義と愛と』である。この物語では全く異なる理想を掲げる兄弟の絆と葛藤を描いていく。

鑑理が信じる義の道は艱難辛苦である。まず主君義鑑の命で嫌々ながらも、塩市丸を担ぐことになるが、早々に義鎮派が反撃を開始し「大友二階崩れの変」が起きてしまう。立場はたちまち逆転し、一気に家名断絶の危地に陥る。その後も、再三の抵抗の機会をことごとく見逃し(いちいちお膳立てしてはスルーされる紹兵衛の我慢強さは異常)、最後には弟、鑑広の命すらも失うことになってしまう。

「義」もほどほどにした方が……

わたしのような自分至上主義の現代人的な価値観の人間から見ると、鑑理の義理堅さは異常に見えてしまう。鑑理の掲げるような義の概念が江戸時代ならいざ知らず、血で血を洗う戦国時代に存在しえたのかどうかは疑わしいところだ。誰よりも家族を想いながらも、結局は兄の理想に殉じる形になってしまう鑑広がホントに可哀そう。

鑑理が義を貫き通した結果として、吉弘家は改易を免れるのだが、これってあくまでも結果オーライだよね。美しい兄弟愛、家族愛と言いたいところだろうけど、きれいごと過ぎて釈然としない読者はわたしだけであろうか。

まあ、ここで吉弘家が続かないと、高橋紹雲(鑑理の子)も立花宗茂(鑑理の孫)も登場しないので、戦国史的にはこれで良かったのかもしれないけど。