基本ネタバレありなので注意してね。
現在試行錯誤中につき、デザインころころ変わってます
しばらくしたら落ち着くと思うのでご容赦下さいませ

古野まほろ『天帝のつかわせる御矢』シリーズ第二弾は豪華列車内での密室殺人事件

「天帝」シリーズ第二弾!

2007年刊行。シリーズ二作目。

天帝のつかわせる御矢 (講談社ノベルス)

天帝のつかわせる御矢 (講談社ノベルス)

 

2012年に幻冬舎文庫版が出ている。現在、手に入るのはこちらの方かな。

天帝のつかわせる御矢 (幻冬舎文庫)

天帝のつかわせる御矢 (幻冬舎文庫)

 

前巻のお話の結果として、満州送りとなってしまった我らが破廉恥主人公古野まほろ君が、日本へ戻ってくるまでのお話。異常なまでのルビの多用。一般人置いてけぼりのオタク用語の濫用。ほとんど壊れている主人公。終盤での超絶展開。とにかくあらゆる意味で濃かったあのお話の続編が登場である。今回は超豪華列車殺人事件だ。

あらすじ

古野まほろは満州帝国帝都新京に居た。戦況の悪化に伴い、日本へ帰国することになった彼に超特急あじあ神武号の乗車券が用意される。旧友柏木との再会。その悦びに浸る間もなく、彼にはとある使命が課せられる。伝説の間諜「使者」と接触せよとの修野嬢の命令が意図するものは何か?時を置かずして発生した列車内での密室殺人にまほろたちは巻き込まれていく。

まず、ここで設定について確認

1990年代のお話のようだけど、この物語は通常とは異なる歴史を経ている。満州国は東西に分かれながらも未だ健在で、西はロシア寄り。東(満州帝国)は日本寄りか?東西満州は交戦状態にあり、西が優勢で東の首都新京は陥落寸前の模様。そして沿海州には旧ロシア帝国の流れを汲む沿海州帝国が存在している。

樺太から間宮トンネルを通じて北海道へと鉄道路線が貫通しており、一方朝鮮半島とは対馬トンネルを通じて九州へと鉄道が貫通している。かくしてここに環大東亜特別急行が成立。かつての満鉄を彷彿とさせる環鉄は強大な権力を有しており、沿線の司法権すら所有している。環鉄の誇る超々豪華列車特別急行「あじあ」号が今回の舞台。ちなみにこの区間は新幹線も走ってるぞ。鉄な人にはちょっと嬉しい。あじあ号は9両編成で、客室は僅かに12室。採算度外視、環鉄のフラッグシップ的存在のようだ。しかしこの作者の設定オタクぶりは相変わらず凄い。

乗客は、皇族、閣僚、他国の爵位所有者、富豪令嬢、軍人、ジャーナリスト等々。基本セレブしか乗れない列車なので、庶民の主人公は著しく浮いている。既存キャラからは、頸草館高校吹奏楽部部長柏木君が登場。やっぱり常識人が一人はいないと話が進まない。前巻でファーストキスまで体験済の二人。主人公の柏木君への猛烈な愛の波動が心底気持ち悪い。恐るべしは両刀遣いである。

ミステリの王道、豪華列車内での密室殺人

ミステリ的には、豪華列車での密室殺人を扱ったものとなっている。前巻の過剰装飾に比べると、意外にあっさりしていて楽に読める。オタクネタもちょっとだけ成分控えめ。同世代のキャラクターが激減して、青春小説としての要素が薄れていることも大きいかな。その分ミステリ部分に集中出来たのか、ミステリ作品としては前作よりもこちらの方が出来が良い。

今回も長い(600頁)だけあって、鉄道ミステリの要素をふんだんに取り込んでいて興味深い。豪華列車の殺人事件として忘れてはならないクリスティの『オリエント急行の殺人』にきっちりと敬意を表しつつも、当然違う展開を用意。終盤の推理合戦は健在でこれがとても面白い。特に瀬見仁美紗嬢の展開した鉄道ミステリならではの推理は、大仕掛け過ぎてさすがに無理だと思うが、鉄オタ的には驚喜しそうな魅惑のトリックだった。

全体の90%は至ってまっとう。真摯にそしてロジカルに紡がれた本格ミステリ作品に仕上がっている。主人公のキャラクターが特殊過ぎるので読者を選ぶかもしれないけど、ミステリとして決して悪くはない出来だと思う。

由香里ちゃん、嗚呼、由香里ちゃん

が、それも由香里ちゃんが登場するまでの話……。ああ、由香里ちゃん酷すぎる。一人死んでは地味にちまちま推理してって真面目に検証しながら話を進めてきたのが全て水泡に!この子が出てきた途端に阿鼻叫喚の地獄絵図が現出。瞬く間に死体の山が量産されていくのだけど、でもそれがイイ!前巻ラストの究極展開を見てきた読者は、いつ彼女が出てくるかとワクワクしながら待ち続けていただけに、期待を裏切らない暴虐ぶりに大満足。やはりこのシリーズはこうでなくてはなるまい。

終盤。伝奇小説モードに切り替わってからのめくるめく展開は相変わらずお見事。超人VS一般人ということで、どう考えても分が悪い柏木だったけどよく頑張った。親友が死にそうなのに、相変わらずリビドー全開で欲情している主人公も外道に徹していて良きかな良きかな。

探偵行為が大好きな主人公に、それならば心ゆくまで探偵役を堪能させてあげましょう。好みの女の子もサービスでつけちゃうわ(はーと)。という由香里ちゃんの悪意てんこ盛りのお膳立てが痺れる。地味に積み重ねてきた探偵行為を完膚無きまでにたたき壊してみせるのは、これもアンチミステリ見せ方の一つなのかと感心してみたりして。

前巻の感想はこちらから。

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