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『黄金旅風』飯嶋和一 希代の朱印船貿易家の物語

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末次平左衛門(二代目平蔵)の物語

2004年刊行。飯嶋和一(いいじま かずいち)の五作目の作品。

黄金旅風

小学館文庫版は2008年に登場している。

黄金旅風〔小学館文庫〕

飯嶋和一は1988年デビューなのに、本書刊行時の2004年でようやく五作目!なんと三年に一冊のペースである。とにかく寡作な作家なので新刊は貴重なのだ。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

骨太の歴史小説を読みたい方。読んでいると血が滾る。読者にまで物語の熱量が伝わってくるような「密度の濃い」作品を探している方。江戸時代初期の長崎、海外貿易について興味がある方におススメ。

あらすじ

江戸時代初期。三代将軍家光の治世。徳川政権による中央集権化が進み、急速に閉塞感を増しつつあったこの時代。長崎は海外に向けて開かれた数少ない港湾都市の一つだった。新たに赴任した長崎奉行竹中采女正は、南蛮貿易の利権を独占すべく苛烈な取り締まりを始める。長崎代官の放蕩息子平蔵は父の急死により急遽代官職を継承。内町火消組頭、平尾才介と共に、采女正の圧政に立ち向かっていく。

ココからネタバレ

才介の退場が早すぎる

「金屋町の放蕩息子」こと、末次平左衛門(二代目平蔵)と、「平戸町の悪童」こと、平尾才介。この二人を軸に物語が展開していくのかと思いきや、才介があっさり序盤で死んでしまったときには愕然とした。何かの間違いか、それとも死んだことになってるけど実は生きてるのか、はたまた叙述トリックなのか(この作家に限ってそれは無いだろうけど)、しばらく混乱から立ち直れなかった。

帯のコピー文では、この二人が長崎の人々を救った!みたいに書いてあるのだが、実際の内容とはズレているように思えた。余計な先入観を読む前に与えないようにしてほしいものである。

文体の力強さに痺れる

毎回書いてるけど、僅かに残された史実を肉付けして、彩り豊かな色彩を与えて蘇らせる作家としての確かな手腕は本当に驚嘆に値する。余程、丁寧に下調べをして書いているのだろうが、単に資料を集めて細部を描き込んだだけではこの重厚感溢れる筆致は再現出来ないだろう。そして文章そのものに宿る凛とした力強さも魅力の一つだろう。読む方の姿勢まで正してしまいそうな勢いが飯嶋和一の作品にはある。

いろいろ惜しい作品

って、褒めまくっておいて、続いて惜しかった部分。

強大な権力に立ち向かう草莽の人々。虐げられた者たちの不撓不屈の闘いを描くのは飯嶋作品に共通するモチーフだが、今回は主役の平蔵の立ち位置がなんとも微妙で難しい。適度に偉いんだよなこの人。

権力側の人間として登場する采女正が弁解の余地がまるで無い悪党であるのも、あまりに勧善懲悪な筋書きで乗り切れなかった部分である。やっぱり庶民代表の才介をあんな最初の段階で死なせてしまったのが失敗だったと思う。ある程度は史実を読み込んで作劇しているのだろうからいかんともしがたい部分なのかもしれないが……。

 

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